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最終話 当て馬愛し

謁見の間に案内されて、ベルと私は王の待つ玉座へ向かって赤い絨毯の上を歩く。


王の前に立ち、恭しく頭を立てれ

「この度は──」と始めようとしたところで王からまったがかかった。


「堅苦しいのは無にしましょう」

そういって王が笑った。その目じりに出来る皺がアル王子とそっくりで、あぁ親子なんだって思う。


この部屋には、王と王妃とアル王子しかおらず、確かに通常の謁見であれば横には騎士や執事などが並ぶはずなのだが、そうなっていないという事は、最初からこれを想定されていたのだろう。


王と王妃だけかとおもいきや、アル王子がいたのには実は驚いていた。


だって、そうすると──あの人もいるかも。

私は何気なく辺りを見回す態で確認する。


しかし、夜色のローブは見当たらなかった。


──よかった、あの人はいない。


もし、会ってしまったら、こうやって落ちついていられる自信がない。


「クラァス姫、お元気な姿を見せて頂けて私たちも安心しました」

王妃様が優しく言ってくれる、その夜色の瞳があの人と同じで。

「い……いえ、長い間すみませんでした」

その瞳に見惚れてしまい上手く言葉がだせない。


「姉がこうやって元気でいられるのも、ピコランダの皆様が手厚い看護してくださったおかげです、本当にありがとうございました。」

うまくベルが引き取ってくれた


──ありがとうベル。


するとアル王子が変わらない優しい声で言う。

「私たちがこうやって王家として存続できたのも、クラァス姫のお蔭です。」

次々に寄せられる感謝に戸惑ってしまう。


そして、お見合いの話を白紙に戻させてもらいたいこと。

それについては、後程ファルゴアへも正式に書面を送らせてもらいたいとアル王子からも改めて謝罪が入った。


だから、私は本音をそのまま伝える。

「私は、この国にきてから……この国が好きになりました。

 だから、この国の力になれたのならこれほど嬉しいことはないんです。

 私はアル王子の運命の人ではなかったようですが」

ここで自然と微笑む。

息を吐くほど楽に言葉が出てきた。

「アル王子には心から幸せになってもらいたい。

 そう、祈ってます」

心が穏やかに澄み渡っていく。

私の心が嘘偽りないとピコランダの王族に伝わっただろうか。


そう思い一人一人の顔をみる。


王も王妃もアル王子もにっこりと笑ってくれた。

「この国を救って頂いた、英雄クラァス姫には何かお礼をさせていただきたいのだが」

そんな恐れ多い、そうおもって

「そんな、お気遣いは無用です──」

そう断りを入れようとしたとき、ふっと思い出した。もうそれは無意識に近く口をついてでていた。


「私が英雄というなら、そんな私を助けてくれたラル殿下……ラル殿下に休暇をあげて欲しいと思うんです。

 自由に自分の好きなものが研究できる時間が欲しいっておっしゃっていたので、お忙しいとは思いますが、私からの願いという事で聞き入れていただけませんでしょうか?」


一瞬、空気が止まった。

しまった……私は何言ってるの?


他国の姫がそんな大国の王子の休暇をお願いするとか、なに、おかしなこと言ってるの。

あぁぁ……もう、王子なんだから休暇ぐらい自分でなんとかするわよ。


あわてて、取り消しをしようとしたところで

「わかりました!」

と王が今までより少し声を張って答えてくれた。

私は、あたふたして開いた口をなんとか閉じて俯いた。


王妃がすかさず

「実は、今夜、身内だけの小さなパーティーを開きたいって思ってるのよ。」

と提案をされた。


事後処理を手伝っていたレヒューラが一旦帰国していて、まだ終わっていない書類作成の為に今夜ピコランダに戻ってくるという。


私の回復祝いとレヒューラの慰労も含めて、身内だけのパーティーを開きたいという。


「ただ、クラァス姫はお体の事もあるし、無理はしてほしくないのだけど」


心配そうに王妃は私を見つめる。


私は……無理だって思った。

今、あの人がいないから平気でいられる。


会ってしまったら、あの瞳を見てしまったら、私の気持ちを言わずに居られるだろうか。


パーティーにはきっと彼もくるだろう

気持ちを伝えたら

嫌われてしまう

嫌われるのは


……いやだ。


帰ろう、そう思った。


体調のせいにして、この謁見がおわったらファルゴアへ帰ろう。

そう伝える為に口を開いた時

「ええ!是非参加させて頂きたいと思いますが」

ベルが突然口をはさんだ

「え?ちょっとまってベル、あのね」

わたしの静止もきかず

「ただ、姉は今、すこし不安定な状態ですので、一旦部屋にもどっておちついてからお返事させていただけませんでしょうか?」

私には有無を言わせず、ピコランダ側にも失礼のない対応。


本当に妹はたくましくなった。

そうだ、ここで断っては角が立つものね。

納得して私からも頭を下げた。


「わかりました、良いお返事をお待ちしてますよ。」


そういって、王達は奥の部屋へ帰っていった。

私たちもこの部屋から下がる。

赤い絨毯を扉に向かって歩く。


と──目の端に夜色ローブがひるがえった!


扉の横──柱に背をもたせかけ、腕を組んだラル王子が、


……いた。


なんで?いるの?さっきまでいなかったのに。

頭が混乱するけど、私はとにかく彼を見なかった事にしようとした。


会ってない

会ってないよ、私は。


だからこのまま部屋に帰ろう

そして──ファルゴアに帰るんだ!


速度を速めて彼の横を何食わぬ顔をして通り過ぎる。

どんな顔をしてるのか見る事なんてできるわけがない。


だって、

見てないからっ、

会ってないから!!


扉を通って廊下にでる。

ベルの足音だけが私の後ろにいる。


いいのだ……これでいいの。


会わないし

想いも伝えない


当て馬記録更新!!!!


それで、もう疲れて……もう尼になる。

恋に疲れて修道院にはいります。

これでいいよね!!


「おねぇちゃん!」

腕を両手で掴まれ、その場に止められる。


思いの外、強い力だった。

そんな力がベルにあったなんて。

「驚愕」

怒りを含んだ厳しい口調でベルが言う。

「混乱・誤魔化し」

妹が私の心を言い表し始める。

私の前に回り込んでさらに続ける。

「苦悩・遁走・諦め」

「やめてベル」

なんとか絞り出した声が震えている。

静かに深く心に刺さってくる。


「逃げてるよね──自分の心からもっと深くまで私が言ってもいいの?」

強い。そして、甘える事は出来ない。

そんな声……。


私は首を振るのが精いっぱいだった。


そんな私に、今度はとびっきり優しく微笑えんでベルは私の頬をぬぐった。

私──泣いてるの?

「……怖いよ……私」

声が震えて、嗚咽と一緒に絞り出した。

そんな私の瞳をじっと見つめながら

「確かめてみたら?」

そう、真剣に伝えてくる。


それが──何を意味するか?

期待しても、いいのだろうか。


するとベルは力強く私に宣言する。


「今年はね。竜を狩るわよ私!」


「え? それって」───その言葉が終わった時。


後ろで謁見の間の扉が大きな音を立てて開いた。

ベルが「先言ってるね」と声を出さずに口だけ動かす。


私は、小さく頷いた。


妹はさっと踵を返し部屋へ向かって歩き去る。

後ろから足音が近づいてくる。


あぁ、彼の足音だ。

たぶん、3歩ぐらい。

離れたところで彼が止まった。


「おい……」


静かにかけられるその声は、何かを押し殺すようにいつもより低くかすれていた。


心臓が跳ねる。


声だけで、動揺してしまう。

全身が熱くなって、きっと顔は既に真っ赤だろう。


自分の息がやけに大きく聞こえて、ついつい息を止めてしまう。


「こっちむけよ」

無理、向けないっ。向いたらもう……気持ちが止められない。


首を小さく振る。


舌打ちして彼は「面倒だ」と呟いた。

落とした目線のすぐ近くに魔法陣が現れる。

え? こんな目の前に空間移動?!!

え? 無理無理!!!

パニックになって踵を返し逃げようとした。


「簡単にひっかかんな」

逃げたはずなのに、振り向いたら彼がいて、ストンと抱きしめられていた。


え? あれは、ん?

そっちにいくぞーっていって──来なかったってこと?腕の中で固まった私。

そんな事より……これは、どうしたら。

とにかく目を合わせられない。


目を合わさないように俯く。


すると彼は

「オレの勘違い……だったって事か?」

弱気につぶやかれ震える声。

あの書庫で自分を責め続けていた時と同じ彼の声っ。


違うの!!!


私ははじかれるように彼の瞳の奥をとらえた。


瞬間!!

竜の力が未来予知のように強制的にひらいた!!!


え?うそ──私今能力使ってないよ──そう思いながら、もう彼の心が私に……流れ込んでくる。


彼の気持ち。

まるで蜂蜜の中に沈むように、

甘い……これは私に向けられている思いだ。


うあぁ、私への想いがあふれてくる。


こんなにも強く思われる。

そして激しく求められる。


こんな世界があったのか。


涙が溢れる

思いもあふれる。

私が好きな人が……私を好きでいてくれた。


すべての感覚が言っている。

私をなすすべてが彼を求めている。


そしてその言葉があふれだした。


「あなたが……好きです……」


その言葉を聞くか聞かないか、彼は私の唇を自分のそれでふさぐ。

彼が求めてやまない、私も答えて求める。

激しくなるキスに、頭がぼーっとしてくる。


息苦しさに「……ラル」そうつぶやくと、


彼は、ふっと笑って唇をはなし、私を抱きしめた。


優しく、でも強引に私は彼の腕の中に包まれる。

そして

「もう一度呼んで……名前」

そうささやかれるお願いに私も素直に答える。

「ラル……おう」

「王子とかいらね」

改まると、少し勇気がいる。

でも、彼の心が今もずっと私に甘く語りかけるから、勇気はすぐに出た。


「……ラル」


そういうとラルは私の瞳を覗き込む。

大好きな夜色の瞳が私を捕えて離さない。


「好きだ……クララ」


それは……ずるい

甘く、私をどこまでも甘やかす声が──私の愛称を愛おしそうに呼んだ。


名前一つでこんなにも心が幸せになるなんて。

夢が現実になる。


「自由な時間が出来たら、俺はクララを甘やかす」

「え?」

「ちゃんと甘やかすっていったろ?」

「うそ……あれは夢で……」

「俺がどんだけ自制してたかわかんねーだろう」

そう言ってラルは私のおでこに、自分のでこをコツンと合わせてくる。

「あ!でも、休暇がもらえたら竜の事調べてよ。

 お願いしといたから」

「お前の望む事を叶える事が俺のやりたい事だから」

そう言ってラルは私を横抱きにする。

おおおお!

こんなところで『お姫様抱っこ』ですか?

っていうか──その前のその言葉、あのあの!


と私があたふたする間に開いた窓から彼が飛び出す。


心地いい浮遊感。

肌にあたる風が涙を乾かしていく。

ラルに抱かれて飛ぶ。安心感がわたしの心を軽くしていく。

そのまま飛んで彼は書庫の一番高い屋根に降り立った。


そして

「お前の為に飛ぶことが俺の為に飛ぶこと」

そう宣言した。

それって、あの伝記のピコランダの英雄と天馬の伝説の天馬の言葉。


あたしが天馬じゃなかった、私の為に飛んでくれる夜色の天馬がここに居た。


愛おしくてラルの首に抱きついた。


そして、私も宣言する。

「永遠に……離れない」


唇が重なる。

流れるように自然に──あの夜はきっとこうなる私たちの未来予知だったのかもしれない。


愛してる……貴方を……


永遠に。




Fin

これにてめでたしめでたしです。

最終話までお付き合い頂きありがとうございますm(__)m


評価、ブックマークありがとうございました。

よろしければ感想とか頂けたらとても嬉しいです。

ご意見とか誤字脱字とかお気軽に!


ありがとうございました。

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