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第三十八話 当て馬目覚めし

体に力が満ちるのがわかる。

竜が優しくすり寄り『おかえり』と言って地上を示した。


そうか、私はここで眠りながら癒されていたのね。

そう自覚してゆっくりと浮上する「またね」と竜に挨拶しながら


あとは、一気に意識を覚醒するだけ。


──目を開く。


ピコランダの自室のベッドに私は寝かされていた。


大きく深呼吸して体を起こす。

伸びをして固まった背中をほぐす。


「う─────ん」


ふぅ……どれぐらい眠っていたんだろう。


スッキリと目覚め当たりを見渡すと、ベッドの横のソファーにうたた寝をしている妹がいた。


「え?ベル?」

その声に、妹はビクッと体を震わせて飛び起きる。

「ふぇ?!! あ!!!! おねぇちゃぁん!!」

そう言うが早いか私の首に抱きついてきた。


「おねぇちゃん、おねぇちゃん……起きたのねぇ……っおねぇちゃん!」

そう言いながら泣いている。

「よしよし」

そう言って頭をなでる私の肩をぐぃっと掴んで

「よしよし、じゃないよ!!!! もう、心配したんだからね!!」

といって ぷぅうっと膨れた。


私は7日間も夢うつつの状態だったらしい。

最初の3日はとにかく眠り続け、あとは意識がもうろうとした状態で食事をとっては寝ると言った状態だったらしい。


「おねぇちゃん、竜の力感じたでしょ?私もたぶん同じ時間に感じたの。だからこれは何かあったって思って、お父様とお母様を説得してなんとかピコランダに乗り込む手筈を整えてたら、魔法便で家の魔術師のところに連絡来たんだよ。」

それでベルは大至急こちらに向かって、昨日ピコランダ入りしたらしい。


本人曰く、ぜ───んぶ処理してきた!!!とすごくいい笑顔で言ってくる。


「ベル……なんか頼もしくなった」

素直な感想を言うと

「それも後で報告するから」

といって微笑んだ顔がお母様とかさなった。


そして、もちろんジフェルの暗躍のお蔭で、その事後処理や6名の姫の国への対処などピコランダは大わらわ。

舞踏会どころではなくなり、最終選考に残っていた姫達のお見合い話も流れることになったという。


ピコランダ王のこれまでの信頼もあり、各国とも穏便にすましてくれらしい。

もちろん、きっちりこの期に政治的な条約が結ばれたことは想像がつくが、それは賢人王のなせる業、逆にピコランダ側の株を上げてさらに国家は繁栄しそうだった。


そして、姫達は国の迎えを待って三々五々帰国していったという。


スフィアにとらえられていた姫達は、基本的に記憶が曖昧でよく事態を把握しておらず。体力の回復をまって、健康に帰って行った。


「で、残ってるのは、おねぇちゃんと……」

すこし言いよどむベル

「と?ということは……レヒューラ?」

やっぱりわかってたか、と呟いてベルがうなずく。

「レヒューラちゃんって魔術適正が高くて、魔力もすごいんだって。魔術の才能もラル王子に次ぐ天才魔術師って言われてるらしいよ。」

突然ラル王子の名前がでて顔が熱くなった。

──なんで私は動揺してる?

名前聞いただけでどきってなるのって、まだ本調子じゃないの? わたし?


でも、そんなのおくびにも出しませんってかんじで

「そうだったのかぁ、だからあんなに早く意識が回復してたのね」

そう言って、アル王子に抱えられて意識を取り戻したレヒューラの話をした。


妹はクスクスと意味深に笑った後で

「彼女、こっちに残って、スフィアの事後処理とか魔術的な事を大分手伝ってたみたいだからラル王子もすこし時間が出来てたみたいだよ」

また! 何?──沈まれ私の心臓──いまの会話普通の流れだから。

「“アル”王子も助かったでしょうね。さすが未来の王妃様ね」

「そっか未来予知できてたんだね。

 もう、二人の気持ちが甘々でさぁ。最初見た時は、おねぇちゃん大丈夫かなって……それも心配しちゃった。」

そういってこちらに細めた目を向けて


「まー大丈夫そうでなによりだけどぉ?」

なに? なんなの? この子は。


つつきたいけど蛇が出そうで触れない。心を見られてそれを指摘されたら、きっと平常心ではいられない。


それも、きっと解っててあえてスルーしてる我が妹が、なんだか突然大きく見えた。


空気を変えて。

真剣に心配してる顔した妹が聞いてくる

「体は辛くない?」

私は、信じられないぐらいに回復した体を動かして、

「うん、竜が傍でずっと守ってくれてた夢をみたの。

 ずっと竜の隣で寝てた。」

それを聞いたベルは安心の顔を見せた。

「あながち夢じゃないかも。

 うちの竜は寝ることに関しては一家言(いっかげん)あるからね♪」


私の体は、突然大きな魔力を通した為、副作用でオーバーヒート状態だったらしい。


もし、竜の加護がなければ精神を壊されてたかもしれないほどの魔力量だったみたいだ。


さらに、私の体内で、流れ出した魔力の道筋が大きく開きっぱなしになってしまって、それを自力で止めるには私の魔力は鍛えられてなかったという。


開いている間は、体内に蓄積されている本来の魔力ーつまり精神力もながれちゃうから夢うつつの状態が続くらしいの。

自然治癒でゆっくりふさがっていくのに、もしかしたら、もっと時間がかかるかもしれないと言われてたらしい。


自分に魔術的な才能は無いとおもってたけど、すこしは鍛えた方がいいのねと思った。


「あと、こうもり君がこっそり魔術治療してたしね」

「え?こうもり君?なに?」

意味不明な事を呟くベルに聞き返すと


「なーんでもないよぉ、

 ていうか体大丈夫ならとりあえず、ハトナとタシー呼んでくるね」

「え?タシーも来てくれたの?」

「もちろん!私がこの速さで全部処理できたのもタシーの手回しのお蔭なんだよ」


相変わらずすごいよタシーすごい!


ベルが出て行くと私はベッドから立ち上がった。

7日も寝てた割に、体は不思議なほど力が溢れていた。


ベランダにでると、もう見慣れた庭園が今日も陽の光を浴びて目に癒しを与えてくれる。


緑の生垣や白い玉砂利

何度となくかよった──書庫。


書庫の屋根がここからも良く見える。


その住人を想って名を呼びそうになって……息を吸ってごまかした。


夢で何度も見た。

そして何度も考えた。

元気になったら、


──私はフォルゴアへ帰らなければいけないのだ。


……どの面下げて。

嫌われるぐらいなら、この思いを秘めたままファルゴアで一生暮らすほうがいい。


癒したくない傷があるなんて思わなかった。


「ちょ────と!!おねーぇちゃーん!!!」

部屋の中からベルが叫ぶ


何事かと思って振り向くと、そこには頬を膨らました妹がいた。

「病み上がりって意味しってる?」

「病気のあとで体力が回復していない状態」

「辞書か!!!違う、そうじゃなくて!」

私がいきなりベランダなんかに出てるから驚いたんだろう。

「本当に元気なのよ」

困ったように言って部屋に入ると


「クララ様!」

と元気なしっかりした声が耳に入る

「タシー!!」とそういって私は抱きついた。


タシーも私を抱きしめてくれた。

でも、抱きついた胴回りをささっと確認して

「痩せすぎですね。気分的には大丈夫って思ってるかもしれませんが、体重が落ちているのは確かです。病み上がりは病み上がりなんですよ。」

そう、ぴしゃりと言われる。

「うう」

しょぼんとしてしまうと、一度、主従の距離にタシーは入る。

「クララ様、お元気そうで安心しました」

そういってにっこりと笑う。

私もそれに笑みを返す。


あぁ、こうやってタシーとの会話が出来るなんて、あの、地下の洞窟で亡者に襲われそうになった時を考えると夢のよう。


生きててよかったって思える。


私は、タシーの後ろに控えめに立っている人物に目をむけた。


「7日も夢うつつを彷徨って、こうして元気でいられるのは、他国の姫である私をハトナがしっかり看病してくれたおかげよ。

 本当に、ありがとうハトナ。」

そう言うとハトナの目に光るものが浮き出る。

私は傍によってそれを人差し指でぬぐった。

無言でハトナは頭を垂れる。


「おねぇちゃん、素敵なメイドさんについてもらえてよかったね」

そういってベルが寄ってくる

「初日にタシーが渡りをつけてくれたお蔭よ」

タシーは腰に手をあてて胸を張って言う

「この人にならうちの姫預けて大丈夫だって思ったんです!」

そういって笑う。

私もうなずきながら笑う。

ベルもさすがーって言いながらわらってハトナもクスクスと笑ってくれた。


「あ!!! そうだ!」

和んだ空気を吹き飛ばすベルの声

「なに?」とそちらをみると、タシーもうなずいてハトナに目線を向けた。


ハトナが静かに話し出す

「もし、御加減がよろしいようでしたら王と王妃が御目にかかりたいと申しております」


……あぁ、そうよね。

あの事件以降、お部屋には来ていただいていたようだけど、私自身がきちんとご挨拶できてないわ。

「いくら病み上がりとはいえ、もうちゃんと歩けるから私からお伺いしたいのだけれど、どうかしら?」

そういうとハトナは少し心配そうに見つめる。

「おねぇちゃんがこう言いだしたら、実は頑固で聞かないの」

「そうですね……クララ様のワガママ聞いていただけますか?」

とんだ援護射撃である。

でもハトナは微笑んで、いつもの顔に戻って

「承りました。お時間は後程お伝えいたします」

といって部屋を出て行った。


そして、入れ替わりに食事が運ばれてくる。


「まずはきちんと食べて、しっかり美ボディに戻しましょう」

張り切るタシーと

「やった!!! ピコランダの料理もおいしいよねぇ♪」

とさっそく自分のお皿の前に座りだす妹

「ベルは何しにきたのよ」

っと噴き出すと

「おねぇちゃんの心配をしにきたんです!これはそんな健気な私へのごほうびなの!」

そういって運ばれてくる料理を一つ一つ声を上げながら眺めている。

笑いが止まらない。


そんな日常に。


生きていたことに感謝する。


あの人も今頃、ご飯たべてるのかな。

私を日常に返してくれた想い人……


「おねぇちゃん?」

よばれて思考を止めて私も席につくのだった。

次で最終話になります。

本日中に投稿します。

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