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第三十話 当て馬受け止めし

「俺は最初から王位に興味がなかった……」


語りだした彼の心に、私の開いた能力が同調していくのがわかる。


彼の記憶が私の心に流れ込んできた。

初めての感覚…でも、私はそれを受け止める。

全て受けとる…


魔術の才能は物心ついた時から認められていた周知の事実だった。一度入れた知識は難なく具現化されていく。


面白くて熱中している幼い彼…


「そのころから兄貴はもう王位を継ぐのが決まっていて毎日その勉強ばかりしていたから、そんな窮屈な場所が兄貴の場所だって同情こそすれ羨ましいとはおもわなかった。

 逆に王位を継がないのだから自由にしていいと思っていた。」

ただ、まだ遊びたい盛りだったから兄と遊べなくなるのが

つまらないとは思っていた。


たまにする喧嘩も体術では勝てなくて、それもあって新しい魔法をどんどん覚えて行った。


そんな折、魔術教育を担当していた老魔術師が、日々強くなる第二王子の魔術の才能を懸念しだした。


当時、10歳の誕生日を迎えてはいたが、まだ子供だった彼は魔術を悪戯の道具にしたりそれこそ喧嘩の手段にして他者との力関係を有利にしていた。


そろそろ、魔術に対しての正しい知識と責任を教育する機会だと主張される。


「兄貴は王様になるから仕方ないけど、俺は王にはならないのに何で責任とか必要なのかとその時は浅はかな考えを正論だと思ってたんだ。」

王族に生まれ、自分は何不自由なく育っている環境を特別とは思っていなかった。


当たり前に与えられているものが何を意味するか、学ぼうとせず。制限される不自由に不平を漏らしているばかりの子供だった。

そんな面倒くさいことを言う老魔術師に反発を覚えた時声をかけてきた魔術師がいた。


「ヴァレイズは才能があり、当時の宮廷魔術師の最高責任者だった。もともと親戚で彼の才能には憧れてもいた」


老魔術師が責任だなんだと、今まで自由に扱えていた魔法を制限しだした。便利に使っていた魔術ほど禁止されて、口でははいはいと聞いていたが不満が募った。


ヴァレイズはこっそりと自由に魔法を学べる空間を用意してくれた。


それこそ、ヴァレイズの魔法と自分の魔法があればできない事はないと思えるほど無限の可能性がみえる。


禁忌と言われる魔法の術式も学んで知識が広がっていくのに快感を覚えた

危険と言われるほど、興奮がたかまった。


しかもそれが密かに自分だけがしっているという背徳間で満たされる。だから、もっともっとと促すヴァレイスの言いなりになって魔法にのめりこんだ。


「過負荷無代償召喚魔法」

ラル王子は苦々しげにつぶやいた。


通常召喚魔法はマナと『代償』が必要になる。

別の(ことわり)にある何かをこちらに呼び寄せる場合必ず代償が付きまとう。


代償をきちんと払えば召喚者の次元の理にしたがって、召喚されたものは行動する、つまり術者にしたがうのだ。


強力な力を持つものほどその代償は大きく、禁忌とされるものが多かった。


ある時ヴァレイズがこの新たな術式【過負荷無代償召喚魔法】の召喚魔法を実験したいと提案してきた。

すでに魔力では超えていたが、やはり憧れてきた魔術師に大人扱いで相談されたことが嬉しかった。


それは、ラル王子の呼び出す膨大なマナを利用して『代償』をその『膨大なマナ』に置き換えて契約を試みるというものだった。


それが召喚物に受け入れられた場合、特殊な代償を支払わず召喚を、可能にするという。


自分にしかこの術式は通用せず、これが出来ればこの世界で唯一『無代償』で召喚魔術が使える人物になる。史上初だと


──そそのかされた。


知識の面でも網羅していると思っていたから、ヴァレイズが提案した召喚時の代償契約が交渉で成り立つと信じていた。


それが、偏向されて与えられている情報とも知らず。

自尊心をくすぐる言葉に酔いしれ無知な暴走を止められなかった。


「結果は……俺自身がこの国を……滅ぼすところだった」

膨大なマナをひたすら魔法陣に注ぎ込みヴァレイズの作った魔術フィールドを満たす。


召喚時の交渉役ははヴァレイズだ。


自分はひたすら魔力を使い、『代償』の代わりに、フィールドを満たした『膨大なマナ』を召喚物に注ぎ込むという役目だった。


条件の交渉は全てヴァレイズが行う。

もし交渉が決裂すれば、召喚は失敗となる。

この条件で呼べる召喚物をしらみつぶしに試していく計画だった。


マナを送り込む補助としてヴァレイズが事前に書き記した魔法陣に立つ。


魔法陣の同時展開は魔力の消費が激しく難しい。

お互いに目の前の作業に集中できるように、事前に用意できる魔法陣は地面に特殊な砂で書いて展開しておくのだ。


ところが実験がはじまりマナをフィールドに送り始めると。


違和感があった──召喚する為に展開した魔法陣が話と違う術式だった。


ただ、ヴァレイズを信じ切って始めた実験だったから、特にこだわることもなく言われたように実験を進めていく。


最初は分からなかったが、だんだんとマナを自分の意志で止めることが出来なくなっていった。


つまり、自分がただひたすらマナ製造機になっている。

それに気が付いたのは、フィールドにマナが半分満たされた時だった。


足元に展開する魔法陣に補助以外の術式が巧みに混ざっている。その事に気が付かなかった。


「王子様ぁ……気が付かれるのがおそかったようですな」

そうやってにたりと笑うその顔は、かつて憧れた聡明な魔術師の顔であり、あまりにも醜い欲望の満ちた顔だった。

「お前はこれからこの地に、大地震を起こす魔術の大暴走を引き起こした元凶になる。それを止めるのが私だぁ!

 どさくさにまぎれて王族に止めも刺させていただくよ。

 そうすれば、この英雄の私が王になるのだぁ」


悔やんだ時には遅い……後悔しても後悔しきれない。

膨大な力の『責任』──老魔術師の言わんとすることがやっとわかった。


自由には責任が伴い、大きな力を与えられたら、それを管理する力も必要なのだと。


自分に与えられているものをきちんと理解し、それを使うそれが出来ないなら、自由なんて主張してはいけなかった。


目の前の快楽に溺れ望まない結果を引き起こし、ただ利用される──自業自得だった。


ただ……その代償が自分の国を自分の手で滅ぼす事になるなんて。


なんとか、制御できないかマナを止められないのか。


でも、体はいう事を聞かない。

普通の魔術師ならとっくに魔力が付き気絶するような膨大なマナを生成し、まだ尚、力は余りを見せている。


自分でも制御できない量のマナを生成しつつその暴走の一部始終をはっきりとした意識の中で見せられる。


痛みより……苦しい。


ヴァレイズが唱える呪文が部屋中を明るく照らし、マナが凝縮しエネルギーを生み出す。


──そこにどんどん投下されるマナ。

このままこの膨大なエネルギーを暴走状態のままこの国の地殻へぶつけるつもりなのだ。


今まで馬鹿にしてきた先見の明をもった人々に許しを請えば。


もっとちゃんと自分の力がどういったモノか根本を学んでおけば。


自尊心を満たすだけの幼稚な思考を改めたらっ。


自分が馬鹿だったって認めたらっ!


誰かが……


……馬鹿な自分以外の誰かが。


──この魔術師の行いをとめてくれるのだろうか──


助けてくれ! この国を!!

……馬鹿な自分の為に滅びてしまうこの国を。


自分の命はどうなってもいい。

この国の王子として生まれたのになんで、この国を滅ぼさなきゃいけないのか。


……涙が止まらなかった。


兄貴は、この国を守ろうと決意し、背負った責任に答えるべく心身共に己を鍛えている。


自分は自由気ままに好き勝手に遊んでいただけだ。


……そしてこの様だ。


止めろ……マナを制御するんだ、今すぐ止めないと!

だが、体は動かない。

足元に展開する魔法陣のせいだという事はこの時点で解っている。


──せめてこれを消せたら。


喉がちぎれるほど叫んでいた

「陣を壊せ!!!動け!!!足でも手でもいい動け!!

 ひとかけら砂を一かけら崩せれば!!!!」

ヴァレイズは楽しそうにこちらを歪んだ笑みで視姦する

ヴァレイズは余裕だった。この場所は秘密にされている実験室なのだ。


──ここで行われている事にだれも気が付かない。


そうだと解っていても、でも叫ばずにはいられなかった。

喉が焼ける。

……でも、動け!!!とひたすらに叫ぶ


「ラル!!!」


苦痛の中、一番信頼する声が自分の名を呼んだ気がした。


扉が開き、ものすごい速さでこちらに向かってくる影があった。


部屋内は今やマナの明かりでホワイトアウト寸前だ。

その中を迷いなくこちらに向かってくる


──それは紛れもない兄の姿だった。


身動き取れない自分に心配いらないと笑いかける。


ヴァレイズは突然の出来事で対応できていない。


兄は、魔力の本流に全身を打たれながら、はたまたぶつかるマナの火花に焼かれながら弟の足元の魔法陣の砂を蹴り飛ばす。


その途端、室内に激しい風が吹き荒れたその風に飛ばされ兄が壁にぶつかりそうになる。


金縛りが解かれた!


そこからは、反射的に兄を壁への激突から守り、溢れだしたマナをひたすら制御する。


暴れるマナを沈めてあるべき場所に返していく。

「やっ……やめろおおおお!」

そう叫びながら新たな魔法陣を呼び出すヴァレイス。


ただ、マナを自分で制御できているラルには、その魔法陣を打ち消すことは、ケーキの上の蝋燭を吹き消すほど容易い。


怒りにまかせ禁忌の魔法で精神を壊すことも可能だった。

でも、氷の檻に閉じ込めるにとどまる。


全てが終わった。


「兄貴も俺も……ボロボロだった……」

膨大すぎる魔力は危険だった。暴走ギリギリの魔術フィールドに単身乗り込むとか普通じゃできない。


「それをやってのけるのが兄貴なんだ」

懐かしそうに誇らしげに語るラル王子。


「親父や、この国の幹部にいろいろ説明しこの事件が内密に処理された後に兄貴に聞いたんだよ。」


どうしてここが分かったのかって。


たしかに、最初にここに入り浸り始めたころ、こっそり兄貴を連れてきて自慢したことがあった。


でも、それはもう1年も前の事で──一度きり。


兄は15歳の成人の儀を迎えるに当たり毎日その準備で忙しい。

そんな兄貴がどうしてあそこに現れたのか?


そしたら兄貴が

「おまえ最近取りつかれたみたいになってて、心配だったんだよ。だからお前の行動をしばらく見てたんだ」

そして今日、突然姿を消して所在が分からなくなったと報告を受けてもしかして、あの実験室かと駆けつけてみたという事だった。


忙しいのに、自分をしっかり見ていてくれた兄貴の器に感服した。


そして、とにかく自分の危険を顧みず乗り込んできてくれた兄に感謝した。


「だから、もう誰にも利用されないように勉強して……もし、兄貴に仇なすものがいたら今度は俺がそれを阻止する。そう、決めたのに……」


心の同調が緩み景色が月明かりの書庫に戻ってくる。


頑なに私たちを拒絶していたあの瞳。

利用されるものにならないと彼は言ていた。


きっと私たちがアル王子を利用するために近づいたら彼は容赦しないだろう。膨大な数になるよそ者を彼はずっと監視していたのだろう。


それは過去に守ってくれた兄への恩返し…

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