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第二十六話 当て馬追いし

翌朝、ハトナが朝食会の支度にやってきたとき。

特に帰国の話は出なかった。

という事は、ラル王子の中で保留になっているという事だと判断する。


とにかく即行動しかない。


私しか疑っていないという事は、敵は誰にも気づかれていないと思っているはずだ。


私の言葉で何かしらの疑念をもったラル王子が気にかけたとしても、直接行動にでるにはもっと時間がかかるはず…


残されている時間がどれほどなのか分からない以上、時間も行動もある程度の自由がある花嫁候補の私が動くしかないんだ。


不審な動きは警戒されるだろうが、好奇心は行き過ぎなければ好感をもって受け入れてもらえる。昨日の今日でハトナは朝稽古を許してくれない。


だから気晴らしも兼ねてという態で頼んでみた。

「ポーション研究所が思いのほか楽しかったの、もしお邪魔じゃなければここの魔術師塔の見学ってできないかしら。

 ファルゴアとの規模の違いを見てみたいの」

昨日の会話で、私が興味をもったと思ってくれたのだろう。


「確認してまいります。」

といって、朝食後には承諾を伝えてくれた。

「ハトナ、ありがとう」

別の意図があることは言えないけど、心の痛みを感じている場合では無い。


ハトナも兵士たちもアル王子も

……そして、あの夜色の瞳をもつ王子もピコランダ国の人々だ、私はこの国の為の力になりたい。


一応案内役の魔術師を頼んでおく。

あまり単独行動が過ぎるのも怪しまれかねないし、ラル王子が私を疑っているだろうからお目付け役はいてもらえた方が逆に動きやすい。


濃い赤色のローブをまとった若い女性の魔術師に連れられて魔術師塔にはいる。中は、思った以上に広くとても興味深かった。


ラル王子が不在なのはいつもの事らしい。

一通りの施設の説明をしたら、ご自由にどうぞと言われた。


それぞれに割り当てられた仕事があり、特に極秘の仕事もないのだろうお言葉に甘えて、邪魔にならないように適当に施設を歩く。


ジフェルを探すと普通に仕事をしているようだ。

特に怪しい動きもない…


兵士がやってきては書類への書き込みをしている。

ところ見ると、魔術関係より事務方の仕事の確認などを多くしているようだった。


じりじりと時間が過ぎていくが今は彼の尻尾を掴むことから始めないと。


動きがあったのは昼時だった。

とりあえず、魔術師塔の見える場所でハトナから用意してもらったサンドイッチを食べている時。


ジフェルが塔から自室へ帰っていった。

しばらくして彼は出てきたが、塔には向かわず反対側へ歩き出す。


来た!!行動開始だ。


とりあえず、彼の向かった方へ行ってみる。

植え込みや木々が規則正しく配置された道を城壁へ向かって歩いていく。


ここは、この区画の憩いの場のようになっていて、木陰にベンチが配置されていたり小さな噴水があったりとこじんまりとしながらも一息つける空間になっている。


ただ、城壁の脇なので景色はよくない…


人もあまり来ない様で警備の兵士などは見当たらない。

そんな中を紫ローブが進んでいく。


城壁に彼が手を触れたのが見えて辺りを確認するように、彼は左右を見た。振り返る気配がしてあわててて柱に身を隠した。


数秒をおいて見つからないように彼のいた場所を伺うと──忽然と彼は消えていた。

……空間移動?


ただ、ジフェルは魔術の能力は低いと言っていた。

空間移動が出来るほどの魔力がある魔術師はこの城にラル王子だけだと聞いている。


でも彼は、一瞬でいなくなっていた。

警戒しながら彼が消えた場所にまで行ってみる。


城壁がそびえ立ちこれを飛び越えるとかなら、その行為は見えたはず。魔術師ならできそうだけど、見えなかった。


城壁に近づくと──微かな風を壁から感じたと思った時。


「これは今回の報酬だ。」


思いの外近くで声がする。

甲高い中世的な声、これはジフェルの声だ!

壁の向こうから聞こえてきているように感じるが、壁越しの割にやけにはっきり聞こえたことに違和感を感じる。


さっきまでここに居たのにどうやって壁の向こうへ?


ここから外に出る裏門は、私が全速力で走っても数分はかかる。


魔術でもない限りいけるわけないのに、

「今夜で引き揚げてもらって結構だ。次はこの国を手にしたら連絡する」

「ぐへへ、たのむぜ旦那」

あからさまにがらの悪い声が聞こえた。

声の位置からして大男だろう。

「森の連中にも伝えろここは危険だからしばらく近づくなと」

「ひひひ、重々承知でさぁ」

そう言って去っていく大きな足音。その足音が十分離れたっから

「貴様らの命もあとわずかだ」

という呟きが聞こえる


そして、目の前の壁が歪みだした。


慌てて近くの植え込みに姿を隠す。


するとその歪んだ壁からジフェルが音もなく現れたのだ。


……壁をすり抜けた?やはり魔術だ!

でも、こういった類の魔術は高度な技術がいったはず。


もしかしてジフェルが自分の能力を偽ってるのか?


いや、でもきっとこんな高度な魔術は、ラル王子が感知するはず。


会話の内容も、心を覗いた時に感じたこの国へ対する悪の企てを裏付けるような内容だった。


城壁に穴が開いた時点で、誰も感知しないのは可笑しいのではないだろうか?


秘密裏に行われているとするなら、魔術が感知されないのは普通じゃない!


やっぱり何かあるんだ。


植え込みで息を潜めてジフェルが過ぎていくのを待つ。

彼が完全に姿を消したのを確認してからさっきの壁の前に立つ。


通り抜けた場所を触ってみる


そこはもうただの壁だった。──証拠はなくなった。


森の連中って言ってた。あと、今夜で引き払うとも。


この城壁の向こうには森が広がっている。

その森に何かあるのかもしれない。


あとは、ジフェルの自室に忍び込んでなにかの手掛かりを見つけるかだ。とりあえず、証拠を見つけるまで行動あるのみだ。


あれからジフェルの行動に不信なものはなかった。

ジフェルの仲間が他にいるという危険もある。


能力を開いて心のを探ってみたが魔術師塔にも、ジフェルに接触している人物からもそれらしい心の人物はいなかった。


城の中に協力者がいないというのは正直ホッとした。


ジフェルの単独犯という事で狙いが絞れる。


城の外に出るのは単独行動では難しいので、自室へのもぐりこむためにジフェルの行動を観察する。


午前中は魔術師塔で午後は王室側へ出向いているようだ。


ただ、どこかにずっといるわけでなく、しばしば自室に入っては資料を持って出てくるという行動を繰り返している。

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