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プチ軍事講座【階級編】★

挿絵(と言っても主に表や図形)があります。

描画しつつ執筆しているので、次話投稿は間が空く可能性大。合間にこんな感じの閑話を挟みます。

 



「殉職で二階級特進……ヒューズ准将か……私の下について助力すると言っていた奴が私より上に行ってどうするんだ——馬鹿者が」



   ロイ・マスタング(鋼の錬金術師 4巻より)



 ところで、引用元から分かる様にこれは国民的人気作品に登場する名言の一つである。

 未だ月刊誌で連載していた頃、中学生時代に追い掛けていた作品の一つなのだけど、恥ずかしながら当時、『准将』の階級が今一理解出来なかった事を覚えている。

 たった二巻分しか登場せず、特進した准将としての活躍が見られなかった事も大きいかも知れないが、作者の洒落た演出と巧みなストーリー展開力によって読む上で然程支障を感じなかった所為だろうか。そのため、必要に迫られて文献を渉猟するまでは漠然と『大佐』の方が響きが偉そう、と思っていたのだ。(ただの阿呆)


 こうした創作物やアニメーションではよく描かれている事だけど、現実の軍隊やそれに準ずる組織、他にも目的に応じて武力を行使する軍団等々、内部で序列を明確にしている事が多い。

 そんな中でも『階級社会』とも呼ばれる軍隊内部では、厳格な階級制度や部隊編成を元に格付けされている事は誰もがご存知だろうと思う。

 上記の通り、最近では漫画や小説でも設定として軍事用語が用いられていたりするが、実際に『大将』や『大佐』等の単語を目にした時、「どっちが偉いのか?」の違いが瞬時に分かる人は少ないのではないかな?


 今回は、書き手や読み手のそんな疑問を解消する為に表を用いて説明したい。(文字だけだと多分こんがらがるので……全年齢対象にしてるからネ)

 ただしこれは基礎の注釈に過ぎないので、必ずしも全てが規範的なものであるとは限らない事を予め明記しておく。(国や情勢によって変化するって事だよ!)


 先ず、階級について。

 軍人は次の種類に区別されていて、これは世界共通であるとされている。



  挿絵(By みてみん)



 平たく言えば『将校』が命令を下す上司で、『兵士』は指示に従う部下であり、『下士官』はその中間で両者をサポートする補佐役である。

 この大まかな三つの世界から枝分かれした身分が、所謂大佐、中佐、少佐……等と呼ばれるものだ。加えて人物背景まで掘り下げて行くと、例えば貴族か平民か、と言った出身の隔たりも組織内の階級に大きく関わって来る。

 故に彼の国では、士官学校を卒業したばかりの若い貴族令息達が何れ上位階級を独占する訳だが、『将校は貴族』、『兵は平民』の区別がはっきりしていた点を踏まえると、何ら不思議では無い。


 実際、西洋を元にした軍事物創作のアニメや某ロボット漫画等で疑問視されがちではあるものの、フィクションの中で実例を黙示的に含蓄している部分はきちんとある。

 作中で見られる、王位継承資格を持つ中央で守られるべき王子様が自ら戦場で指揮を執るシーン等が良い例だと思う。

 貴族や王族と聞くと一目散に逃げ出す光景が目に浮かぶだろうけど、英国の様に『ノブレス・オブリージュ(仏:noblesse oblige)』が受け継がれている国を元に描いていた場合では、登場する高貴な貴族や王族が前線に身を置く事も理に適っているのだ。

 他にも挙げると、若い主人公が『少尉』として登場している設定が顕著だろう。多くが家督を継げなかった次男や三男達だった上に、士官学校を卒業した新人が就く最下級の官位がそれだからだ。日本の年功序列や、米国の実力主義体制とは似ても似つかない形態である。


 余談として、貴族や軍人と言うと現代SFや異世界ファンタジーではよく、俺チートな主人公が社会貢献したり能力を買われて意図も簡単に叙勲または叙爵されていたりする。けれど通常なら、戦時中とんでもない偉業を成し遂げたのだとしても、ほとんど二階級特進が一般的だった。

 幾つか事例はあるが、所謂『戦時昇進』と呼ばれる様な、戦場で多くの将校がばったばったと薙ぎ倒され全滅する様な事が無い限り、少尉がいきなり「じゃ、キミ今から中佐ね」なんてぶっ飛んだ話にはならない。それこそ国の伝統や戦場次第だが、創作でモチーフとする世界によっては「少尉は新人だし、どんだけ飛び級してんの?」となり兼ねない訳だ。


 ただし、そうした方法以外にも出世する道は存在する。『買官制度』と呼ばれるもので、言葉通り官職を買って一代限りの称号を得る、と言うものだ。当然『売官』なるものも存在する。

 世襲出来ない一代貴族、と言う意味に限って挙げれば英国の騎士(ナイト:勲功爵、勲爵士、騎士爵、士爵)がそれに該当する。

 平民や下級貴族なら、能力才覚で登用されて生粋の上級貴族から反感を抱かれるとか、貴族令息が金と権力で辞令を買った所為で、現場では名ばかりの無能な指揮官として立つ……と言えば、特に目にする悪役が地位を確立している理由等、分かりやすいかな?


 尚、先に述べた戦時昇進とは真逆に、平時で兵卒や下士官が昇進する場合は軍歴や考課、昇進試験等を要する。仮に上等兵が功績を挙げて着々と曹長等に上り詰めたとしても、それより高官である将官に特進する事は滅多に無いのだ。

 

 こうした現実感を帯びた仔細な描写で肉付けをした作品こそが、読者を惹きつける所以に通じると思うのだけど、そんな内情を熟知して表現している人は意外と少ない。心当たりのある方が居るかも知れないが、下調べを怠ると時にキャラクターの矛盾した発言や印象の齟齬に結び付くので、設定を練る上で行う事前準備は非常に重要だと言えよう。世界観によっては、キャラクターの発言や仕草一つで参考文献を押さえて執筆しているだろう作品が一目で分かる位だ。

 もっとも、作者がどの時代背景を舞台として、如何に捻りの利いた内幕を描くかにもよるが。(舌が肥えた読者に誤魔化しは利かないと言う事!)


 閑話休題。

 外国では『准将』の階級が存在するものの、日本ではその称号が無い様に、現実でも陸軍や海軍等それぞれ呼称が異なる。

 そのため本来ならば歴史の変動に伴って階級の詳細を書き分けるべきだけど、そうしたものは既出だと思うので、今回は一般的に題材として取り上げられる英国陸軍の階級から一覧にして行く。

 ……まぁ、なろうでは世襲貴族出身の主人公がメインのファンタジー作品ばかりだから、需要の有無は分からない。(麗しい英国貴族の軍事創作とか興味あるのに!)



  挿絵(By みてみん)



 さて、簡単ながら注釈すると、上から『将官(士官)』『佐官』『尉官』『曹』『兵』の順で階級が下がり、更に同一色で『大・中・小』または『一等・二等・三等』と統一性のある並びとなっている。

 しかし、『准尉』は少し特殊な階級だ。

 英国だと女王陛下の『准士官たる認証状』によって階級を与えられる彼等は、物資の需品・補給、兵の人事・給与管理等を職務とした。

 一見「何かイマイチ地味だな〜」と感じるが、補給担当下士官は一般的に見ても高位であり、兵卒から叩き上げでのし上がって来た年嵩のあるベテランばかりだ。(作中では大体煙草の似合うデキるおじ様が多い)


 よって、少し前まで士官候補生だった任官したばかりのひよっこ少尉や中尉達よりも、実務能力もさる事ながら中隊の次席指揮官として采配を振るう実力を持つ。そのため待遇は将官と同等で、少尉や中尉よりも俸給が高い。兵にとっての到達点とも言える准尉は、羨望と畏怖の眼差しを向けられる官位なのである。


 また先に説明した准将は、将官ではなく佐官に位置付けられている。最下級の将官と最上級の佐官、と言う中間に属する階級だ。国によって扱いも呼称も様々だが、英国では『代将』とも呼ばれている。

 佐官扱いの理由としては、大佐数名によって指揮される幾つかの部隊を効率良く統括するために、全体指揮官の大佐が臨時で階級を与えられる場合があるためだ。戦闘後には元の官位に下げられる点も副因だろう。


 この様に実際の階級や軍隊の仕組みを考えると、前文の創作物である鋼の錬金術師が、しっかり軍事の基礎的な原則を把握している事が分かると思う。

 殉職によるマース・ヒューズの二階級特進の他、特にイシュヴァール殲滅戦と言う戦争で活躍したロイ・マスタングの、大尉から大佐(国家錬金術師のため少佐相当官)へ昇進した過程。

 読み返してみれば宗教や社会問題を兼ね備えた背景も含め、実にリアリティがある。(指先パチン!で発火とか、チート能力持ち達を差し置いてネ)


 したがって、創作で土台とする国を現実から選ぶ際は、目的とする主な情報だけでなく、『他国との階級の違い』もしっかり確認しておこう。


 読者も作者自身も作品から離れる理由の一つとして考えられる、作中での『矛盾点』を無くすためにも、投稿した雑学をどこかで活用して貰えたらと思う。


 軍事オタクの方々的にはツッコミ所満載だろうけど(話の脱線多いので)、仔細に話すとかなり複雑極まりない文章になってしまうので、分かりやすく説明出来る作品を例に挙げた点はご容赦願いたい。


 そんなこんなで一先ず、基本を押さえた階級編(英国メイン)を締め括る。




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