第0話 神の宣告。
新連載です。ようやくこれにしようと思う作品を思いつけました。
――2026年7月6日。
この日、地球に住む全ての人類へ、歴史上誰一人として経験したことのない前代未聞の出来事が降りかかった。
それは、世界中の人間が全く同じ夢を見るという、常識では説明のつかない異常現象だった。
本来であれば、地球には時差が存在する。日本では深夜、アメリカでは昼間、ヨーロッパでは朝と、それぞれ異なる生活リズムを送る人々が暮らしている以上、世界中の人間が同時に同じ夢を見るなど、本来ならあり得るはずがない。
しかし、その"あり得ない"は現実となった。
目覚めた人々は誰もが同じ内容を口にし、SNSには無数の投稿が溢れ返る。動画配信サービスでは考察動画が次々と公開され、テレビ各局は緊急特番を組み、世界中のニュース番組がこの異常現象をトップニュースとして報道した。
世界中が、この出来事一色に染まっていた。
当然、各国の研究機関や大学、有名な科学者たちも原因究明へ乗り出した。脳科学、心理学、量子力学、電磁波、未知のウイルスと、考え得るあらゆる仮説が立てられたものの、そのどれもが決定的な答えには至らない。
数々の実績を残してきた世界的権威ですら、この現象を科学的に説明することはできず、結局は"偶然"や"奇跡"という、本来なら科学者が口にすることを避けるような言葉で片付けるしかなかった。
だが、それは"偶然"でも"奇跡"でもない。
それは、人類を創り出した神から送られた警告であり、避けることのできない未来を告げる宣告であった。その夢の内容は、あまりにも簡潔で、あまりにも残酷だった。
『2026年7月7日
世界に避けられない試練が訪れます。あなたたち一人ひとりに、その試練を乗り越えるための力を与えられ、その力を使い無事に全ての"塔"を踏破すれば、人類は試練を乗り越えることができます。
しかし、人類が全滅した時点で、人類の敗北が確定します。自分たち人類の生存を賭けた、生きるための戦いを全力で楽しんでください。
――では、あなたたちに神の加護がありますように。』
まるでアニメや漫画、小説の中でしか語られないような内容であった。だからこそ、人類は恐怖するどころか熱狂してしまった。
SNSでは「神の大規模ドッキリ説」や「新作ゲームの宣伝」「映画のプロモーション」「世界規模のハッキング」といった憶測が飛び交い、動画配信者たちは我先にと夢の考察配信を始める。
テレビでは専門家同士が討論を繰り広げ、世界中の人々が半ば祭りのような空気の中で、この奇妙な夢を娯楽として消費していた。
その言葉を本気で受け止め、明日へ備えようと考えた者はほとんどいなかった。何故なら、誰もが心のどこかで「たかが夢だ」と高を括っていたからである。
全人類が同じ夢を見るという異常性すら、人々にとっては危機ではなく、ただ話題性に富んだ一大イベントと、それほどまでに人類は平和に慣れ過ぎていた。
SNSが急速に発展し、どれほど衝撃的な出来事であっても数日後には別の話題へ塗り替えられる時代。その環境は、人々から危険を危険として受け止める感覚を少しずつ奪っていたのである。
そして、その誤った判断は、人類史に残る最悪の代償となって返ってくる。
そう、既に匙は投げられた。人類に残された猶予は、あと一日で、もう止まることはない。これは互いの生存を賭けた”生きるか死ぬか”の戦い。
人類という種が未来へ進み続けるのか、それとも歴史から消え去るのか。その全ては、明日という一日に委ねられていた。
そして、その人類の運命を大きく左右する一つの歯車が、静かに動き始めようとしていた。
その青年の名は――九条 颯。
不遇な「ポーション使い」という職を授かった、ごく普通の男子高校生。
後に世界の常識を覆し、人類の未来そのものを書き換える存在となることを、この時はまだ誰一人として知る由もなかった。




