第三話 弟子入り
佐野葉月に呼び出された先は体育館裏だった。
壁と体育館に挟まれた狭い路地。
日が当たりにくい人通りが少なく……カツアゲにはもってこいの場所だ。
ここで昨日の謝礼金を請求されるのかと都はビクビクしていたが、
「わりぃな。こんな場所に呼び出して」
「え……あ、いや、別に……」
恥ずかしそうに頭をかきむしった佐野葉月は顔を赤くし空を見ていた。
何か、言いよどんでいる様子だ。
「あの……佐野、さん?」
「ん、ああ、わり、ちょっと、その、な……人の眼がないところで二人きりで話がしたかったんだ」
「それは……告白とか? ハハッ」
冗談のつもりで言ったのだが……、
「…………!」
佐野葉月の顔が一層赤くなった。
まるで図星をつかれたように。
「あ~……そういえば、先日はありがとうございました。暴漢から助けていただいて」
「あ、あぁ、気にすんな。お前可愛いからさ。あんな奴に着け狙われるのはしかたねぇって……ていうか、可愛いの自覚しろ。あぶねぇんだぞ、最近は男でも。あんな暗い人通りの全くない夜道に一人でいたら襲われるに決まってるだろ」
「はぁ、じゃあ、なんでその暗い人通りの全くない夜道でタイミングよく助けに来てこれたの?」
「…………」
黙っちゃった。
それも、さっきまで顔を赤くして照れていたのが急に冷静になったかのようにスンと真顔になって。
ちょっと怖い。
「あの~……佐野さん? 気になってたんだけど、佐野さんも僕をストーカーしてた?」
「バカヤロウ! この野郎! 違うぞ! 俺はその、確かにお前を付けた!」
「えぇ~……」
堂々としたストーカー発言に思わずドンびく都。
「違う! だから、そうじゃない! 俺はあいつとは違うんだって! 偶々一緒の電車に乗り合わせて、お前の事気になってずっと見ていて」
「ずっと見てたの?」
「うん」
「声もかけずに」
「うん……」
「えぇ~………」
「バ! だから、違! 引くな!」
「そりゃ引くなっていう方が無理でしょう……そんなこと言われたらぁ」
自分の体を守るように抱きしめる都。
その様子にイラついたように佐野葉月は再び頭をかきむしる。
「あ~……その、俺はファンなんだよ。お前の」
「はぁ、何となくそれは、ストーカーした前科から」
「……本来はお前みたいななよなよした男女は嫌いなんだよ。だけど、お前頑張ってんじゃん。男なのに体の動きとか必死に女の動き研究してマネして。本当は男らしくしたいんだろのに頑張ってさ」
「そうでもないです」
「…………」
本心だった。
別に女らしくしたいとか男らしくなりたいとかそういうことじゃなく、単純に好きな動きをまねしたらこういう風になっただけであって、心から好きだと思ったものがたまたま女の子っぽいものだけだったと言うだけなのだ。
「で、そういうところに俺はあこがれたわけだよ」
「あ、そういう前提で話を進めるんですね?」
「だからさ、俺はお前の女の子っぽいところに心の底から憧れてるんだよ!」
「同じこと二回言いましたね」
「だからぁ!」
佐野葉月が足を折り曲げ、両掌を地面に付き、額もこすり付けた。
「え? 嘘、見事な土下座……」
ヤンキーが校舎裏で、男の娘に向かって綺麗なフォームでDOGEZAを見せつけた。
そして、大声で宣言する。
「俺を弟子にしてください‼」