16話 限りなく透明
いつもありがとうございます!!
使用人や警備のため見回りをしている兵達がすぐ横を通り抜けていく。
その中にバジルの存在を気にかける者はいない。
とても不思議な感覚だった。
自分がまるで幽霊にでもなったかの様な…世界から隔絶された様な…。
いや、元からはみ出し者だったな。
能無なんかに産まれた時点で疎外感なんて物はいくらでも感じてきた。
今更感傷に浸るのは無駄というものである。
さあ目的を思い出せ。
仕事を始めろと己を鼓舞しながらバジルは長い廊下を進んで行く。
目指す場所はトワイアが滞在しているという来賓用によういされた一室だ。
この場所を教えてくれたのは相馬で、勿論感謝はしているのだがいかんせん言葉の歯切れが悪く要領を得ないためおおよその位置しか分からなかった。
そもそも相馬はあまりトワイアとは接触しなかったらしい理由を聞いたところでまた歯切れは悪くはぐらかされたのだが…まぁ、それほど必要な情報でも無いこともあり放っておいたのだが。
実際はトワイアの容姿が自分よりも明確に優れていることや、共に転移してきた上位カーストのクラスメイトの事を簡単に拒絶した事…クラスの大人しい者達との交流をしていたこと。自分に出来ないことを簡単そうにこなし、自分が持っていないものを持っている。端的に言ってしまえばただの嫉妬やコンプレックスを感じ避けていただけだ。
本人としてはいきなり発砲してきた相手に萎縮するのは当然なのだが…良い情報源になりそうと期待していたのにここまで肩透かしを喰らってしまうと少し苛立ちを覚えてしまう。
結局、コンテンダーの改修やホワイトフィールドの大まかな見取り図を頭に叩き込みながら、潜入の準備と並行し出発のその時まで尋問は続いた。
とは言え拷問なんて野蛮な事をしなかった故、キンベイとのすり合わせをしていない情報をそのまま鵜呑みにするのは危険だが、取り敢えずはトワイアがいるという部屋を目指すしかない。
寝かせた門番兵の異変が気取られるまで時間の余裕があるわけでは無いが、焦っては周囲に気取られる可能性がある。
落ち着き、静かにかつ、迅速に行動する。
…だが。
(近くにトワイアがいるって思うとつい焦っちまうな…頭を冷やさねぇと)
門番兵も、朝にホワイトフィールドを出たという相馬もここにトワイアがいると話していた。
村が魔物達に襲われて、仲が良かったとはお世辞にも言えないが知人達が死に、たった1人生き残ってから俺はトワイアと再び会うためだけにここまで来たんだ。
汗が滲む手のひらを握りこみながら路傍の石の様に此方を気にも留めない人々をすり抜けていく。
(あと少し…あと少しでトワイアに。次はこの角を曲がって…っ!?)
意図せず速足となっていたバジルが廊下の角を曲がった瞬間目にした人物に目を剥いた。
(ヘンリーィ…)
ギリと歯ぎしりをして前方の胡散臭い男を睨みつける。
ヘンリー。トワイアを勇者として勧誘をしに来ていた男だ。
「ふふん♪」
鼻歌を歌いながらヘンリーが壁に寄りかかりながら外の景色を眺めていた。
ペインとかいう従者はいない様で彼は1人だ。
(いいご身分だよな)
1発殴ってやりたいところではあったが、今はそんな事をしている場合では無いことくらいバジルは分かっている。
こんな所で騒ぎを起こすわけにはいかない。最後に一度だけ上機嫌のヘンリーを睨みつけてから前を通り過ぎようとする。…すると。
「…?」
ふと視線を感じ振り返る。
そこには相変わらず外へと目を向けるヘンリーしかいなかった。
そもそも今の自分は姿も、魔力の反応さえ無いはずの透明人間なのだ。
視線を感じるという事自体ありえない。
気のせい…とはバジルにはどうにも思えなかった。
(まさか…気づかれているのか?)
ジッとヘンリーを見るが特に変化は無い。自分と同じならこの男も視線くらいは感じても良さそうなのだが。
(念のためぶん殴って気絶させておくか…?)
周囲を見渡すが幸い人気は無い。門番の男と同じように、気絶させどこかに隠した方がいいような気がしてくる。それだけバジルはこの男に得体の知れなさを感じ取っていた。
頰を一筋の汗が伝う。
どれだけそうしていただろうか。
気づくと握りしめた拳が真っ白に血の気を失っていた。
(はぁ…何やってんだ俺、相手はヘンリーだぞ)
頭に浮かぶのはトワイアに擦り寄る小物然とした男の姿だ。
(先を急ごう…こんな奴に構ってる場合じゃない)
銃から手を離し、再び廊下を進むバジル。
もうヘンリーの事は取り敢えず頭から消した。
今はトワイアに会う事だけを考えよう。
そこでバジルは己の襟が湿っていることに気がついた。
汗では無い。無色無臭の水だった。
何処かでそんな物を被った覚えのないバジルは首を傾げるが、すぐに頭の片隅へ追いやり足を早める。
後ろで胡散臭い雰囲気の男が呟いた言葉は聞き逃してしまう。
「それでいいんですよぉ…折角楽しくなってきたんですからねぇ」
ヘンリーはあいも変わらず庭園を眺めている。
その頭の中に何が思い描かれているか誰にも分からない。
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