15話 白き領域への侵入
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空が茜色に染まる。
時は丁度ユラがペインに遭遇したくらいの頃であろうか。
一方のバジルも行動を開始していた。
とある布を身に纏い、現在は昼頃呆気なく追い返されたホワイトフィールドの門前まで来ている。
門番も、心なしか疲れた様な顔になっているが同じ人物が守衛に当たっていた。
なんの策も練っていなければまず間違いなくバジルは止められてしまう事だろう。悪ければ今度はバジルの名を語っていたと言うアホと同じように拘束されてしまうかもしれない。が、もう牢屋へ行くのはこりごりだ。
だがバジルが目の前を素知らぬ顔で通り過ぎていくのを彼は気にも止めていない。
秘密は纏っている衣にあった。
「まさか…こんな玩具が役立つなんてな」
「ん?」
おっと、姿は見えずとも声は届く。
バジルは口を両手で塞ぎながら衛兵の尻に下げている鍵束を見る。
このうちのどれかが兵士が出入りするよう大門の一部に作られた小扉の物だろう。
辺りを見回し人通りが少ない事を確認する。
そろそろ夕餉の時間だ。昼頃はチラホラ見えた通行人も今は誰1人いない。
(悪りぃな)
心の中で詫びをいれながらバジルは兵の後頭部を銃の底で殴りつけた。
「グゥッ…」と呻き声を漏らしながら体勢を崩す男を支え大門を背にしてゆっくり座らせる。そして男の手を持って兵の被る軍帽を深く被り直させ、腕を組む体勢に整えれば完成だ。
これでここを見ている奴もこの兵がサボっているだけとしばらくは勘違いするだろう。
そのうちお叱りの人間が此処へ来るであろうが、それでも大分時間を稼ぐ事が出来る。
鍵束を漁りバジルはなんの苦もなく大統領が住まう白き領域へと侵入を果たした。
(侵入経路はこの大門のみ、トワイアがいるのは来賓室だとして次に気をつけるべき事は…)
バジルは頭の中の情報を整理しながら、花が咲き乱れる美しい庭園を足早に進んでいく。
♢
「魔力を感知する警報魔道具に、常に姿をモニタリングする定点…カメラ?なにそれ」
「異世界から召喚した人間の知識を元に作られた魔道具らしい、遠くからその場を監視する事が出来る」
「ほぉん」
頬杖をつきながらキンベイの言葉を聞くバジルは、簀巻きになって転がっている相馬と名乗った異世界召喚者の少年だ。
「あってんのか?」
「し、知らないよ…俺はそもそも官邸の防衛にはそこまで明るくない」
「はぁ…まあ、今知ったよね?万が一問題になったらこの話はお前から聞いたことにするからな。勇者とかって持て囃されてるお前なら殺されるような事は…多分無いだろ」
「そんな!!あんまりだっムグ…モゴ」
目を剥く相馬の口に轡が噛ませられる。
舌打ちをしながら相馬と、バジルを睨みつけているのはキンベイの弟子であり孫でもあるワカサだった。
ドワーフの血を引いているため成人していても体が小さいままの彼女はその子供のような体躯全身で怒りや不満を表している。
「本当しんじらんない…こんなの国家反逆罪に問われてもおかしくないのに」
まったく、とワカサが慎ましい胸の前で腕を組む。
「そんなこと言ってお前だって物を売ってくれたじゃねぇの」
「それとこれとは話は別よ。お金に貴賎はないわ」
心なしか頰が紅潮している。面倒ごとに巻き込まれる事を嫌っているものの、自分の作品が始めて売れたのは純粋に嬉しいらしい。
バジルは彼女から例の透明マントを買った。
生物の体には基本魔力が宿る。故に首相官邸の防衛設備もそれに基づいた魔力を感知する事に重きを置いたものが多い。
例外はほぼ無い為本来ならばこの備えがあれば全ての侵入者の存在を感化できる。魔力を完璧に隠匿する事は不可能なのだから。
しかしそもそも魔力を持たない能無であるバジルにはその常識が当てはまらない。
キンベイや首都官邸内の様子を多少は知っている相馬の話から、魔力感知以外に厄介そうな魔道具は配備されていなかった。
新たに運用されていると言う監視カメラなる物はワカサの作った透明マントで姿を隠せばすり抜けられるはずだ。
姿を随時監視し、魔力を探知する機材を至る所に配置している。見張りの兵もいる首相官邸はまさに侵入者を取り逃がさない堅牢な城塞と化しているのだがバジルにとってそれは条件が揃ったバジルからすれば障害にさえならないのだ。
勿論見張りはそれだけではないため注意が必要なのは当然なのだが、今更怖気付く様なタマでもない。
「行くのか?」
「ああ、官邸には俺1人で行く。アルミンがいたんじゃ折角のマントが意味なくなるからな」
マントは姿を隠せても魔力は隠せない。
アルミンがいたのではすぐさま警報が鳴り響きトワイアと会う事は叶わないだろう。
合理的な判断であることは間違いない筈なのだが、この時のアルミンはいつもの無表情とは違い、痛みを堪える様に顔を顰めていた。
「どうした?」
「なんでも…ただ心配なだけさ。ひとつだけ言わせてもらうなら、出来るだけ生き残ってくれとだけ。あんまり早く会うのもアイツが悲しむだけだろうしな」
苦笑しながらそんな事を言うアルミンがひどく儚げに見えた。
「当たり前だ。俺はトワイアと一緒に村へ帰るんだからこんなとこで死ぬ筈ないだろ」
♢
「とは言ったけど…あんなアルミン見たの初めてだしどうも調子が狂うな」
小声で呟きながらバジルはホワイトフィールドの中のいくつかの棟に別れた建物のうち1番大きな物を目指し進む。
敷地内のくせに異常なほど広いせいで目的地まで随分遠く感じる。
(でも、俺のやることはかわらねぇ。やる事やって帰る。それだけだ)
バジルはガンベルトに収められている過去の力を取り戻したコンテンダーに触れた。
その銃身には植物の蔦の様な装飾が施されており、何処と無く以前アルミンが作った「真の魔弾」に刻まれたものと酷似している。
魔弾の効果を高める…とは言っていたけれど、それがどの程度の強化に繋がるのかまるで予想がつかない。流石に故郷の村で最後に放った1発ほどでは無いと思うが使い所には注意をした方がいいかも知れないな。
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