16話 笑い
昨日は更新できず申し訳ありませんでした。
夕闇に溶けかけた街の一角、主要都市であるノーウィークには多くの建物が乱立している影響で街の至る所に官警の目が届かない小道やならず者達や浮浪者が根城にしている区画が存在する。
貧富の明確な格差、開拓による急速な経済成長による弊害だ。
だがそんな彼らも今は息を潜め事の成り行きを潜めている。
さながら自然災害の様に街へ爪痕を残しながら暗がりを移動していく2人組を皆怯えた様に見つめていた。
1人が駆け抜ければ氷の粒子が空中を舞い、壁に深い五本筋の傷を刻んでいく。もう1人が駆け抜ければ先の者ほどの派手さは無いが、その手の西洋剣が振るわれれば忽ち鉄板だろうが石壁だろうが寸断して行った。
激しい破砕音と金属の塊が鋭く風を斬り裂く音が絶え間なく響く中、歌声の様な調べが混ざる。
『氷斬爪』
氷を纏いプリマの様に幾多の剣閃を潜り抜け、時には結晶の爪で弾いているのは銀狼族の女性、ユラ
だ。
ランデブー商会にて感情のまま魔力を振るった彼女は駆けつけた衛兵らしきペインと名乗る青年と戦闘を行なっている。
「シッッ!!」
ペインが刀剣を一度鞘に戻し、一瞬の集中の後掛け声と共に鋭く解き放った。
魔力での強化が付与された斬撃が凄まじい速さでユラの首を目指し空気を切り裂いて行く。
防御が間に合わないと察したユラは体を大きく逸らす事でそれを回避する。そこで彼女は青年の剣技に妙な違和感を、絶大な威力を持つ一閃の中にある不自然な隙を見つけた。
元々ペインの使用する西洋剣は彼の目標とする剣の型には向いていない。どれだけペインが実力者であったとしても用途にそぐわない道具では充分なパフォーマンスは発揮できない。
それは小さな、小さな綻びではあるのだが銀狼族が持つ天性のバトルセンスが見逃すような物では無かった。
『氷獄』
因縁の相手、奴隷商人カーマスの呪縛を断ち切った神から賜った奇跡の名。相手を即座に氷の彫像に閉じ込めることが出来る魔術の名を口にする。
結晶の粒が可視化されるほどに立ち昇る魔力の輝きを反射し煌く。
残酷なまでの冷気と純度の高い魔力を纏った氷柱がペインの足元から急速に成長していく。
それを見たペインが咆哮を上げながら西洋剣を足元へと突き刺し、魔力を操作した。
『戦神咆哮』
凄まじい圧力がペインを中心に逆巻く。
そして、次の瞬間訪れた光景にユラは目を疑う。
ペインの足を侵食していた氷が雄叫びと共に砕け散ったのだ。
彼が使用したのは魔法では無い。魔力を用いた魔法以外の技術、身体能力の強化もその一種だが今ペインが使った物はその魔力操作を技の域までに練り上げた物である。
彼の憧れるライトニングという人物の扱う剣技もそれに該当するが、『戦神咆哮』は源流を別にしていた。
魔力を極限まで圧縮し身体中に浸透させつつ己の周囲を破壊するべくそれを解き放つ。これこそがペインが元々扱っていた技のひとつだ。
つまり、その完成度は先ほどまでの見様見真似の物とは段違いである。
凄まじい咆哮でユラの魔法を弾き飛ばしたペインは赤い闘気を立ち上らせ静かに地面から剣を引き抜いた。
「私はライトニングの様に流麗な剣術に憧れていた…だからこの剛の剣は捨てたつもりだったんだ。彼の、首を最短で落とす事で苦しみを与えず死を与えるという流儀を…私は」
ここからがペインの本気なのだろう。雰囲気も知らない誰かの褌で戦っていた時とは雰囲気がまるで違う。
だが…。
ああ、なんで私はこうなのだろう。
なにもかも無くして、もうバジルさん達との繋がりに縋るしかない私。それなのにどうして…。
私はこの状況を楽しいと感じているのだろう。
銀狼族が高い魔力と戦闘力を保持しているのは祖先である魔獣、銀狼に近い先祖返りに近い存在だからだと言う。
だからだろうか、こんなにも私がこれほどまでに戦いに対し高揚感を覚えているのは。
「はは…ははは」
笑っている。誰の?私のだ。実に楽しげな乾いた笑い声。
だと言うのに涙が止まらなかった。
その様子をペインは油断なく見据えているが、どこか戸惑った様な雰囲気を漂わせている。
それも無理はない。
壊れた様に笑い泣くユラは、その弱々しい姿とは反対に魔力がどんどん増大しているのだ。
まるで無邪気な獣。
「ははは」
今、無性にあの友人達に会いたかった。
普段無表情なのに、彼の作った食事を食べる時だけ笑顔を咲かせる人形の少女に。
女性の様な格好をして妙にいい香りを漂わせている恩人の男に。
共に旅をした期間は短く、わざわざ語る様なエピソードも無かったが他愛のない話をしながらキャンプをするのはとても楽しかった。
普段荒っぽいくせにふとした瞬間母性を感じさせる表情を浮かべる彼に思わず甘えてしまいそうになったのは記憶に新しい。
あの時間に縋りたい自分がいる。
そのためには…。
目の前の男を倒す必要があった。
騒ぎを聞き付け他の兵士達もいずれ集まってくるだろう。出来ればその前に、いやその全てを打ち倒しバジルの元へ行こう。
この力で…恩を返すために。
今の私に出来るのはそれだけなのだから。
諦めからか、暗い表情で決意を固めたユラは高めた魔力を結晶の爪へと集中した。
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