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scene 7



「き、昨日、日暮って先輩が、告白してきたの。」


僕の渡した服を着た真菜は、僕の隣に腰掛けながらぽつりぽつりと話し始める。


「それを断っても、先輩はしつこくて、わたし、走って逃げたの。

 それで、今日学校に行ったら、クラスの女の子が、急にいろいろ言ってきて、わたし、怖くて無視してたの。

 でも、昼休みにわたし、逃げれなくて、トイレに連れ込まれて水をかけられて、『話し方が変』とか、『いちいちどもって気持ち悪い』とか言われて。」

「っ!」


真菜が、自分の話し方をどれくらい気にしているのかを知っている僕にも、真菜の痛みは想像がつかなかった。


「それで、わたし、もう駄目になっちゃって、走って逃げて……

 逃げちゃダメだってわかってても、もう、駄目で……」


服の裾を握りながらそう言う真菜に、僕はどんな言葉をかけるべきか迷った。

真菜はどんな言葉を欲しがっているのか。

どんなことを思っているのか。

幼馴染でも、わからない。

わからないこと、ばっかりだ。


できることなら今すぐにでも犯人を八つ裂きにしてやりたい。

でもそれじゃあ何の解決にもならないし、きっと真菜は望まないだろう。

僕は今、何をするのが正解なのか。

今日何度目かの問いかけに、やはり答えは存在しない。


「真菜、僕はね、逃げてもいいと思うよ。

 ありきたりかもしれないけど、嫌なことから逃げたっていいと思う。

 逃げれるときは逃げて、逃げれないときは誰かに頼って。それでいいんじゃないかな。」

「あ、あ、ありがとう。

 やっぱり、優しいんだね。」


優しい。

優しい、か。


「僕は優しくないよ。

 ただ僕は真菜のことが……」

「ことが?」

「いや、何でもないよ。

 気分転換に何かしよっか。」


誤魔化すために僕はそう言う。

真菜はこくんと頷くと、何か考える動作をする。


「さ、散歩。」

「え?散歩?」

「うん。散歩。」

「雨だけどいいの?」

「傘させばいいから。それに、わたしの鞄学校から持ち帰らなきゃ。」

「あ、僕も置きっぱなしだ。」

「じゃあ、散歩のついでに二人で行こう。」

















ザァーと雨の音ばかりが聞こえる住宅街の中を、僕と真菜はいつも通りの立ち位置で歩く。

ただ、今日は振り返らないと真菜が見えないことが不安で仕方ない。

いつの間にか、どこかに行ってしまいそうで。おいて行ってしまいそうで。


やっぱり、相合傘に誘うべきだったかな。


「雨、少し弱くなった?」

「そ、そうだね。」


なんかいつものペースで会話ができない。

当然か。むしろ、いつもの通りに会話できたらおかしいよね。

でもやっぱりいつも通りがいい。


「ねぇ、真菜。

 学校行っても大丈夫そう?もしダメそうなら……」

「大丈夫。

 ゆーくんがいるから、大丈夫。」


後ろから聞こえてくる細い声に思わず僕は振り向くけど、傘に隠れてその表情は見えない。


――やっぱり、誘えばよかったな。



そこからは、ぽつりぽつりとたまに会話があるくらいでほとんどしゃべらないまま歩いた。

学校が近づくほど体が重くなっていく気がする。

でも、真菜が行くって言ってるんだから、僕がやめようなんて言えるわけない。


授業中だからか、昇降口に人はおらず、雨の音だけが響いていた。

僕と真菜はほとんど話さないまま靴を履き替え、静かに階段を上がる。


「まず、真菜の荷物から持ち帰ろうか。教室の中?」

「うん。」

「そっか。じゃあ、僕が中に入って取ってこようか?先生もいるだろうし……」

「大丈夫。たしか、この時間は自習。」


やっぱり、真菜は僕を頼ってくれない。


「真菜。」

「うん。大丈夫。」


真菜はそう言うと、ガラッと教室のドアを開けて中に入る。

そのまま何も言わず、ただすたすたと歩いて自分の席に行くと、脇にかかっていた鞄を手に取った。


「あれ?来たんだ。来ないかと思ってた。」


真菜の斜め後ろの席の女子が真菜に向かってそんなことを言う。

真菜は一瞬びくっとしたが、何も返事せずに僕のほうへ来る。


「あれ?何も言わないの?」

「……あ、あなたと、話す意味もな、ないので。」


真菜は右手を強く握りながら、はっきりとそう言う。


「はぁ?お前、何様のつもりなの?」

「…………」

「え?無視?無視したの?

 ねぇ、はーちゃん~、あたし無視された~」

「え~、真菜ちゃんひどーい!」


唖然とするしかない。

この人たちは何をしているのだろう。


「ゆーくん、行こ。」

「……何も解決してないけど、いいの?」

「ゆーくんがいれば、何でもいいよ。」


真菜はすたすたと歩いて教室を出る。


何もいいわけがないじゃないか。

明日から、学校行ってどうするんだよ。

ずっとあんなこと言われていいのか?

あんな態度をとられて、いいわけあるか。


「真菜。本当に――」

「わたしには、どうしようもないよ。」


諦観したような、悲しむような。

その言葉は、ただの言葉じゃない重さを持っていた。


「……真菜、先に昇降口行ってて。僕は荷物をとってから行くよ。」

「うん。わかった。」


僕は真菜の返事を聞いてから、自分の教室に入る。

教室では、ちょうど担任が数学の授業をしているところで、生徒はみな集中していた。


「ん?ああ、堀木か。」

「はい。荷物を取りに来ました。」


僕はそう言って自分の席にかけている鞄を手にもつ。

すると、後ろの席の飛葉が文字をノートに書いて、それを見せてくる。


『粟野さんはお前が何とかしろ。あの女子たちは俺たちでどうにかする。』


それに驚いて飛葉の顔を見ると、こくりと頷いてくる。


ははっ。

かっこよすぎるだろ、お前。





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