07 ~全然~
すみません、大変遅くなりました。
今回はまだリア充登場できそうにないです。
高天原にあるビル群のひとつの地下には自然派の本部がある。
そのビルの最下層、その一室、清掃員でも雇っているのか清潔感のある部屋だ。
その部屋はさながら社長室のようだ。
実際にその部屋は自然派の頭目、ピュシスの仕事部屋なのだから、あながち間違ってはないだろう。
それはそうと、あながちってどこか卑猥だと思いません?
ピュシス、彼の眼前には二人の女性が立っている。
一人は聖戦愚戦と呼ばれる赤髪のツンとした印象を受ける女性、仕事場などでは相手にしたくないタイプ(それも上司だったり先輩だったりする)だろう。
もう一人は黒髪、それも吸い込まれそうなほど黒い髪に整った鼻、均整の取れた唇に釣り合う美しい肌、ただ人を射殺すような目付きは常人であれば目が合っただけで怯え数歩後ずさりしまいそうな程である。
右目が半分黒髪に隠され、左側の髪の毛はモミアゲの部分を少し残して、全て後ろ側に結っている。
ポニーテールだろう。
全身を覆うコートはひとたび夜に紛れれば夜の闇との区別が出来ないほどだ。
「フ……フフフ……楽しみだなぁ……フフフフフフフ」
「……その反吐が出そうなほど醜悪で気持ちの悪い笑い声を即刻止めてください脳天をぶち抜いてクリリンのようにしますから動かないでください」
パンッと音がして火薬特有の臭いがする。
連続して音がこの部屋に鳴り響く。
計六発。ピュシスの後ろの高級感と実用性を兼ね備えた椅子に六つの穴が空いた。
「君の腕は信用してるんだけどさぁ、そういう所どうにかならないの? 矢島 銃器ちゃん」
彼女、矢島 銃器が両手に持った拳銃にすばやくマガジンをいれ、コートの中にそれを忍ばせる。
拳銃はどこのメーカーの製品とも異なるが、グリップ部分にはローマ字でYAJIMAと書かれている。
そのことからこの拳銃はYAJIMAという会社あるいは団体のものだとわかる。
「これはどうしようもない癖や変えようのない性と言うものです無視してくださって構いません」
冷静に感情の乏しい顔で言い放つ。
数秒間が空く。
会話が途切れるのを見計らい、彼女らのやり取りを居心地の悪そうに見ていた聖戦愚戦が口を開く。
「ピュシス様、楽しみ、とは何のことでございますか?」
ピュシスは机に肘をつき、薄気味悪い笑顔で言う。
「面白そうな神通力を見つけてね、荒御魂になるように仕込んでおいたのさ。彼女が使えるかどうか、銃器ちゃん見て来てちょうだいな」
銃器は首肯する。
コートを翻し、扉を開け、外へでる。
彼女のいた場所には一枚の請求書。
矢島 銃器、自然派に雇われた殺し屋。
殺し屋、というのは不適切なのかもしれない。だって彼女は人を殺さない。
彼女のやることは対象の生きた痕跡をなくすこと、対象を依頼者のところまで連れて行くこと。
それだって殺すことと同じかもしれない、なんて思ったことが彼女には遠い昔のように感じる。
もう止めたいと何度願ったことか、でもそれが出来ない。
”矢島”はいつまでも彼女を見ているから。
矢島という一族は代々、様々な人間に雇われ、対象を、人を人とも思わない冷酷さで殺してきた。
忍者、透波なんて昔は呼ばれていたらしい。
彼女は今いる一族の中でも異端である。
だってもう人を殺したくないから。
初めて彼女が"人"の死を見たくない、忌避するものだと思ったのが小学五年生の春、聡明で優しさの溢れる母が死んだときだった。
今までしてきたことがどれだけ愚か、嫌というほど実感した。
だって彼女の母を殺したのは、彼女自身だったから。
誰かに依頼された彼女の父親が彼女に殺すように指示したからだ。
あらゆる火器に精通し、完璧に使いこなす。
だが神通力は持っていない。
別に持っていなくともおかしくないが、神通力を持たずにここ、高天原にいることがおかしいのだ。
高天原には安全性を考慮した結果、神通力を持っていない者が島に入ることを規制している。
そしてそういう人々は必ず見える位置に特別なタグを着けていなければならない。
請求書を拾い上げ、恭しくそれをピュシスに渡す。
それを見てピュシスが一言、
「また経理の子に怒られちゃうなぁ」
矢島 銃器に仕事を依頼すると高額な請求書が届くのだ。
金を友人、肉親、闇金業者等に片っ端から借りてようやく足りるぐらいだろうか。
菅原高校、保健室から程近い玄関付近の廊下。
龍也が黒尾や一昏川、久遠 主音に先ほど起こったことを話し終えるぐらい。
美人とは言えないが決して醜くはない、黒髪にそばかす、視力のいい人が掛けようとすれば目がくらむような度のきつい眼鏡と人を非難しているかのような目つき、身だしなみはきちんとしていてキレイに三つ編みをしている。
自ら地味に、若しくは他人の目に留まらないように、自分から他人を遠ざけるようなオーラを全身から醸しだしている。
黒髪三つ編み眼鏡ちゃん、本名は万丈 彩菜。
彼女の足取りは熱にうかされたように、ふらふらと不安定で危なっかしい。
(今日は最悪だ。最低な日だ。犬に噛みつかれるわ、水ぶっかけられるわ、それに変な部活勧誘に捕まって体中まさぐられるわ、堪ったもんじゃない。極め付けに体がだんだんだるくなって、辛い……)
それに自分の神通力の制御が効かなくなっているのがわかる。
したい。味わいたい。
快感を、快楽を、自らを傷つける喜びを再びこの身に刻み付けたい。
もっと傷つけると溢れ出る血が見たい。
もっと刃物を刺し、感じる痛みをこの身に得たい。
もっともっともっともっともっともっともっともっともっと気持ち良くなりたい。
気持ちよくなりたい気持ちよくなりたい気持ちよくなりたい。
この欲望を抑えるのにはどうしたらいいのだろうか。
そこへ一人の男が近づいてくる。
風紀委員長で芸術の九女神の神通力を持つ久遠 主音、風紀委員長なのに全力で風紀を乱しているが本人は全然わかっていない模様。
廊下にもたれている万丈に気づき、大丈夫かいと声を掛ける。
自分などに気に掛ける者なぞいるものか、幻聴に違いないと切り捨てるがそうではないらしい。
肩をとんとんと叩かれる。
顔を上げ、目と目が合う。
―――――――簡潔に言うならば、惚れた。
その瞬間、万丈 彩菜の内側のなにかが溢れ出す。
和御魂が荒御魂にギリギリと音を立てていくような感覚で切り替わる。
黒、負とも呼べるものが彼女を覆っていく。
比喩ではなく本当に。ゆるり、と立ち上がる。
主音は数歩後ろに引き下がる。
「あ、アハハ、ナニィ此レ、気、キモヂィ、アッ、イダッ、アッ、ガッ」
グルンと目が上に向く。
全身が黒に覆われる。
武将を思わせる装飾、その装飾にそぐわない鞭を持っている。
状況を呑み込めず、困惑している主音だったが、自分が危機的状況に陥っていることを認識した。
「くっ、なんなんだ! ムー」
芸術の九女神を呼ぶ前に鞭が飛ぶ。
的をはずした鞭の先端があたり、廊下のガラスが激しい音をたて割れる。
そしてその音を聞きつけ、龍也、一昏川がやってくる。
いつになったら帰れるのだろうか。
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神通力の紹介をしようのコーナー
天秤
分類:任意使用型
ステータス:神としての力B
破壊力E(罪が重い分ランクが上がる)
射程距離B
精密動作性F
成長性D
知名度D
スキル:[審判]自分と相手の罪をはかり、その分の罰を下に傾いた者に与える。
[法廷作成]大きい天秤と攻撃が無効になる特殊な空間を作り出せる。
補足:ものすごく最近になって出来た神通力です。
見てくださってありがとうございます。
もし気になることがあったら、是非是非感想をよろしくお願いします。
おっそーい!