Episode-6 伊集院朝日
「さっきは大活躍だったね、夏目くん?」
荒川が教室を出て行ってすぐに出席番号2番の優男にそう話しかける。
「……一体何の用だ。伊集院朝日」
「あはは、そう警戒しないでよ。そんなに警戒されると参っちゃうな」
「警戒するな、って言う方が無理な話だ。端末を見る限り約5000万円もの詐欺をして捕まったと書いている。そんな詐欺師を信用なんてできるわけないだろ」
「うんうん、確かにそうかもね」
俺が伊集院を警戒する理由を述べると、伊集院はその胡散臭い笑顔を崩さずうんうんと首を縦に振りながら俺の言葉に同意する。
こいつは一体何を考えているのか全く読めないからか得体の知れない怖さがある。
「僕はね、言葉は巧く扱う事ができるけど、残念ながら自分の身を守る術がないんだ。護身術は少し齧った事はあるけどホントそんくらいだしね」
唐突に始まった自分語り。
俺はあくまでも興味ない風を装うようにスマホを取り出してそれに視線を落とすが伊集院の一人騙りは止まらない。
「だからさ、僕は君の友人になりたいんだ。このクラスで最も危険な人物は圧倒的に君だ。でもさっきのやりとりを見る限り君は無意味な暴力は振るわない。僕は君の……強い人間の友人になってこの学校を安全に過ごしたいんだよね」
「……」
「この学校にいる限り僕たちには常に死の危険が付きまとう。僕は今はまだ死にたくないんだよね」
こいつの自分語りはいつ終わるのだろうか。
誰も立ち上がらず自分の机で時間を過ごしている中、俺の机の近くで1人ペラペラと喋っている伊集院は異質な存在だ。
流石詐欺師とでも言うべきかよく口が回る。
俺はずっと伊集院の事を無視し続けていたが、教室の前方にある時計に目を向けるとそろそろ授業時間になるようなので顔を上げて伊集院に向けて仕方なく言葉を発する。
「そろそろ授業だ。自分の席へと戻ったらどうだ?」
俺の声を聞き、伊集院は後ろを振り返り時計の針を確認する。
「……そうだね、そろそろ自分の席に戻るよ。絶対に君の事を口説いてみせるから待っててね」
そう言ってウインクを決めてみせる伊集院。
しかしその直後伊集院の顔は影を帯び、先程と同一人物とは思えないほど真剣な表情へと変わっていた。
「……僕は何をしてでもこの学校で生き残ってやる。まだ死ぬわけにはいかないんだ」
それがまさか伊集院から聞こえてきた言葉だとは思えず、思わず二度見してしまうがもう既に彼は先程1人でペラペラと語っていた時の顔へと戻っており、自分の席に座った。
それから唯一教室から出ていた荒川がバンッと豪快に扉を開け戻ってきてら自分の席へと腰を下ろしたあたりでようやく五十嵐先生が教室に来て授業が始まった。
俺は皆が黒板に目を向けている中、出席番号2番の伊集院朝日に視線を向けて案外このクラスも面白いかもな、と思ったのだった。




