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6 貴族の義務だからでしょう

「シラソル男爵令嬢を無理に昼食に誘うのを止めてもらいたい」

「は?」


 同学年の生徒もいるが彼らはAクラスではない。従ってシエルたちの普段の様子が分からないのだろう。

 シエルは彼らに気付かれないようにため息をついた。

 ランチの誘いはいつもラフィーからだ。


「いいかい。シラソル男爵令嬢は庶子とはいえあの容姿と頭脳だ。なぜ学園に入学したと思う?」


(貴族家に引き取られた以上、貴族の義務だからでは?)

 シエルは心の中で答えた。


 先程とは別の子息が引き継ぐ。


「君には分からないだろうがシラソル男爵令嬢は優秀とはいえ庶子。男爵夫妻に実子はおらず貴族の婿を迎えねばならない」


「いや、シラソル男爵令嬢は美しく優秀だ。いくらでも彼女を迎えたい家はあるだろう。男爵家は養子に継がせ、彼女は家格が上の者に嫁がせるおつもりに違いない」

 そういうのは伯爵令息だ。シエルが呆れて何も言えずにいると、男子生徒が苛立った様子を隠すでもなく大声で叫んだ。


「ここまで言っても分からないか?彼女は将来の伴侶を自身の目で選ぶために学園に入学したのだよ!」


(いえ、だから貴族の義務だからでは?)


 そもそもラフィーを嫁がせるにしても婿を取って男爵家を継がせるのだとしても、本人には選ぶ権利はない。

 彼らが言うように庶子なのだからなおさら、送られてきた釣書の中から一番家のためになり、ラフィーを十分フォローできる人材を男爵夫妻が選ぶに決まっているではないか。


 シエルはそう思ったが口には出さなかった。

 ラフィーが今この生徒たちの誘いを断っていることは周知の事実。この方たちが公衆の面前で可笑しなことを言えば言うほど「ラフィーが男子生徒を侍らせている」のではなく、「(頭のおかしい)男子生徒の方がラフィーに侍っている」のだと言うことも周知されるのだ。

 それに彼らはラフィーのそばからシエルを排除しようとして殿下たちの様に適当な言い訳を考えてきたのだろうが、先程から「庶子」だ「庶子」だとうるさい。この言いようでは貴族家の婿にならねば将来平民になってしまう騎士にも文官、貴族家の使用人にもなれそうにない次男三男が自身の保身のために「庶子」であるラフィー様の伴侶の座を狙っているようにしか映らない。


──好都合だ。



「君はその彼女のやるべきことを邪魔しているのだよ!」


 放課後の馬車止め。そんな人通りの多いところでこの騒ぎ。

 ラフィーではなく、この令息たちが可笑しいのだと良識ある生徒は理解してくれたに違いない。

 しかし彼らは分かっているのだろうか。

 万が一男爵がこの中からラフィーの伴侶を選んだとしてもそれはひとり。

 この様に目立つところで非常識なことを宣っている姿を見て、未だ婚約者のいない令嬢はどう思うだろうか。

 しかも嫡男はともかく婿入り希望の令息と──婚約者がいるであろう令息もいるように見えるが、大丈夫なのだろうか。

 婚約とは家同士の契約でもあるため令嬢が嫌がっても受け入れられないことは当然ある。しかし、寄ってたかって一人の令嬢に侍り、人目も憚らず意味の分からないことを言いながらその友人の令嬢に絡む・・・例え家同士の契約とはいえ、次代がこれでは円を繋ぐ価値はないと判断されるだろう。

 もちろんシエルは、今夜にでもそんな令息とは婚約したくないと名を挙げ親に報告するつもりでいる。


 そろそろ反撃を──と思ったところて声が掛かった。


「毎日昼食にはシラソル男爵令嬢がフルーガ子爵令嬢を誘っているよ」


 振り向くとそこには同じクラスのレスト・ファブロス伯爵令息が立っていた。


「シラソル男爵令嬢はいつも熱心に授業に取り組んでいるよ。伴侶探しのためになんて言うのは失礼だ。

 それに貴族子女の伴侶を決めるのは本人じゃない。当主だろう」


 レストの「君たちが何を言っているのか理解できないよ」と言わんばかりの態度に笑いが出そうになる。

 シエルに絡んでいた男子生徒たちも意外と周囲に人がいたことに今更気付いたようで、分かりやすく怯んだ。


「し、しかし、本人の口添えくらいは許されるだろう」


(え、ここで食い下がるの?)


「そうだとしても大切な友人に詰め寄る令息を伴侶にと望むだろうか?」


「「「・・・」」」


 誰も何も言えなくなったところで、レストは「では、もう彼女に用はないね」と言い、その場からシエルを連れ出してくれた。


「大丈夫かい?送るよ」


 レストはそう言ってフルーガ子爵家の馬車のところまでシエルを送ってくれた。

 先程の令息たちとは大違いだが、これが貴族令息の普通の対応である。

 しかし最近は先程の男子生徒や第一王子などと言った常識から離れた男性とばかり関わっていたため、このように扱われると、自ずと好感度が上がってしまうのも仕方がないだろう。


「ありがとうございました」


 わずかに頬を染めレストにお礼を言うと、シエルは馬車に乗り込んだ。






 翌日は休日。

 シエルはエッセに会うために紅茶店に足を運んだ。(クソ)司教に報告をするためにはまずエッセにコンタクトを取ってもらう必要があるからだ。


 珍しいことに誰もいないはずの店内に人の気配があった。


「あら・・・」

「君は・・・」


 先客と目が合った。

 なんとレスト・ファブロス伯爵令息だった。


「紅茶しか出さないこのお店に入るなんて、どんな方かと思いましたが、ファブロス伯爵令息でしたか」

「おっほんっ」


 エッセのわざとらしい咳払いが聞こえたけど、華麗にスルーし、シエルは続けた。


「昨日は助けていただきありがとうございました」


シエルが改めて礼を述べると、


「礼には及ばないよ。あれは完全な言いがかりだったし、私が声を掛けずとも君は自力で彼らから離脱していたのだろう?」

と、楽しそうに返された。


「言いたいことはファブロス伯爵令息が言ってくれましたのでスッキリしました」


 反撃するにしても『スキル』を使うわけにはいかないため正論パンチ(言いたいことを言う)くらいしか出来ない。

 きっとシエルが言うよりレストが言った方が、与えるダメージも大きかっただろう。


「何かお礼をしたいのですが・・・」


 シエルがそう言うと、レストは笑って言った。


「礼など不要だよ・・・って言いたいところだけど、奢ってもらおうかな。君の好きなブレンドの紅茶を」


 変わっている・・・でも優しい令息。

 それがレストの印象だった。

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