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【完結】訳あって『王家の影』、やっています  作者: Debby


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5 逃げる王子、絡まれるシエル

 モディアス・リドラーン第一王子とその婚約者であるフィリー・ワイスハイツ公爵令嬢は共に学園の三年生である。ちなみに第一王子はワイスハイツ公爵の後ろ盾を得、現在リドラーン王国の王太子でもある。

 側近である二人の令息含め、皆優秀といわれるAクラスの生徒だ。


(この様子では「学業では」という注釈が付きそうだけれど)


 しかし学年主席は初等科の頃からワイスハイツ公爵令嬢であったため、第一王子は幼いころから婚約者にコンプレックスを持っていた。──これはラフィーからの情報だ。

『転生ヒロイン』だからわかることなのだという。謎の多いこのスキルは、殿下たちの卒業式の日までに限り効果を示すスキルだと言っていたが、関係者(しかも王族!)の背景や内情まで分かるとは恐ろしいスキルであるとシエルは思った。

 予定より早めに報告した方が良いのかもしれない。

 

 ワイスハイツ公爵令嬢は第一王子のそばまでやってくると、立ち上がりかけている私とそれを引き留めるように手を添えるシラソル男爵令嬢を一瞥した。


「殿下、なぜこの様なところにおいでに?」


 ワイスハイツ公爵令嬢が再び声を掛けると、第一王子は鬼の首を取ったかのように美しい(かんばせ)に嫌な笑みを浮かべて言った。


「フィリーよ。この様な、とはいささか傲慢な言いようだな。下位貴族用レストランだとバカにしているのか?」

「そうですよワイスハイツ公爵令嬢。我々は時折こうして異なる身分の者と食事を共にし、その声を聞くことも大切なのではと考え、本日はこちらで食事をとることにしたのです」


 前回同席を断られた殿下御一行は、今回はここで食事を摂る正当な理由を考えて来たらしい。


「そうでしたか」


 ワイスハイツ公爵令嬢の納得した様子に、あからさまにほっとする王子たち。いや、未来の国王がそんなにわかり易くていいのだろうか。


「ならば殿下、周囲を見てくださいませ。殿下がなかなか食事を摂られないため誰も食事を摂れずにいますわ」


 ワイスハイツ公爵令嬢にそういわれ、周囲を見た殿下は言い訳のようなセリフを口にした。


「それは申し訳なかった。今日は編入してきたばかりの男爵令嬢に市井の話を聞こうかと思って来たのだ。みな楽にして食事を再開させてくれ」

「まぁ、そうですの。私も興味がありましてよ。ご一緒しても?──フルーガ子爵令嬢もお座りになって」


 ワイスハイツ公爵令嬢が自分の名を知っていたことに驚いたシエルは、第一王子より公爵令嬢(この方)の言に従うべきだと本能が告げるため、そのまま腰をおろすことにした。

 ワイスハイツ公爵令嬢はシエルが着席したのを満足そうにみると、同じくテーブルに着こうとする第一王子たちにすかさず言った。


「殿下はこちらですわ」

「は?」

「下位貴族用のレストランではご自分で給仕をするのですわ。その代わり好きなものだけを選ぶことが出来るのです」

「なんだと?私が自ら給仕を!?」


 ワイスハイツ公爵令嬢はそう言って戸惑う殿下とその仲間たちを引き連れ、盆と食事を取りに行ってしまった。

 下位貴族用レストランの仕組みも理解しておられるとは・・・流石次期王太子妃である。

 殿下たちはよい笑顔で盆を差し出す公爵令嬢を見、カウンターに無造作に置かれた皿に乗った何種類かのランチメニューを見、あそこから自ら選び取るのだと説明を受けると用事を思い出したと言ってそそくさとレストランを後にしてしまった。


 下位高位に限らず貴族はみんな裕福とは限らないし、税金で生活しているので贅沢はできない。

 こと下位貴族は人数も多いので、1テーブルに1名給仕がつく高位貴族用レストランと同じシステムにすると、おそらく全員が昼休憩内に食べ終わらないだろう。

 

 殿下が逃げたことは不思議ではないが、なぜワイスハイツ公爵令嬢がここまで詳しく知っていたのかという疑問は残る。

 その公爵令嬢もテーブルに戻って来ることはなく、「では皆さん、ごゆっくりお食事をお楽しみくださいね」と言い残して出ていってしまった。

 どこからか前回のことを聞き及んで、殿下が二度とここに来る気が失せるように仕組んでくれたのだろうか?

 将来『影』として仕えるかもしれない方との会遇に、シエルは少し未来が楽しみになった。






 シエルと行動するようになり、ラフィーが男子生徒を侍らせているという噂は下火になりつつあるが、相変わらず誘ってくる男子生徒はいるため鎮火もしてはいなかった。


「フルーガ子爵令嬢!」


 ある日の放課後、シエルは馬車止めでラフィーと別れたところで、複数の男子生徒に呼び止められた。


(子爵に男爵・・・あら、伯爵家の方もいらっしゃいますね。皆さんラフィー様を食事に誘って私と食べるからと断られている方々ね)


 断られる度にシエルを憎らしげに睨み付けていた生徒たちだ。ならば彼らの用件は十中八九ラフィー関連。

 まさか彼らは巷で流行っている小説でよくある()()を言いに来たのだろうか?

 あの嫉妬から恋人でもないのに他人の交遊関係に口を出す「◯◯様に近付くのを止めなさい!」的なアレを。

 シエルのことを彼らに『お友達』と言っているのはラフィーなのだし、そもそもシエルとラフィーは同性なので前提が違うのだが。

 シエルは何を言われるのかと面倒に思いながら、ゆっくり足を止めた。

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