35.墓場
俺と白燈は街へ降りた。
俺たちを待っていた猪倉さんと合流する。
先生と楓、 龍の待つ病院に向かう。
車内の中では猪倉さんと白燈が、
戻った記憶について話をしていた。
白燈の目はしっかりしていて、
もう大丈夫なんだと思った。
俺は話には混ざらずぼーっと、流れる景色を見ていた。
病院に着くと楓に飛びつかれた。
先生はまだ麻酔が効いてるらしく寝ていて、
龍は俺たちが着く少し前に目を覚ましたばかりらしい。
何やら必要そうな書類や手続きは、
猪倉さんが全てやってくれた。
俺たちは先に病室に行く様に言われ、 龍の病室に向かった。
「 楓、不安だっただろ?
来るのが遅くなってごめん。」
楓はにっこりと笑って、
謝る俺と白燈の頭をがしがしと撫でた。
いつもの楓らしくない、ちょっと雑で。
それでも優しい楓を感じる撫で方。
予想外の反応に俺と白燈は拍子抜けした。
また泣き出すか、文句言われるくらいだと思ってたのに…。
「さっきのは2人の顔見て、安心したっていうか…。
そもそも!こう見えても僕、最年長だからね?それにさ…。」
「…?」
白燈を見て微笑む楓。
白燈は首をかしげる。
俺はそんな2人の顔を交互に見た。
「解決、したみたいだし?
元々何があったのかも知らないけど。
…良かったね、見えるようになって!」
「!!…ありがとう。」
笑いあう白燈と楓。
やっぱり楓は詳しく聞いてこなかった。
それはずっと変わる事のない、 楓なりの優しさ。
その優しさにいつも、救われている。
…甘やかれてるとも言えるけどね。
そんな話をしていると、 龍の病室の前まで来た。
2人に勧められ、俺がノックをする事になった。
……え、改まると緊張するんだけど。
息を吐いて、ノックをした。思ったより小さいノック音が響く。
中から龍の声が聞こえて、そっと扉を開けた。
カーテンがしてあって、ここからでは龍の姿は見えない。
「あ〜、 龍?…あっ、」
「 黒埜?」
カーテンの奥を覗いて、すぐ後悔した。…先客が居た。
先客に見覚えはなく、茶髪でロングヘアの女性だった。
ロングヘアはハーフアップで綺麗にまとめられていて、
綺麗な大人の女性だった。
そんな人が龍に何の用事だ?
「あ、ごめん。先客が居たとは思わなくて…。」
「あぁ気にしなくていいよ。もう帰るから。」
俺に笑いかけてくれるが、何処か言葉に棘があるように感じる。
というか帰るのは女性の方なのに、勝手に帰るとか言ってないか?
しかし女性は特に反論せず、目が合うと微笑んでくれた。
ちょうど話終わったタイミングだったのかな。
いやでもそんなタイミング良く話終わるか?
何か引っかかるなと思っていたら、女性がバックを持って立ち上がった。
「いつもうちの“息子”がお世話になっています。
龍の母です。」
「…えっ!?お母さん!?
あ、こちらこそいつも龍に助けられてて…。
えっと、黒埜です。」
「仲良くさせて頂いてます、 楓です。」
「 白燈です。」
丁寧に一礼する龍のお母さんにつられて、
俺たち3人も頭を下げた。
龍って、お母さん居たのか。
詳しい事を知っている訳じゃないから何とも言えないけど、
ただ分かるのは龍の機嫌が明らかに悪い事だ。
「じゃあお大事に。退院したら“みんな”で、
ご飯でも食べに行こうね。」
「…。」
がん無視する龍に微笑んで、
俺たちに頭を下げて部屋から出て行った。
すると龍はさっきと打って変わって、
大きくあくびをしてベットに横になった。
「えっと、りゅ…」
「 龍、怪我は大丈夫だったの?」
言葉に詰まった俺の声に被せる白燈。
今空気を読むのだとしたら、
不機嫌の原因であろうお母さんの事に触れないでおく事。
…でもそれが本当に、正解なのか?
「あぁ見ての通り。何とかなったみたい。
そっちは俺が気絶してる間に解決したいらしいね?
目、良かったね。」
「まぁ…。色々巻き込んでごめん。」
「気にしないで、勝手にやった事だから。」
結局俺は何も言えず、他愛もない会話をしただけだった。
先生も龍も、
しばらくは検査などがあるらしく1週間は入院するらしい。
その間教会は代わりの神父が来たり、
シスターがどうにかするそうだ。
特に興味もない話で、途中から聞いてなかった。
ひとまず俺と白燈、 楓は教会へ帰った。
「…まさか帰ってこれるなんて。」
「ん?なんか言った?」
教会までは猪倉さんが送ってくれた。
施設の門の前に立つと改めて実感する。
俺はここを出る時、帰ってくる事は考えてなかった。
それなりを覚悟をして、ここを出て行ったんだ。
それが今、こうして帰って来ている。ここに立ってる。
先生や白燈や、 龍、 楓。
そして猪倉さんが。
俺を救って、育てて、一緒に過ごして、
真実を、話してくれたから。
全員のおかげで今、俺はここに居る。
「ほらっ!何突っ立ってるの?
早く中に入って、ご飯食べよっ!みんな待ってるらしいよ!」
「… 行こう、 黒埜。」
お腹を空かせた楓に手を引かれ、
そんな楓に呆れ笑いの白燈が背中を押した。
鼻をかすめたのはきっと夕飯の匂い。
感じるのはいつもの、何処か懐かしい空気。
どれもが俺の心を落ち着かせ、溶かしていく。
あぁ、ここが俺の日常だ。
帰って来たんだ、生きて帰って来た。
戻って来れた、俺の居場所に。
俺の、 白燈の、みんなの大切な“家”に。
「…ただいま。」
声が小さかったのは、照れくさくて恥ずかしかったから。
滲む視界の中で、バレない様に白燈を、
…… 洸を盗み見る。
変わらない、綺麗で美しい顔で笑ってる。
ここは俺の家で、居場所。生きる理由だから。
その場所で一緒に。
隣で笑ってくれる彼は、俺の__。
『墓場と白。』を読んで頂き、本当にありがとうございました。
書き始めた当初はここまで長編になるとは思ってもいませんでした。
書きたい事を詰め込んだ結果、こんな長編になっていました。
まだ書き足りない事はたくさんあります。
ここでは描かれなかった“彼ら”の過去につきましては、
今後ゆっくり更新していけたらなと思います。
ひとまず『墓場と白。』、2人の物語はここで閉幕です。
シリーズとして番外編や別の人物たちの過去話を
更新しようと思っておりますので、
その時はまたよろしくお願い致します。
今回主となっていた2人、 黒埜と白燈。
実はこの物語、とある曲を聴いて思いついたものでした。
その曲を聴いて、不器用でも生きる人たちを書きたいと思いました。
うまく書けていたかは分かりませんが、
精一杯の愛情をこの小説に詰めたつもりです。
改めまして最後まで読んで頂き本当にありがとうございます。
まだまだ改善点の多い私ではございますが、
温かい目で他作品も目を通して頂けたらと思います。
それではまたいつか。




