?.本能
死にたい、殺して。
そんな感情でいっぱいになって、
視界の全部が真っ黒に染まっていく。
もうだめだって、今度こそ死ねると。
…そう、思ったのに。
ううん、本当は。
生きれるのなら、許されるのなら。
生きたいと、まだ歩いていたいと思ってしまった。
黒埜が、居たから。
お姫様のキスでなんて、かっこ悪い王子だなぁ。
「はあっっ!!げほっ…げほげほっ」
「あぁ〜…大丈夫か?」
「大、丈夫、な訳……げほっ」
咳も止まらないし、本当にかっこつかない。
それなのに黒埜の顔を見ただけで、
どきどきする自分が居て情けないなと思った。
…可愛いから仕方ない。そうだ、僕は悪くない。
何だかキスに対してそこまで気にしない様子の黒埜。
…え、これって僕普通の反応だよね?
黒埜が意識しなさ過ぎるだけだよね??
ちょっと1人で不安になった。
キスされる直前を思い出す。
真剣な表情で近付いてきた黒埜の顔。
黒埜は自身を嫌って低評価ばかりするが、
僕が出会った人の中で誰より“綺麗な人”だと思う。
汚い大人ばかり見てきたから、かもしれない。
最初はそんな黒埜を、“偽善”だと思った事があった。
でも“この人なら信用出来るかもしれない”と思った事も確かだった。
最初から確信があった訳じゃない。
ただ一緒に過ごしていく中で、直感は現実味を帯びて。
壁を作っていた黒埜をもっと、知りたいと思うようになった。
僕に対する冷たい態度も、
傷付けたくないという気持ちがあってこそだと知った。
誰より優しい黒埜が、誰より大切になった。
黒埜は僕を綺麗だって言うけど。
僕からしたら、黒埜の方がずっと綺麗だ。
知れば知る程、 黒埜という人間に惹かれた。
それはまるで、そうなる事が決まってたみたいに、
僕の心に馴染んだ感情だった。
今考えれば先生も燿も。
黒埜の、目には見えない、人を惹きつける力を。
無意識のうちに、感じていたんじゃないかな。
黒埜が僕に名前にくれたあの日から、
気付けばずっと惹かれていた。
久しぶりに見た景色たちは、どれも眩しかった。
一気に思い出した記憶、時間が経って少しずつ思い出した記憶。
僕は確かに、 黒埜に救われた。
…本当は、怖かった。忘れていた事を探すのも思い出すのも。
でも、隣に黒埜が居てくれたから。
思い出さなきゃって、やらなくちゃって思えた。
僕とって黒埜が心の支えだった様に、
僕にもなる事が出来るのかな。
誰かの、いや。
他の誰でもない、 黒埜の支えに。




