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墓場と白。  作者: 劣
19/40

16.返事


それから。

度々外出する白燈ハクヒ

でももう、その姿を見ても怒りは湧いてこなかった。


「行ってくるね。」


そう言って額にキスをする様になった白燈ハクヒ

…恥ずかしいからやめて欲しいんだけど。

カエデには『嫌いなんて有り得ないって言ったでしょ?』って

どや顔で言われた。…恥ずかしい。

昼頃、先生手作りのブランコに揺られていた時。

カエデはその隣で木にもたれて、本を読んでいた。


「あ、黒埜コクヤくん!

これ!また届いてたよ!」


「あ、いつものだ。」


シスターが手に持って振っているのは手紙。

差出人不明の定期的に届く手紙。

カエデがシスターの元まで受け取りに行ってくれた。


「さて、今日はどんな事書かれてるかな?」


カエデの奴他人事だからって、ちょっと楽しんでるな。

封筒には俺の名前とこの施設の住所のみ。

ゆっくり手紙を開けると、数枚の便箋。

綺麗な字が並んでいる。

読み始めようとしたその瞬間、俺は手紙を閉じた。


「ちょっと!読めないじゃん!」


「…。」


急に手紙を閉じられて、カエデは不満げ。

いや、でも。手紙の冒頭にさ。


>>今回のこの手紙、黒埜コクヤ様お1人でお読み頂きたい。


冒頭初っ端だぞ。流石に驚くだろ。カエデ居るし。

今まで何通も手紙が届いたが、こんな事書かれてた事なかった。


「ご、ごめん。今回のは、見せられない…。」


「えぇ〜?尚更気になるやつじゃーん。」


ガックリと肩を落とすカエデ

目前まで来て、見せないなんて。確かに酷い話だ。

いつもの事だからって油断し過ぎた。


「んじゃ、向こう行ってる〜。」


「悪い。」


それ以上しつこくせず、すぐに身を引いてくれた。

カエデは妙に勘が鋭くて、空気を読むのが上手い。

俺が困った時、いつもそれに助けられてきた。

…今日のおやつ、譲ってあげよ。


「さて、1人になったし…。」


閉じた手紙をもう一度開く。

今までの手紙は俺が馬鹿なせいもあるが、

よく分からない事が淡々と書かれていた。

けれど今回の手紙は…。


>>突然の事ではございますが、黒埜コクヤ様。

>>実際にお会いし、御話したい事がございます。

>>その内容は、黒埜コクヤ様の御両親と

>>御友人である白燈ハクヒ様の“養子”についてでございます。


その文を読んで、背筋が凍った。

なんでこいつは、俺の両親を知っている?

それに白燈ハクヒの事も。

大体、施設育ちの子供に両親の話なんてしない。

こいつ、何者なんだ?

今まで適当に放置していたけど、凄いヤバい奴なんじゃ…。

今更ながら危機感を覚えた。


>>どうか内密にお会いしたいのですが、

>>御予定の調節が出来次第、ご連絡願いたいと思います。


そう書かれた後に、住所が綴られていた。

…え、この人の住所?

いや今まで差出人不明で名前も住所も書かなかったのに?

こんな簡単に自分の住所を書くか?


>>この住所は全く他人の住所です。

>>数名の方から御協力を頂き、こちらに届く予定ですので

>>返信には少し御時間が掛かる事かと思われます。


……考え予測されてたな。

俺と差出人の間に何人かの人を隔てて、

住所が特定されない様にしているのか。

慎重、というかどうしても素性を明かしたくないらしい。

まぁ実際会うのなら、素性も何も関係ない気もするが。


「としても、どうするか…。」


先生に内緒で連絡を取るのは出来ない事はない。

だが外出するとなれば、話は別だ。

…外出には、先生の許可がいる。

許可を貰うにはどうして外出するのか、話さなければならない。

内密に、なんて。不可能だ。

うーん…。とりあえず返事を書いてみるか。


急いで施設内に戻って適当な紙と鉛筆を探した。

あと書きやすい様に分厚い本かな。あ、あとテープ。

施設内だと人に見られる可能性が高い。

さっきのブランコまで戻って来た。

ブランコには座らず、木にもたれた。

書く準備は出来たが、手紙なんて書いた事がない。

どうすれば……。


>>予定は特にない。

>>けど先生にバレずに外出は出来ない。

>>外出するには、許可がいる。


……。我ながら何とも言えない出来だった。

慣れない手つきで便箋を作る。

ちょっと歪な便箋にその手紙を入れて、テープで閉じた。

便箋に住所を書いて完成。

切手は…、確か玄関の引き出しに入ってなかったっけ。


漁りに行くと、切手が数枚入っていた。

みんなが使いやすい様にここに入れてある。

切手を貼って、玄関から表に出た。

そのまま近くのポストまで入れに行った。


「あれ、黒埜コクヤ?何してるの?」


ポストに手紙を入れて、さっさと戻ろうとした時。

後ろから声をかけられて、身体があからさまに跳ねた。

振り向くと白燈ハクヒが居た。


「…おかえり。」


「ただいま。黒埜コクヤが手紙なんて珍しいね。」


そもそも字を書くのが嫌いだからな。

自分で言うのもあれだけど、珍しいどころかレア中のレアだ。

まさか自分でも手紙を出す日が来るとは思ってなかった。


「ちょっとな。白燈ハクヒはもう用事済んだのか?」


「うん、今日は早く終わったよ。一緒に帰ろ?」


手を差し出してくる。

いや、そこまでの距離じゃないし。わざわざ繋がなくても。

そう思ったが、白燈ハクヒの俺を伺う様な表情に負けた。

恥ずかしい気持ちを我慢しつつ、手を繋いだ。

ただ、手を繋いだだけ。

それなのに白燈ハクヒは、にっこりと笑った。


施設までのちょっとの距離を、ゆっくり歩いた。


ぼーっとする頭の隅で、

こんな日が続けばいいのにと。


そんな漠然とした考えが心に居座っていた。


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