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墓場と白。  作者: 劣
13/40

11.視線


つい2日前、優司ユウジさんと麗子レイコさんの

子供である女の子が1歳を迎えた。

僕はまだ神父になったばかりで覚える事も多く、

当日にお祝いをする事が出来なかった。


後から優司ユウジさんから送られてきた写真を見て、

意地でも行けば良かったと後悔した。

優司ユウジさんは悔しがる僕の姿を見て笑ってたけど。

割と真剣に落ち込んだ。


今日はようやく仕事がひと段落ついたので、

久々に顔を見にやって来た。渡せなかったプレゼントを持って。

優司ユウジさんと麗子レイコさん2人は

小さな研究所に篭り、日夜薬剤の研究に取り組んでいる。


その腕は確かで、大きな病院からも依頼を受けるほど。

この研究所があるのは小さな町だったが、

2人はとても有名で町中の人が利用していた。


『おーい…』


『あ!久しぶり〜、来たのね!』


扉を開けると丁度天使を抱いている麗子レイコさんが出迎えてくれた。

……。天使だ。相変わらず可愛い、可愛すぎる。

麗子レイコさんに抱かれて少し眠そうな顔をしている。

気分はもう、自分の妹の様な感じ。

シスコン?そんなの言わせとけばいいんだ!


『あぁ〜、折角のイケメンが、だらしない顔しちゃって。』


麗子レイコさんに抱っこを代わってもらって、

可愛さを堪能していると後ろからムカつく声が。

どうやら優司ユウジさんは裏で作業していた様らしい。


やっぱり2人並ぶと、美男美女。白衣が似合う夫婦だ。

きっとこの子も綺麗な子に育つんだろうなぁ。

なんて考えていると今度は指をさして笑ってきやがった。


『いつも外ではツンツンしてる癖に、

この子の前ではその仮面も溶けて無くなっちゃうんだなぁ。』


いつも僕が可愛がっているのを馬鹿にしてくる。

2人のおかげで他人と全く関わらないという事もなくなり、

今では昔なりたいとも思わなかった神父になった。

まさか自分が神父になるなんて、思いもしなかった。


目指したきっかけは、麗子レイコさんだった。

特に将来何がしたい訳でもなかった僕は、

どうしようかと悩んでいた。

その時、『案外合ってるんじゃない?』と言われたのだ。

優司ユウジさんには全力で止められたけど。


まぁ他人に興味のない奴が神父になろうだなんて無謀だし。

止める気持ちも分かるのだけど。

言われるがまま少し勉強してみると楽しくなってきて、

結果気付いたら神父になっていた。人生の急展開だった。

優司ユウジさんには最後まで心配された。

『子供虐待してそう』って真剣に言われた時は

流石に怒ったけど。…まぁそう見ちゃうのが悪いんだけどな。


『あら、そんな事ないわよ。

最近は教会の子たちの前でもよく笑うし、良い神父さんだと思うけど?』


『え、何それ知らない!俺にも笑ってよ!』


『なんで優司ユウジさんに笑いかけるんだよ、気持ち悪い。』


一刀両断され落ち込む優司ユウジさんを無視して、

天使に高い高いをしてみる。

楽しそうに笑う声に、つられて笑顔になる。


仕事でも子供と接する事が増えてきたおかげか、

あやすのも上手くなってきた気がする。

この子の笑顔を見ると改めて思う。

あぁ、神父やってて良かった!


『あ、そうだ。これプレゼント!』


1度優司ユウジさんに抱っこを代わって貰って、

持ってきていた紙袋を差し出す。

きっと喜んでくれるはず!…多分。


『わぁ!ありがとう!開けていい?』


『どうぞ。』


麗子レイコさんは紙袋に入っている水色の袋に

ラッピングされたプレゼントを取り出した。

それを机の上に置いて丁寧にりぼんを解く。

中身を知っているのに、なんだか緊張してきた。


『え、これって…!』


『うわっ!綺麗なワンピース!』


2人の反応を見て、思わず微笑む。

それは淡い水色のワンピース。

最近壁や机を支えに、1人で立とうとする様になったらしい。

それを聞いてすぐにこれだ!と思った。

折角可愛いんだから、女の子らしい物を贈りたかった。


『すっごく可愛い!!ユウくんなんかより全然センス良い!』


『え、待って?今のは聞き捨てならないんだけど?』


困惑している優司ユウジさんを華麗に無視し、

ワンピースを天井に掲げて喜ぶ麗子レイコさん。

…良かった、喜んでもらえて。

着せてみたいと麗子レイコさんが言うので、

早速お着替え。

1度奥の部屋に行き、僕と優司さんはリビングで待機。


『よし、準備は良い?行くよ〜!』


その掛け声と共に現れた天使に僕も優司ユウジさんも絶句。

しばらくフリーズして、麗子レイコさんに笑われた。

そんな感じであっという間に時間は過ぎて、

帰らなければいけない時間になった。


『えぇ〜!明日休みなんでしょ?泊まっていきなよ〜!!』


『そうしたいけど、家族の時間を邪魔したくないし。』


『何言ってんだよ。いつも言ってるだろ?

お前は俺らの家族の一員なんだよ!反対意見は認めませーん!!』


といった感じで結局泊まる事に。

当たり前の様に家族として迎えてくれるこの家が好きだ。

僕の育った施設より、ここが僕の帰る場所で故郷だった。


その後お風呂に入って、麗子レイコさんのちょっと癖のある料理を食べた。

頑張っているらしいけど、腕が上がるのはまだ時間が掛かりそう。

元々泊まるつもりなかったから、着替えは優司ユウジさんのを借りた。

…ちょっとでかいのが癪だけど。


『お前は細過ぎなんだよ、ちゃんと食べてんの?』


『うるさいなぁ…。』


お酒を飲んでほろ酔いになった優司ユウジさんの絡みは、

いつもの数倍うざい。通常でも手に負えないくらいうざいのに。

麗子レイコさんは天使をあやすので忙しいから、

僕はこっちを相手しないといけない。…僕も向こうが良いなぁ。


『あ、そうだ!好きな人とかいないの??

ほら、結婚って良いぞ〜!こんなに幸せ〜!』


『そろそろ本当にうざい。』


寄り掛かってくる優司ユウジさんを突き放し、

楽しそうな2人のところへ行く。

おもちゃで遊んでいた様でとっても楽しそう。

さっきお風呂に入ったのでワンピースは脱いでしまったけど、

着ぐるみっぽいパジャマ可愛すぎ。流石麗子レイコさんセンス。


優司ユウジさんの相手を代わって貰って、

天使を抱っこする。

抱っこしただけでこんなにかってくらい楽しそうに笑う。

麗子レイコさんは床で寝ている優司ユウジさんに

肩を貸しながら寝室まで連れて行った。


『ねぇ、君はこんなに幸せな家庭に生まれて来たんだよ。

…これからいっぱい笑って、すくすく育って。

それを優司ユウジさんと麗子レイコさんと見守るのが

僕の夢なんだ。』


目を合わせると首をかしげられた。

話を聞いてくれてるのかな。

僕の夢、君が叶えてくれるんだよ。


僕に結婚願望はない。

今はこの家族の幸せを守るのが、僕の役目なんだ。

それ以上に大切なものなんてない。

僕を変えてくれた2人に、その宝物のこの子に。

どうか恩返しがしたい。

優司ユウジさんを寝室に運び終えた麗子レイコさんが戻って来た。


『ねぇ、本当はユウくんも

ちゃんといる時に言いたかったんだけどさ。』


『ん?何?』


机の上を軽く片付けながらお酒を飲む麗子レイコさん。

麗子レイコさんは優司ユウジさんと違ってお酒に強い。

けれど滅多に飲まない。

産後だし、痩せたいからって理由らしいけど。

そもそも飲みたくならないみたい。


こうして自主的に飲んでいるのは、本当に珍しい。

僕は麗子レイコさんの真正面に天使を膝に抱えて座った。


『私たちね、いつもふざけて言ってるけどさ。

本当に家族だと思ってるんだよ。』


『…うん、知ってるよ。』


『ふふっ。』


いつもと違って真剣な表情で言うからちゃんと答えたのに、

素直に答えたのが面白かったのか笑われたんだけど。

でもその笑顔がすごく幸せそうで。

嫌な気持ちはしなかった。


『…私たちは普通じゃない。私にもユウくんにも、

親がいない。けど、この子には私たちがいる。

この子が、私たちを“普通”にしてくれた。』


いつも僕と優司ユウジさんのやり取りを

笑って聞いているだけの麗子レイコさん。

そんな麗子レイコさんがここまで自分の話をするのは初めてだ。


『…ユウくんとも話をして、決めたの。

私たちはどんな事があっても、この子を守る。

…この命に代えても。絶対に。』


『……。』


強い眼差しで我が子を見つめる。

これが1人の人間を産んだ力なのかな。

お母さんに見られて嬉しいのか、楽しそうに笑っている。

僕はその小さな命の重みを、改めて感じた。


『でもそれはね、貴方も例外じゃない。』


『え、僕?』


『ふふっ。』


また笑われた。

麗子レイコさんは我が子に手を伸ばす。

天使は麗子レイコさんの指を、その小さな手いっぱいで握り締める。

僕はただそれを見つめた。


『…この命に代えても、貴方たち2人を守り抜く。

それがユウくんと話して決めた事。』


麗子レイコさんはこの子を産んでから、

更に強くなった様な気がする。精神面でも体力面でも。

勿論優司ユウジさんもそれは一緒で、

きっとこの子が2人を変えたんだ。

麗子レイコさんのその目に迷いはなかった。

ただ真っ直ぐ、一点の光だけがそこにあった。


『実はね最近、ユウくん変な人に目を付けられてるみたいなの。』


『変な人?』


『そう。』


麗子レイコさんの話によると、

その変質者はどうやら優司ユウジさんを付けているらしい。

それに気付いたのは3ヶ月前の事。

研究に必要な材料を買い出しに行っていた時に、

誰かに付けられている事に気付いた。


その時はどうにか撒いたらしいが、

その日から外に出れば常に付けられている気配がしたと言う。

変質者は黒ずくめの格好で、顔がよく見えず性別すら分かってないらしい。

警察に相談したが、取り合ってもらえず。


『ちょっと待ってよ、この町の薬剤を支えてる研究員だよ?

そんな冷たい事ってある?』


『この町の警察は外から来てるからね。

そんなの関係ないのよ。』


その目はすっかり諦め切った様子で、

きっと2人は色々手を打ったはずだ。

手を打ったけど、どうも出来ないと知ったんだろう。


しかもこのタイミング。ここには天使がいるんだ。

心配過ぎる。そいつは何が目的だ?

どうしてこのタイミングで?


『それでね、それを知った上で。

聞いて欲しいお願いがあるの。』


『何?優司ユウジさんが居ない時に来て欲しいとかなら

言われなくても来るつもりだけど?』


『…そう、じゃなくて。』


何やら言いづらそうにしている。

しばらくじっと悩んでいた。

そして決心がついたのか、僕を見る。


『…もし、もしも。私たちに何かあったら。』


『いや、は?待って、なんて話するんだ。縁起でもない。

そんな事させる訳ないだろ。』


『お願い、最後まで聞いて?』


『嫌だ、そんな話。誰が聞くかよ。』


餓鬼だと自分でも思うが、耳を塞いで目を閉じる。

そんなお願い、聞ける訳ない。

いくら麗子レイコさんのお願いだと言っても無理だ。

無理、絶対無理。拒否。断固拒否だ。


『ねぇ、お願い。ちゃんとユウくんと話して決めたの。

貴方には聞いておいて欲しい。』


『あぁうるさい!嫌なものは嫌だ!!』


耳を塞いでいる手を退かそうと麗子レイコさんの手が伸びてくる。

僕はその手を強く払う。

つい大声を出してしまった。


急な大声に驚いて泣き出してしまった。

慌てて麗子レイコさんが抱っこしてあやす。

僕はあやすのでいっぱいいっぱいの隙に立ち上がる。


『ちょ、ちょっと待って!』


『うるさい、もう寝る。』


この時ちゃんと話を聞いていれば。

ちゃんと麗子レイコさんと話をしていれば。

…そんな事考えても、もう遅い。


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