simple is the beast
ハネトカゲが咆哮する。
どうやらお怒りらしい。
やべえ。
興奮しているのか、トカゲの羽毛がふさふさと逆立ち、元より大きかった体躯が殊更大きくなったように感じられる。
トカゲは瞬膜を開閉しながら、レプとリアムを睨み付ける。
はてさて、物理攻撃に強そうなこのモンスターに相対して、如何に立ち回るのか。
「あわわわわ、私は何をすれば…」
狼狽える勇者。
しょうがない。
「…このモンスターは尻尾が結構厄介そうだなー」
小さな声でぽつりと呟く。
「ようし、私が尻尾を抑えとくね!」
素のステータスが高い勇者は耳も良いらしく、耳ざとく聞いていたようだ。
目的は幽玄の森の物理無効ゴーストモンスターなのだ。
こんなトカゲに構っている暇はない。
「勇者にしては良い判断だ。
レプ、リアム、行くぞ!」
そうレプが叫ぶ。
ん?いま自分で自分の名前呼ばなかった?
…いや、あまり深く考えないようにしよう。
三人とトカゲが睨み合う。
が、トカゲは主にリアムとレプを警戒しており、勇者は眼中にないようだ。
勇者が隙を見て素早く接近し、両腕と脇の下でトカゲの尻尾をがっちりとホールドする。
流石、素ステが高いだけあってトカゲが身じろぎしてもびくともしない。
レプが地面に突き刺さった魔導書を足場として、トカゲの右側面から渾身の一撃を放つ。
凄まじい衝撃が発生する。
ハネトカゲのもこもこの羽毛を貫通し、鈍い音が轟く。
もし地面が土だったのなら、レプの足は反動で地面にめり込んでいただろう。
その為の魔導書(足場)か…。
右から発生した大きな衝撃により、左側へとぐらついたトカゲを待っていたのは、跳躍し溜めを作っていたリアムだった。
リアムは空中で体を捻り、全体重と勢いを乗せた飛び後ろ回し蹴りをトカゲの胴体へと叩き込んだ。
リアムの全身全霊をかけた一撃は、左側にぐらついたトカゲを再び右側へと揺り戻す程だった。
そして、右側で待ち構えるは気を練り上げたレプ。
短く息を吐いた後、握り締めた拳が空気を切り裂くように煌めいた。
一撃、トカゲの重厚な鱗の鎧を穿つ。
二撃、トカゲが吹き飛ぶよりも更に早く連撃を放つ。
三撃、四撃と神速の拳を重ね、トカゲの分厚い鱗をゴリゴリと削っていく。
最後の七撃目、魔導書が地面に埋まる程の力で踏み込み、トカゲの肉体を打ち抜いた。
レプは音もなく軽やかに着地を決める。
間を置かず、大トカゲが崩れ落ちた。
大木が倒れたかのような、轟音が起こった。
こいつら、強え…。
※主に魔法使いと僧侶
「これが魔法使いの力だ!」
レプは倒れ伏すトカゲに向かってそう決め台詞を言った。
絶対魔法使いの力ではないと思う。
勇者が荷物持ちだった頃の癖か、ハネトカゲの鱗を拾おうとしていたので、先んじてスキルで収納しておく。
「はっ、つい癖で…」
勇者は我に帰ると、ドヤ顔でこっちに来た。
「えへへ、どうだった?
私の勇姿、見惚れちゃった?」
お前は尻尾抑えてただけだろ。
褒めるのも癪なので、適当にあしらうか。
「すまん、瞬きしてたわ」
「ずっと!?
まばたき長くない!?」
勇者がぷんすか怒っている。
知らん。
まあ、これでやっと幽玄の森だ。
勇者パーティの脆弱性を指摘してサヨナラバイバイだ。
「森に入る前に休憩しよっか。
トルス、休憩セット出してー」
勇者は休息を宣言し、俺に休憩セットを出すように急かす。
仕方がない。
「あいよ。
えーっと、『収納達人』のよく使うものリスト呼び出し」
†収納達人†
・野宿セット
・休憩セット
・簡易トイレ
・収納王
・万能ナイフ
・…
・…
目前に俺にしか見えないリストウインドウが表示される。
「あったあった。
休憩セット、取り出し」
瞬時にテーブルと椅子が4個出現する。
大きな日除けパラソルとティーセットとお菓子付きだ。
「すごいです!」
お菓子を見て、リアムが目をきらきらと輝かせる。
「トルクは気が効くな」
レプ、誰だその回転力みたいな名前の奴は。
俺の名はトルスだ。
「ありがとう。
疲れた時には甘いものだよね」
貧乳勇者がクッキーを貪る。
「い、いつもはこんなに貧乳じゃないんだよ!?
今日はたまたまなんだよ!?」
それはそれで怖い。
ぽかぽか陽気でとても眠くなる心地よさだ。
無意識に欠伸が出る。
さて、休んだらいよいよ幽玄の森だ。
Q.如何に立ち回るか?
A.正面からぶちのめす