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蜥蜴と影

「む。

待て、モンスターの気配だ」


森の入り口のところで、レプから制止が掛かる。

大きな岩の下の窪みから、モンスターの気配がするらしい。


俺たちは警戒して小道から離れたところを迂回しようとしたが、岩下の影からぬるっとした動きのモンスターが躍り出た。

途轍もなく大きなトカゲ型のモンスターだ。


俗にハネトカゲと呼ばれるモンスターで、硬い鱗の上から柔らかい羽毛が生えており、打撃や斬撃に強い耐性を持つ。


強靭な脚力で跳ねるように移動し、その動きは捉えどころが無く、中級冒険者をも苦しめるという。

更に、大木の様な尻尾は柳のようにしなやかな打撃を放ち、ずらりと並ぶ鋭い牙には毒があるという。


総評としては、なかなか強そうなモンスターだろう。



「手強そうだな…。

仕方ない、アレを使うか」


レプはローブの中に手を入れてごそごそすると、本のような物を取り出した。

本を持っているとまるで魔法使いみたいだ。


遂に魔法を使うのか…。


「その本は何だ?」


「これは何かの魔導の書だ」


レプは本をがっちり掴むと、天高く掲げる。


「あれは、究極魔法『アグザイラス』の呪文が書かれた魔導書だよ。

選ばれし者でなければ、魔導書は鉛の様に重くなり、持ち上げるのも困難と言われているの」


見兼ねた勇者がぼそりと解説を入れる。


「大層な名前だな。

使い方は分かるんだろうな?」



「無論だ。

これは、



投げて使う!!!」



レプは美しさすら感じる投球フォームで、魔導書をハネトカゲに投げつけた。


…使い方間違えてない?


ハネトカゲは投擲された魔導書を尻尾で跳ね除けようとするも、思いもよらぬ重さだったらしく、尻尾をちょっと痛そうにしている。

魔導書は地面に突き刺さった。


「しかし、レプの奴は選ばれし者だったんだな」


「いや?

選ばれし者じゃないが、気合いで持ってるだけだぞ」


「そうか…」


あまり深く考えないようにした。


「準備完了だ!

いくぞリアム!」


「おうともです!」


レプとリアムが疾走する。


ハネトカゲは毒の付いた牙を見せびらかせながらレプへと肉薄する。

特有の生臭い口臭を漂わせながら、大口を開く。


迫り来る大顎に対して、武闘家もどきは地を蹴り、爆発的に加速させた膝を下からカチ上げて顎門(あぎと)へと叩き込む。

同時に、腕をくの字に曲げると肘を高速で振り下ろし、トカゲの脳天に対して肘鉄をブチ墜とす。


「閉じろ。

私は歯医者ではない」


上下からの逃げ場のない衝撃に、開かれていた口は無理矢理閉じられた。

みしり、とトカゲの頭蓋が軋む音が聞こえる。


肘と膝で万力のように頭を締め付けられているトカゲは、苦しみから逃れようと無闇やたらに大木のような尻尾を振り回す。


その内の一振りの軌道上に、運悪くリアムが居た。

このままだと直撃コースだ。

最悪死ぬだろう。


リアムは当たる刹那、恐るべきことにモンスターが繰り出した尻尾と同速同方向へと跳躍して衝撃をいなす。

おまけに、体に触れた尻尾を支点にして器用にも空中でくるりと回る。


リアムが着地すると、その手には鱗が一枚握られていた。

回転時に鱗を一枚巻き込み、最も弱い方向へ引っ張り剥ぎとったのだろう。


完全に人間の動きではない。



「私の出番来たか!」


遅れて勇者が剣を抜いてトカゲの胴体に斬りかかる。

頭を抑えられたままのトカゲは、後脚で短く跳ねただけでこれを回避する。


勇者の大振りの剣は勢いを止められず、着地したばかりのリアムに剣が当たりそうになる。


「おっと」


レプがトカゲの拘束を解き、リアムをひょいと持ち上げたことで、間一髪リアムは剣から逃れた。


「勇者、いくら自分より年下のリアムが勇者より胸が大きいからといって、八つ当たりはいかんぞ」


「ち、ちがうよ!

リアムちゃんごめんなさい!」


「大丈夫です」


勇者は攻撃や連携が下手なようだ。

なまじステータスが高いばかりに、フレンドリーファイヤが致命傷になり得る。


レプとリアムの息の合った連携を乱すとすれば、ある意味で敵よりも厄介かもしれない。

普通のパーティでなら盾役としての役割を与えるのだが、このメンバーでは盾役は必要ないだろう。


故に荷物持ちか。



トカゲが自由になった頭の状態を確認するように、首をぐるりと回す。


仕切り直しだ。


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