幽玄なる夕餉
いやあ、ゴーストモンスター三体は強敵でしたね。
ゴースト三体はレプとリアムが問題なくタコ殴りにした。
次回予告?何だそれは。
モンスターは光の粒子を散らしながら消滅した。
ゴーストの今際の際、(生きていた訳ではないが)キラリと光る何かを落っことした。
ドロップアイテムは青い宝石のように煌々と光り輝いている。
レアアイテムの『ゴーストの涙』だ。
ふと、ここで悪巧みを思い付く。
ここでレアアイテムの所有権を主張すれば、嫌われて追い出されるのでは。
「あ、レアアイテムだ!これ俺のな!」
「そうか、好きにしろ。
私は戦闘さえ出来れば何も要らんからな」
レプはストイックすぎる…。
「へー」
勇者はあまり興味が無いようだ。
戦闘では俺と同様何もしていないし、そもそも所有権が自分に有ると思っていないのかもしれない。
リアムは…
「きれいです…」
凄くきらきらした目でゴーストの涙を見ていた。
うん…。
「まあ、でも今思ったら俺いっぱいこのアイテム持ってたわ。
要らないからリアムにやるよ」
「えっ!?いいんですか!?」
リアムの顔がぱあっと明るくなる。
「リアムの綺麗な小石これくしょんが増えました!
ありがとうございます、大切にしますね…」
良かったな。
そこまで喜ばれると、あげた甲斐があるというものだ。
レプと勇者に通用しなかった時点で貰っても意味ないしな。
ゴーストの涙なんて腐るほど在庫あったし欲しい訳でもない。
歩みを進めていくと、ひらけた場所に出た。
木々の隙間から見える僅かな空は青から橙に移り変わりつつあるが、まだ黄昏時までは時間がありそうだ。
日が完全に没するまではもう少し行動できるだろう。
「今日はここまでにしよっか」
そんなことを考えていると、勇者が探索の打ち止めを提案する。
何か違和感がある。
「まだ行けそうじゃないか?」
「無理は禁物だよ」
まあ、別に急ぎじゃないからどうでもいいか。
「りょーかい。
収納達人、リスト、野宿セット取り出し」
表示されたリストの中から野営の為の荷物を取り出す。
木造の小さな小屋と寝袋などの宿泊セットが出現する。
収納達人は本来5メートル位の物までしか収納出来ないが、俺は収納強化スキルをいくつか持っているので、小ぶりの小屋程度なら問題なく収納しておける。
ついでに食料やら水やら薪やら簡易的な風呂やらを取り出しておく。
「わぁ、凄い…」
勇者が口を開けて驚いている。
「荷運びの為に居るんだからこの位はな」
俺は松脂を火口として、薪と枯れ葉に火を付ける。
焚き火が灯ると、適当に腰を掛ける。
「お前ら飯作れる?」
「…」
勇者は目を逸らした。
「滅私?」
レプは駄目そう。
「リアムつくれます!」
「よし、任せた」
焚き火の上に鉄板をセットして温める。
食材と調味料をリアムに渡して、頭を撫で、火加減の調整をして、頭を撫でる。
夕餉を食べ終え、休息を取る。
リアムの料理の腕は中々のものだった。
「孤児院にいた頃は、よくお手伝いしていたので」
らしい。
焚き火に薪をくべ、火の番をする。
火の粉が舞い上がっては消えていく。
レプとリアムは組手をしている。
やっぱ武闘家だろこいつら。
二人の様子を見ていると、勇者が寄ってきて隣にちょこんと座った。
「今日はごめんね」
「何がだ」
「あまり役に立てなくて」
勇者がしおらしく項垂れている。
戦闘で役に立てなかったのが流石にこたえたらしい。
「知るか。
ずっと荷物持ちやってたんなら、そんなんなもんだろ。
そもそも勇者になってから長いのか?」
「大体1年くらいかな。
16才の時、光の神様に選ばれて。
それまでは剣なんて握ったことなかったから」
目を閉じて過去を思い返す少女の横顔。
僅かに射し込む夕陽と焚き火の光が、その銀髪を黄昏色に染め上げる。
「だったら良いじゃん。
早く強くなりてぇなら、あの武闘家二人の組手に乱入して、戦闘センスでも磨きゃ良いだろ」
「…そだね。
行ってくる!」
ややすっきりとした顔の勇者は立ち上がると、二人に向かって駆け出した。
「たのもー!」
「上等だ、来い勇者!」
突撃した勇者を迎撃するレプとリアム。
なんか勇者がボコボコにされて泣いているように見えたけど気のせいだろう。
やれやれ。
風呂でも沸かしておくか。
簡易風呂セットの風呂釜に火を付け、湯を沸かす。
不気味な雰囲気の森に、少女の泣き声はとても良くマッチしていた。