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 ただ一人闇の中で座っていた。

 呪符を手に、金の髪の人は一緒に逃げようといったことだけは覚えている。


 牢屋の中で私はいいえと首を振った。

 これは冤罪だから、すぐ解放されると言ったのだ。


 罪状は身に覚えのないことだから大丈夫とほほ笑んだ。


『何も考えず、何も思わず、ただ生きていれば……あれにとらわれることはない』


 古風な衣装を着たあの人は牢屋の外で頼むから逃げようと泣いた。


 でも私と逃げたらあなたも追われる。

 そういったことだけは覚えている。


 愛しいという想いを自覚したのが遅すぎた。

 婚約破棄をすると読み上げたその人と、この人の声はよく似ていた。


『リル、逃げよう』


『いいえ、これは私の罪、私が犯した過ち、でも罪状は身に覚えのないこと、それは明らかになるでしょう』


 私は逃げようと手を差し出すあの人に淡く微笑んだ。



 ああ、前世の記憶はとてもつらい。

 

 銀の髪に緑の瞳の美貌の乙女、その傲慢さ故に誰も味方はいない。

 ただ一人だけの味方を自ら遠ざけた。

 愛しい人に不義の罪を着せてはいけないと思ったことだけは覚えていた。



『悪役令嬢なんてリル……』


『愛しい人、お願いだから泣かないで』


 ああ、あなた、あなた、あなたの呼ぶ声に耳をすませずにいられようか?

 

『お前がラティーシャを殺そうとしたことは明白だ! シャルル・オージュの名により悪役令嬢リリアーナをここに断罪する!』


 ラティーシャさんがほほ笑んでいた。彼女を抱きしめ、王太子シャルルは私に死罪を宣言した。

 愛してはいなかった。

 自分がこれから安泰に過ごせる道具とシャルルのことを思っていたこれは私の罪。


 ただ一人だけの味方は、私を見てお願いだから一緒に逃げようと言ったけど、私は大丈夫だからとただほほ笑んで彼を……。




 罪状を読み上げられ、私は処刑場につれていかれた。

 私はその罪は犯してはいませんとまた再び叫ぶ、だけど未来の王太子妃を殺そうとした悪役令嬢と皆は私をそう呼んだ。

 闇の娘と。



『さあ、いい残すことはないか?』


 私は黙ってラティーシャさんとシャルルを見た。

 そこで私はすべての憎悪と怨嗟、絶望を振り絞ってこう答えたことは覚えていた。


『呪われよ、私を殺そうとする者たちよ。私は闇の精霊の声を聞いた。お前たちは未来永劫、生まれ変わったとしても闇に囚われ、殺されたほうが良いというほどの絶望を繰り返し味わうだろう。愛するものを失い、絶望の生涯を終える。これは私の呪い。呪われよ!』


 闇の精霊の声を私は確かに夢で聞いた。

 その憎悪を皆に叫ぶと、みなは私をあざ笑った。

 私の目に目隠しがされて、私は縄のところに連れていかれた。

 無理やり私の頭を縄に通して、そして台にのせたのは処刑人。


 殺されるのは嫌だ、あの人に私はまだ言ってない言葉がある。

 死にたくないと思っても、もうどうにもならなかった。


 闇の精霊は憎悪と怨嗟と絶望を愛する。

 私の断末魔がこの闇の精霊を召還した。


 目隠しが外れ、闇があたりを支配した。泣きながら走ってくるあの人の姿が見えた。

 お願い泣かないでと私は言ったことだけは覚えている。

 いや言葉なんて出なかったはずだけど。

 ただそれが前世で最後目にした光景、衛兵が愛しいあの人を捕まえようとする。

 あの人は殺さないでくれと泣き叫ぶ。


 ごめんなさい、助けようとしてくれたのに、あなたを……。

 そして私の意識は闇に沈んだのだった。



 闇の中、私はただ一人たたずんでいた。

 これは夢? と思ったら長い黒髪、黒の瞳をした闇よりも濃い闇をまとった男性が現れ、復讐をしたくはないか? と聞いてきた。


 ああ、私はただもう一度だけ生まれ変わって……といったとたん、処刑された魂は転生はできないと闇の青年は言ったことを覚えていた。


 あの人に会いたいと叫んだ私は闇の精霊の申し出を受けた。


 悪役令嬢と言われたほどの悪行を尽くしたのなら、来世もそのような人生を歩むこと。

 怨嗟と憎悪と復讐にまみれ生きてみよと、そんなあなたを愛していると闇の精霊は静かにほほ笑んだ。


 違う、私はただ寂しかっただけ。

 その寂しさをただ金品や人々にあたることで晴らしていただけ。

 でもそれも罪の一つではあった。





「何も考えず、何も思わず、石のように生きれば闇は……」


「殺せばいいのに、君は優しいね」


 絶望と怨嗟を抱えた私は、この世界に生まれ変わってもなお、愚かしい子供だった。

 幼い時は栗色の髪だった。

 だけど、商人の娘として生まれ変わった私は、母の憎悪と怨嗟を受け続けたのだ。

 父の浮気、私にその鬱憤をぶつける母。

 いつもいつも私は母に蹴り飛ばされ、お前さえいなければあれと別れられるのにと叫んだ。


 愛された記憶はあったのだ。

 だけど父は母を顧みることなく、母は母で私が父に似ていると虐待した。

 そしてある時、母の手が私の首にかかった時、私の前世が闇の精霊を召還したのだ。



 死ねない、死にたくない、ダメ、あの人に会うまでは!


 ただそれだけを覚えている。

 私の髪は銀に染まり、茶の瞳は緑に染まった。


 私はただ一人の闇の魔法使い、たった一人の怨嗟の魔女となった。



『さあ、私の名前を呼べ、殺せ、消し去れ、蹂躙せよ!』


 長い黒髪の青年が闇の中現れ、母へ指をかざす。

 その瞬間、母の姿は消え去り、私ただ一人が残った。


『さあ、今世も絶望と悲しみとその心に抱え込み、私を召還したものよ。私は君を愛している。永遠にだ、その魂を』


 まだ十歳にもならなかった私は、母を呼び続け泣いた。

 しかし母は闇に囚われ、永劫に戻らず、闇の精霊クロスは、私の父も殺した。


 それから親戚に引き取られ、しばらくは普通に過ごした。だがある時、友人だと思っていた女の子が私の悪口を言っているのを聞いてしまったとき、お前なんて消えてしまえと私は叫んでしまっていた。

 ああ、そして少女は消えた。


 あれから私は何も考えず、何も思わず、石のように生きようと決めた。

 でも、私を利用とする人たちがいる。


 悪役令嬢であった前世よりも、今のほうが絶望は深い。

 でもあなたの呼ぶ声に耳を傾けずにいられようか、あなたを探してしまう。


「早く、お願い来て……」


「殺そう、殺そうよ」


 楽しげに笑う闇の精霊の声を耳をふさいで聞かないふりをする。

 ああお願い神様と叫んだ瞬間、白い光があたりを満たす。ちっとクロスが舌打ちする。

 その瞬間、私が待ち望んでいた人がやっと現れた。


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