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「お前が闇の魔女か?」
「そうよ」
私の目の前にいたのはでっぷりと太った男。
私は彼を見て、帰れと手をしっしと振る。
仕立てのよい服を着ている。貴族だろうと見当をつけるが、どうせろくでもない話だ。
「我が国の王がお前を所望だ」
「一人できたの? 闇の魔女相手にどうしようというの?」
会話を打ち切りたい、無視をすることも考えたが、魔女の結界を超えてくるということはこの男も魔法使いだ。
なら私の闇を打ち消す光属性だと見当をつける。
見かけはただのデブハゲのおじさんと言った所だったけど。
「お前はどうしてこの闇の森にいる?」
「もう誰も殺したくないの」
お願いだからもう帰ってほしい、クロスが怒ってしまう前に。
何も考えず無になり、何も考えずただの石となれ。
誰か前世で言った記憶があった、だけど思い出せない。
泣きながら走ってくる人がいた。
長い金の髪、見たこともない古風な衣装。札を手に君を殺させはしないと泣くその人はいつも悲しそうに笑っていた。
一度クロスに聞いてみたらすごく嫌な顔をして忘れろと言われたことがある。
「お前を連れて帰らないと我が娘が殺される」
「知らない」
私は首を振る。そして帰れと手を振った。
お願いだから私に声をかけないで、私を見ないで。
私の手を掴もうと男がした時、黒い闇が私の周りを漂った。
「やめてクロス!」
私の哀願など誰も聞かず、闇は男にまとわりついた。
だけど、私はやめてと大きな声で叫ぶ。
男から闇が消え去った瞬間、また帰れと私は大声で怒鳴りつけた。
侵食する闇の恐怖からか、男は恐れの目で私を見て、腰をぬかしていた。
だけどどうしても帰らないと緑の草むらに座り込み、娘の生命がと繰り返す。
私はクロス、この人を殺さないでと言うが、黒髪の少年は楽しげにただ笑うだけだった。
帰れとまた怒鳴りつけ、扉を私は強引に閉めた。
だけど男はまだ外にいる。
ああまた憂鬱な日常がはじまる。クロスが殺そうか? と楽しげに笑う。
殺しては駄目と私は釘をさし、唯一頼れる相談相手に連絡を取ることにした。
数ヶ月に一度こんなことがある。光属性には闇は弱い。
だがクロスは闇の精霊長、どうしたって光の魔法使いには勝つ。
だけど今の私は光属性の魔法使いを封じ込めることはできない。
私の力は封じている。しかしクロスの力は無限大。
私は生まれた時から闇の精霊に愛され、あるきっかけでこの力が目覚めた。
世界すら滅ぼすことができる闇の精霊。
私はあらゆる魔法使いから羨望の目で見られる存在だった。
私が願ったのはただ一つだけ、普通に生きたい。
前世、私は誰よりも美しい銀の髪を持っていた。緑の瞳の美しい娘。
愚かしさだけならこの世界で一番だっただろう。
ひどいこともたくさんしてきたのに、私はいわれのない罪で処刑された。
絶望と悲しみ、怨嗟だけが私の友。
処刑された人間は転生なんてできやしない。恨みを抱え込んで、闇に沈んだ。
クロスだけが私を助けてくれたけど、しかし彼は私を守るためだといってひどいことをする。
私の守護者は人殺し、たくさんの人を殺し、善悪の概念もない。
そう、私にかかわった人たちを殺すことすら厭わない。
無邪気な人殺しだった。
殺そうか? どうする? そう愉しげに笑う悪魔。
前世の記憶が私を苛める。だけど殺しては駄目と私は叫び、なんとか魔法の呪文を唱えた。
人殺しという声がまた聞こえる。
幻覚だが、もう耐えられない。
どこまで私は正気でいられるの? 誰もいない場所にきたはずなのにいまだに私を苛む人々。
私の噂を聞きつけ、誰もが憎む人を殺せとやってくる。
「私の娘が!」
男の嘆きの声を聞きながら、私は窓の外を見た。
お願い早く来てと私は布団をかぶり、ベッドで震える。
誰も殺したくない、クロス、駄目よということしか今の私にはできなかった。
私は世界で一番の悪の魔女。
たった一人だけの……闇の精霊使い。




