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「いつか必ず見つける」
黒い衣装を着て泣き笑いの顔でこちらを見たのは魔法使い。
呪符を手に彼は笑ってと切なく言って私を見た。
いつも夢の中で聞こえる声。
私はいつもとび起きる。
私は世界で一番の悪の魔法使い。
前世は世界で一番の悪役令嬢だった。
夢の中でいつも泣いている魔法使いはだあれ?
今の私は悪の魔法使い、世界で一番の災厄をこの世界にもたらすもの。
「リル、目が覚めた?」
「おはよ、クロス」
私が目を開けると黒髪の少年がそこにはいた。
長い黒の髪、漆黒の瞳、見なれた姿だった。
この世界で私は一番の悪の魔法使いと言われていた。
だけど今15歳、何も私はしていない。
「今日は誰を消すの?」
「消さないわよ」
いつもと同じ会話だった。私の前世は悪役令嬢と言われた少女だった。
前世を覚えているなんて素敵とか言わないで欲しい。
私は婚約破棄され、断罪され、そして処刑されたのだから。
処刑されて闇の中で怨嗟と憎悪を抱え込んでいた所を、クロスに拾われたのだった。
この世界に闇をまき散らそうと笑いながら言った彼の手を取って生まれ変わって、私は世界で一番の悪の魔法使いになった。
人を憎むたびにその人が死ぬ。
最初は母だった。その次は友人だと思っていた少女だった。
少しでも憎むとその人は必ず死ぬ。
闇は私の友人だった。
私は魔女の森と言われる場所に引きこもり、人と出会うことをやめた。
だって人が死ぬのは見たくなかったからだ。
「どうして人を殺してだめなの? リリシアを苛めた人達なのに」
無邪気にクロスが笑う。
青年の姿は私に釣り合わないからと、今は同じ年齢の少年の姿だった。
窓際に腰かけ彼はとても愉快げに笑うのだ。
「殺してはいけないわよ」
「どうして?」
悲しむ人がいるからも、悲しむ人がいないならいいじゃないと言われる。
精霊には善悪なんてないからだ。
私は仕方なしにため息をついて、闇を見詰め、絶対に嫌と言う。
前世の私は絶望と闇を抱えたまま死んだ。
首をちょんっと切られて死んだのではなく。絞首刑だった。
まあ思い出すたびにどうして? と言いたくなる。
私はだって王太子の愛した庶民の娘を害してはいなかったからだ。
私は銀の髪を一つにまとめ、お気に入りの紅茶を入れる。
私を利用する人達にも会いたくなかった。
しかし私の望みとは裏腹に人は私を求める。
災厄の魔女、憎むだけで人を殺せる便利な道具として。
私は18歳で死んだ。
これは前世のことだ、リリアーナ・エル・グラントと呼ばれた私は傲慢な悪役令嬢だった。
だけど殺されるだけの罪は犯してはいなかった。
私は王太子シャルルの愛した庶民の娘を魔法学園で苛めたという咎で殺された。
私はシャルルを愛していた? それは覚えていない。
だけど私が怨嗟を吐きだし、いつか絶対にお前達を滅ぼす。復讐してやるとったことだけは覚えていた。
泣きながら誰かが手を差し出したのだけは覚えている。
そして私が扉を叩く音を聞いた時、私の運命は動きだしたのだった。