毒
「ほう…」
須藤先生は怒るわけでも、動揺するわけでもなく、感心した様子で私を見つめていた。
「あなたは『セリオミン』と『エリオニン』の中身を入れ替えたのです」
須藤は顎に手をやり、目線を天井にやった。
私は続ける。
「私は倉庫の棚で『セリオミン』の瓶を取り出しましたが、その中には『エリオニン』入っていたんですよ、大体おかしいんです、四日も薬を打ったのに、間違えるはずがありません」
あの時はパニックになっていて、そこまで考えられなかったが…
須藤は黙っていた、その目は揺らいでいる。
沈黙。
全てが消えてしまったかのような沈黙。
「そうだよ」
それを破るように、弱々しく須藤はそう言った。
同時に、驚くほど呆気ないとも思えた。
「ああ、なんでだろう?なんで私は今、こんな易々と自白してしまったのだろうか…自分でもよく分からないよ」
「認めるんですよね」
「ああ、そうだよ、でもどうするんだ、警察に突き出すか?」
須藤は顎を突き出してそう言う。
胸ポケットからタバコを取り出して火をつけた。
白い壁に、煙が舐めるようにまとわりつく。
「どうして、こんなことをしたんです?」
「うーん、君、録音なんかしてないよね」
「してません、仮にしてたとしても、警察に行けるような身分じゃないです」
そうだよね、と笑う。
「西田の息子さんの話はしたよね、西田祐一くん、あの人は奨学金の返済に苦しめられているんだ、私に相談してきたよ」
「それが西田となんの関係が?」
「西田が生きていると、いずれ西田祐一も介護をしなければなくなる、お金に苦労している祐一は首が回らなくなってしまう、だから殺したんだ」
私は息を吐いた。
西田のことを思い、今度は同情のため息を吐いた。
「私はあなたを許さない」
須藤は顔をこわばらせた、完全な無表情になり、そしてすぐに笑顔を貼り付けた。
左手に握っていたタバコはへし折れている。
「君は怒っているのかい?一丁前に?西田を見殺しにしたくせにか?」
「いいや違う、あんたが殺したんだ」
「それは事実だが、でも実際に君は自らの保身を考えて見殺しにしたんだ」
「それでも…」
須藤は煙を吐き出した。
「出てけ、そして二度とここには来るな」
「あなたは辛いんでしょう、だから私に打ち明けた」
「出てけ」
私は言われるがままに外に出た。
外はひどく寒かった。
私の吐く息は白く、手足の指先は凍ってしまいそうだ。
ごめんなさい。
誰かにそう言いたかった。
それが誰なのかは分からないが、とにかく謝りたい。
自然と私の足は河川敷に向かっていた。
私は生きなければならなかった。
これからの人生は、西田を見殺しにした罪を背負わなければならない。
警察に自首をしたくもなかった。
土手の上から、西田の遺体があった場所を見下ろす。
もうすでに規制線は撤去されており、事故などないかのように川は流れていた。
薄暗い雲が割れ、太陽の光が差し込めてきた。
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