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◆ゼクス
私たちはいつもの如く領主館の会議室に集まっていました。
話し合う内容は当然先の戦争についてです。
アルベルツ王国との戦争。
何万人もの人々が争ったその戦争は私たちの勝利で幕を閉じました。
戦争での勝利は私たちに多くのものをもたらしました。
目立ったものではアルベルツ王国から贈られた賠償です。
賠償として届いたものの多くはアイテムです。
私たちは手分けしてそのアイテムを確認していきました。
そのアイテムについてどのように使っていくかを話し合うために今回集まりました。
「さて、事前に連絡をいただいている通りアイテムの多くは鉱石や宝石と言った素材アイテムです。」
私が話始めると皆の視線が私に向きました。
私はそれを確認しながら言葉を続けます。
「それらのアイテムについてはミケルさんたち生産職組で使用していただいて構いません。それでいいですか?」
「装飾品としてしか使えない宝石についてはそれで問題ありません。一部の宝石は召喚魔法の触媒に使えそうなので一部私の方にも回していただけないでしょうか?」
「私からもお願いします。」
私の問いかけにハーロウさんとユリアさんがそう返してきました。
私はそれに頷き周りを見回します。
「他の皆さんも問題はないでしょうか?」
私の問いかけに皆は頷いて肯定を示しました。
「わかりました。それでは一部の宝石はハーロウさんたちの方でも使用するとのことで了解しました。後程どの素材を使用するのか生産職組とすり合わせお願いします。」
「はい。」
ハーロウさんの返事を聞いてこの件は大丈夫だと納得しました。
「他のアイテムについては各々から知らせてもらえないでしょうか?」
私はそう言いながら手元の資料を確認します。
そこには事前に知らせていただいたアイテムのリストがありました。
「まずは武具の類について………ラインハルトさんお願いできますか?」
私の言葉を受けてラインハルトさんが立ち上がり口を開きました。
「今回受け渡された武具の類は特殊な能力が付与された物だったよ。数打ち品では無くどれも一点ものって言う印象を受けたね。」
「特殊な能力と言うのはどんなものなんだ?」
「例えば炎を纏う両手剣だね。これは刀身から炎を生み出しそれを操ることができる。」
「うむ。つまりは疑似的に魔法を扱える物というわけだな?」
「そうだね。」
ラインハルトさんの語るそれはつまりは魔剣です。
そのことに私は興奮を隠しきれませんでした。
それは私だけではないのでしょう。
語るラインハルトさんはもちろんアキも食い入るようにその話に耳を傾けています。
「僕としてはこれらの武具は使用する人が持つのが適当だと考えるのだがどうだろう?」
ラインハルトさんのその言葉に反論はありません。
私はそれを確認して口を開きました。
「では、後程武具を確認して誰が持つのかを相談しましょう。残った物に関してはクランの倉庫に保管しましょう。」
私の言葉を受けて皆は笑みを浮かべます。
私も楽しみです。
しかし、会議はまだ続きます。
「次は魔道具についてです。ハーロウさんお願いできますか?」
「はい、わかりました。知らない人もいるかもしれないため魔道具とは何かについてから説明させていただきます。」
ハーロウさんはそう言いながら説明を始めました。
「魔道具とは魔法の効果を発揮する道具のことを指します。先ほどラインハルトから説明の上がった魔法効果を発揮する武具についても広義では魔道具に分類されるみたいです。」
ハーロウさんの説明されている通りこの世界には魔道具と呼ばれる道具があります。
例えば種火を生み出す指輪や水を生み出すブレスレット等魔法の種類や道具としての形は様々です。
単純にステータスを上げるだけならまだしもこのように特殊な効果を及ぼす魔道具をプレイヤーが作り出したとは聞いていないためおそらく手に入れたのは私たちが初めてなのでしょう。
だからこそ知らない人も多くいるはずです。
私自身ハーロウさんにそう言うものがあると聞いて初めて知りました。
「今回、私たちが手に入れた魔道具の多くは生活を向上させるものばかりです。戦闘向けのものは僅かしかありませんでした。」
「生活を向上させるものと言うとどういう物でしょうか?」
「そうですね………例えば水珠と呼ばれる魔道具は真水を生み出すことのできる魔道具です。特に今回アルベルツ王国から受け取った水珠は都市一つの水を賄って余りあります。これを使うことで都市の生活水準を上げることができるでしょう。」
水は人間が生活するうえで不可欠です。
それを一つの魔道具で賄うことができるというのであれば確かに強力なものなのでしょう。
「私はこれらの魔道具を使ってゼクスの開発を提案したいと思います。」
ハーロウさんは自信満々にそう口にしました。
周りの皆は唖然としています。
私は皆を代表して口を開きます。
「開発の詳細については後程聞くとして………それをするとどのようになるのでしょうか?」
「はい。ゼクスの町が発展すれば生産力の向上が見込めます。そうすればアルカディア王国の国力も向上できると考えます。」
「なるほど。」
私たちは国家を運営する立場にあります。
それならば自分たちの利益だけではなく国の発展も考えなくてはいけません。
それを考えるとハーロウさんの話は理にかなっています。
「開発の内容を聞いてからになりますが私としてはハーロウさんの案を支持したいと思います。」
私の言葉を受けて皆も頭を悩まします。
はじめに口を開いたのはマテリーネさんです。
「わたしもーそれでいいと思うよー。」
彼女の言葉を皮切りに皆も賛成を口にしました。
そんな中イヴァノエさんだけが苦言を口にしました。
「ゼクスの町は現状で安定している。そこに手を加える必要性を感じないのだがその辺はどのように考えているのだ?」
ハーロウさんはそれを受けて回答を口にします。
「確かにゼクスは今の時点でも十分に住民が生活するだけの能力があります。それは、私たちがアルカディアを立ち上げた以降に行った政策のおかげだと思っています。」
ハーロウさんは静かに語ります。
「元々はアルベルツ王国の町であったために他の都市からの支援を前提として作られています。そこを私たちが占領したためにいくつか問題が発生したのは皆さん覚えていると思います。」
ハーロウさんの言う通り私たちがアルカディア国としてゼクスの町を治めることになってからいくつか問題がありました。
例えば食料の問題です。
ゼクスは鉱山都市として発達した町のため食料の生産力は他の町に依存していました。
それを改善するために私たちはホムンクルスやオートマタを使って大規模な農場を作り出しました。
それにより今では食料の問題が上がることはありません。
「これらの問題を私たちが解決したからこそゼクスは安定しています。しかし、その対応は必ずしも適切なものであったとは言い難いです。私たちには時間がありませんでした。その限られた時間の中で取れる手段を講じたので当たり前です。」
ハーロウさんは今の対応だけでは不十分だと考えているようです。
私自身その考えに異論はありません。
「だからこそ町をより良くするために私たちは新たな手立てを考えなくてはいけません。私はそのために魔道具を使った都市開発を提案いたします。」
ハーロウさんの言葉を聞いてイヴァノエさんは深く頷きました。
そして静かに口を開きます。
「そう言うことなら納得した。私もハーロウの案を支持しよう。」
それを受けて全会一致となりました。
私たちは魔道具を都市開発に利用することを決定しました。
詳細はこれから詰めていく必要があるでしょう。
しかし、よりよい町が出来上がるのは明らかです。
私はそれが楽しみでした。
さて、思考を戻してアイテムの確認作業に戻ります。
私は次のリストに目を通しました。
「最期に魔導書についてです。エスペランサさんお願いできますか?」
「うむ。承った。さて、魔導書についても強力なものが贈られている。多くは古代の魔法だが、一部神代の魔法について記述された魔導書もあった。」
エスペランサさん言う通り魔導書の中には神代のことが書かれたものがありました。
それらに記載された魔法は当然強力なものです。
詳細は聞いていませんがどれも安易には使えないものばかりでした。
「これらに関しては後程私の方で翻訳しておこう。興味のある者はクランの倉庫に保管しておくので各自確認するようにしてくれ。」
エスペランサさんの言葉を聞いて私は後で確認しようと思いました。
魔法事態はそんなに使いませんがそれでも手段が増えるのは良いことです。
暇な時にでも覗くことにしましょう。
私がそんなことを考えているとエスペランサさんは発言を終わらせ席に座りました。
それを確認して私は次の議題に思考を移します。
王国から贈られたアイテム以外にも話し合わなくてはいけないことはあります。
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