8-3
◆ゼクス
「えっと、次に話さないといけないのは亡命者についてですね。」
私はそう言いながらユリアさんの方に向き直りました。
亡命者の対応はユリアさんの召喚した悪魔が行っています。
議題に上げてほしいという話もユリアさんから聞きました。
「ユリアさん説明していただいてもいいですか?」
「はい。」
ユリアさんは静かに席を立つと皆を見回して口を開きました。
「先の戦争で勝利して以降、亡命希望者が増えています。これはプレイヤー、非プレイヤー限らずです。」
彼女の言う通りここ最近のゼクスは人が増え続けています。
それはプレイヤー、NPC問わずです。
特にプレイヤーは戦闘職、生産職問わずゼクスに集まっています。
「今後も同じように増え続けた場合ゼクスの町で抱えられる人口を超える可能性があります。亡命希望者を絞るのか、それとも町を開発するのかしないといけないと愚考いたします。」
ユリアさんはそう言うと席に着きました。
彼女の言葉を聞いて皆が思案顔を浮かべます。
ゼクスの町は広いです。
しかし、その広さも有限です。
確かにこのまま人が増え続けていくのであれば人口がゼクスの町に収まらなくなるのも時間の問題なのかもしれません。
「いくつか意見をいいでしょうか?」
皆が思考に耽っているとハーロウさんが声を上げました。
「はい、なんでしょうか?」
「先ほどユリアさんは今回の問題に対する対策として亡命希望者の数を絞るか町を大きくするかとおっしゃっていましたがそれ以外にも方法があると私は考えます。」
「それは何ですか?」
「はい。戦争を起こし他の町を占領するのです。」
ハーロウさんのその言葉を聞いて皆が驚きの表情を見せます。
それも当然です。
自分たちの手で戦争を起こす。
それをすることを考えていた人はこの場にはいないのでしょう。
しかし、それも有効な手であることは確かです。
「亡命希望者の数を絞ろうと町を大きくしようと限られた土地の中では限界があります。そのためいつかは新たな領地を得るために戦争を起こす必要があると思います。」
ハーロウさんの言っていることはもっともです。
しかし、決断はできません。
現代社会で生きる身としては戦争という手段が良い手段とは思えないからです。
そんな私の気持ちを知ってか知らずかハーロウさんの言葉は続きます。
「何もすぐにしなくてはいけないというわけではありません。当面は先ほど申し上げた魔道具を使った都市開発で対応可能でしょう。」
それを聞いて一安心です。
戦争などないに越したことはありません。
「しかし、戦争の必要性が無くなるわけではありません。1つの町だけの国ではプレイヤーにつまらない国だと思われてしまうことでしょう。そうなるとせっかく集まったプレイヤーが離れて行ってしまうことになるかもしれません。」
ハーロウさんの更なる言葉に私は再び緊張を覚えます。
プレイヤーからしてみれば色々な場所に冒険できる国の方が良いのは当たり前です。
そう考えると確かにアルカディアはつまらない国と思われてしまうかもしれません。
現状はミスリルの取れる鉱山があることでプレイヤーが集まっています。
それも今だけなのかもしれません。
「だからこそ、戦争をして国を広げていく必要があると私は思います。」
「戦争以外に手はないのでしょうか?」
私は不安な気持ちを隠しもせずにそう聞きました。
「そうですね。新たな町を立ち上げるというのもありますがあまり効果的ではありません。ゼクスの周辺地図を確認いたしましたが町を作れるような土地はゼクスと近すぎるためやれることの幅は広がらないでしょう。」
ハーロウさんの言葉を受けて私は頭の中で地図を思い浮かべます。
確かに町を作れるような場所は限られています。
それは現在町がある場所の近くです。
「………戦争は回避できませんか?」
「アルカディアを大きくするうえでは回避するのは難しいでしょう。未だ私たちの国は領土の小さな弱小国です。より大きな領土を得られなければ自然と消えていくだけかと思います。」
ハーロウさんのその言葉を聞いて私は深く考え込みます。
私だけではありません。
他の皆も一緒になって顔を伏せています。
それもつかの間、彼らは皆顔を上げると期待を込めた視線を私に向けてきます。
アルカディアの国王は私です。
私が決めなくてはいけないのでしょう。
「分かりました。時と場合を考えて今度は私たちからアルベルツ王国に戦争を仕掛けましょう。」
私のその言葉を受けて期待と不安が入り混じった声が会議室に響きます。
皆、考えることは同じです。
戦争を起こすのは怖いです。
それでもそれを行わななければ私たちの国に未来はありません。
ならば全力で取り組むだけです。
何を犠牲にしようとも私はこの国を牽引する使命があります。
そう言い聞かせて私は不安を取り除きます。
「ハーロウさん、ありがとうございます。」
私がハーロウさんにお礼を言うと彼はお辞儀をして席に着きました。
私はそれを確認して皆に問いかけます。
「他に何か問題となっていることはありますか?」
先ほどの話はこれで終わり。
そう言う意味を込めて私は皆に問いかけました。
「僕からいいかな?」
私の問いかけにラインハルトさんが手を上げて口を開きました。
「はい、何でしょうか?」
「鉱山の話なんだけどね、探索中に坑道の途中で崩落している場所を確認したんだ。イヴァノエと相談してその坑道の復興作業を進めようと思うんだけど、その前にリンちゃんに先を見てきてもらうことはできるかな?」
「崩落した坑道の先ですか?」
「うん。確かツヴァイの鉱山でも同じようなところを探索したって聞いたよね?それと同じでこの鉱山でも崩落した先に上位のエリアがあるかもしれないからね。先に何があるか分かっていれば準備もできるし都合がいいと思ったんだ。」
「そう言うことですか。はい、大丈夫ですよ。後程鉱山のマップをいただけますか?」
「もちろんだよ。」
ラインハルトさんは快く返事を返してくれました。
私と彼のやり取りがひと段落つくとミケルさんがおずおずと口を開きました。
「え、えっと。もしよければだけど坑道の先で取れる物のサンプルを持ってきてもらえるかな?」
彼は鍛冶師です。
鉱山と言えば鍛冶師にとって宝箱のようなもの。
そこでとれるものが気になるのは当たり前でしょう。
「はい、わかりました。」
私の返答を聞くとミケルさんは嬉しそうに顔を上げます。
私はそれを確認すると皆の方に向き直り再び問いを投げかけました。
「他に連絡事項はありますか?」
「妾の方からも良いかの?」
私の問いかけに次はユキナさんが声を上げました。
私が頷いて発言を許可すると彼女は静かに語り始めました。
「近頃ゼクスでプレイヤーキラーが出没しているらしいのじゃ。」
「プレイヤーキラーですか?それは以前からではありませんか?」
ゼクスの町では貴重な素材アイテムが多数手に入ります。
そのためそれらの素材アイテムを狙ったプレイヤーキラーが多くいます。
私自身、ゼクス近くの森林でプレイヤーキラーに襲われたことがあります。
それとは違うのでしょうか?
「いや、今回のはゼクスの町周辺では無く町の中に出没しているようなのじゃ。」
「町の中ですか?」
「ああ、狙いも素材アイテムでは無く戦うことそのものが目的みたいじゃの。」
「………なぜ、そう思うのでしょうか?」
「こやつが有名なプレイヤーキラーだからじゃ。二刀流の人間プレイヤー。ずいぶん前から度々街中でのPKを繰り返し行っておるのじゃ。少し前までは別の町にいたが遂にゼクスに来たというわけじゃな。」
それを聞いて心当たりがあるのか皆は顔を曇らせました。
「彼ですか………。」
ハーロウさんが苦々しげにそう口にしました。
彼だけではありません。
ラインハルトさんやアキの表情もすぐれません。
それほど有名な人なのでしょうか?
「えっと、私は寡聞にしてその方を知りませんがそれほどまでに有名ということは強いのですか?」
「強いよ。」
私の問いに答えてくれたのはラインハルトさんでした。
「ずいぶん前。リンちゃんと出会う前になるんだけど、その頃に一度襲われてね。僕じゃ勝てなかったよ。」
私はそれを聞いて驚きます。
ラインハルトさんは実力的にトッププレイヤーと言っていいだけの力を持っています。
そんな彼が勝てないプレイヤーがいるとは思ってもいませんでした。
「そんなに強い方がいるのですね。」
「そうじゃな。あやつは戦うこと自体が目的じゃから生産職が狙われることはほとんどない。だから、注意しなくてはいけないのは戦闘職じゃな。」
「そうだね、注意しておいた方が良いかもしれないね。」
そう言うラインハルトさんの言葉は真剣そのものでした。
それほどまでにかつて負けたことが悔しかったのでしょう。
だからこそ私はそのプレイヤーキラーへの興味が湧きました。
戦うことが目的のプレイヤーキラーとはどんな人なのでしょう?
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