6-4
◆ゼクス
長い旅路を経て私たちはゼクスの町にたどり着けました。
今までの町同様に大きな外門を眺めながら私たちは町の中へと入ります。
その時です。
「待て!!」
衛兵に止められました。
「何でしょうか?」
私は彼の強い語気に若干苛立ちを覚えながらそう答えました。
衛兵は今にも攻撃してきそうな雰囲気を漂わせながら私に声をかけてきます。
「何故魔物がゼクスの町に入ろうとする!?」
今までどの町でもこのように呼び止められることはありませんでした。
きっとこれは好感度が下がっているからなのでしょう。
私はため息を吐きたい気持ちを抑え込みながら答えます。
「私たちはプレイヤーです。冒険するためにゼクスまで来ました。」
「何!?プレイヤーだと!?」
衛兵は私の返答に困惑しながら思案顔を向けます。
それにしても変な話です。
プレイヤーだから好感度が下がっているのにプレイヤーと知らずにあんな対応を取られるとは………。
その辺はAIの限界なのかもしれません。
そんなことを考えていると衛兵が再び声をかけてきました。
「それならいい。町で悪さを起こすなよ。」
謝りもせずに釘を刺してきます。
今までだって町で悪さを起こしたことはありません。
心外です。
私はそんな思いを胸の奥に押し込んで町へと入ります。
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ゼクスの外門を潜ると道の端によって私は皆さんに声を掛けます。
「ゼクスまでの旅路、お疲れ様でした。」
私のその言葉を聴いて皆は喜びの声を上げます。
私自身も心地の良い達成感を感じていました。
それを叫びたい気持ちを抑えて言葉を続けます。
「私たちのクランはしばらくの間このゼクスを中心に活動していきます。ゼクスの町を見て十分にクランの活動拠点として利用できるようならここをクランの本拠地としたいと考えています。」
私の話を皆は静かに聞いてくれます。
私は続けて声を発しました。
「現時点で皆さんに依頼したいことはありません。各々やりたいようにやってください。クランの名前通りこの町で楽しみつくしましょう。」
私のその言葉を聞いて皆は再び沸き立ちました。
それを見て私は嬉しくなります。
クランの皆と気持ちが一緒なのだと再確認できたからです。
私は微笑みを浮かべながら最後の言葉を口にします。
「それでは解散します。」
その声を聞いて各々は好き好きに動き始めました。
「じゃあ、僕たちは工房になりそうな物件を探しに行ってきますね。」
まず最初に動いたのはミケルさんたち生産職の方々です。
生産設備を準備するため工房となる場所を探しに行きました。
「私は早速図書館を覗きに行ってくる。」
次に動いたのはエスペランサさんです。
彼は町の図書館を身に飛び立っていきました。
「私たちはどうしましょうか?」
残った戦闘職の皆さんに私は聞きます。
皆さん特にやることが無いようです。
「そうだね。今着いたばかりだからこれから狩りに行こうって気分でもないな。」
「なら、また固まって町の様子でも見ますか?」
ハーロウさんの提案を受けて私たちは町の中を見て回ることにしました。
メンバーは私、アキ、ハーロウさん、ラインハルトさん、ユリアさん、ユキナさんの6人です。
皆さんは固まって移動を開始しました。
私も遅れないように彼らの後に続きます。
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私たち6人はゼクスの町の中央広場に来ていました。
まず町を見るとなればここからです。
その場所は活気に満ちていました。
それもそのはずです。
このゼクスの町の周辺では多くの生産素材が手に入ります。
生産職にとって宝の山です。
その生産職が作ったものが数多く露店に並べられていました。
しかし、ここで少し気になることが………。
「プレイヤーが思ったほど多くないような気がします。」
流通都市フュンフの町と比べてもそん色がないほどに露店の数があるのにプレイヤーの露店が思ったほど多くは無かったのです。
それが少し気になります。
「それはですね。」
私のその呟きを耳聡く聞きつけたハーロウさんが口を開きました。
「未だゼクスの町にたどり着けているプレイヤーが少ないことが原因ですよ。」
「そうなのですか?」
「はい。私たちはリンさんのおかげでアルゲンタヴィスをはめ殺すことができましたが他の方はそうではありません。多くのプレイヤーにとってアルゲンタヴィスは強敵なのですよ。」
確かに私たちは運よくアルゲンタヴィスを地面に抑え込むことができました。
しかし、それはショゴスと言う種族の特性を生かしてのことです。
未だ私と同じような種族に出会っていない現状を考えると確かに多くのプレイヤーには無理な芸当なのでしょう。
「なるほど、そうなのですね。ハーロウさんありがとうございます。」
私はハーロウさんにお礼を言って再び町の様子に目を向けました。
並ぶ露店の商品を見ると当初聞いていた通りミスリル製品が目立ちます。
ゼクス近くの鉱山でミスリルが取れるというのは本当のことのようです。
他にもゼクスの町の近くには大きな森林があります。
その森林でとれる草木を使った装備や魔物の素材を使った防具なども売られていました。
ハーロウさんとユリアさんが手近の露店に赴きそこで売られている杖を眺めています。
あれもきっと森林でとれる材木から作られたものなのでしょう。
アキ、ラインハルトさん、ユキナさんも近くの露店を除いています。
彼らが見ているのはミスリルで作られた武器や防具のようです。
私はそんな彼らを眺めながら中央広場の他の露店にも目を向けていきました。
するとそこに見知った顔を見かけました。
「アルドーさん?」
「ん?ああ、リン………だったか?」
それは真っ赤な鎧に身を包んだ魔法剣士の人間………アルドーさんでした。
彼は首を傾げながらそう聞いてきました。
「はい。ショゴスのリンと言います。」
「闘技大会ぶりだな。」
「そうですね。」
私は自己紹介をしながらそんな当り障りのない会話をします。
「アルドーさんもゼクスにいたのですね。」
「ああ。というよりはプレイヤーでゼクスに来たのは私たちが一番最初だ。」
「そうなのですか?凄いですね。」
「闘技大会優勝者のリンに称賛されると素直に嬉しいな。」
アルドーさんはそう言いながら少し照れ臭そうな顔をしました。
私は彼の装備を眺めます。
闘技大会の時は鉄製の武具を使っていましたが今の彼はミスリルの装備に身を包んでいます。
鞘に納められた剣もきっと同じなのでしょう。
その事から彼がこの町に来て長いことが伺い知れます。
「リンはいつゼクスに来たんだ?」
「今日です。ついさっき着きました。」
「と言うことは少し前までフュンフにいたんだよな?」
「はい。」
「なら、フュンフ防衛戦にも参加したのか?」
「はい、そうですよ。」
私の返答を聞いて興味を持ったのかアルドーさんは少し笑みを浮かべながら次の言葉を口にしました。
「防衛戦では多くはゴブリンやオークなどと聞いたが1体だけ悪魔が出たと聞いた。それは本当か?」
「はい。と言いますが私たちがその悪魔を倒しました。」
「そうなのか?どんな感じだった?」
アルドーさんは悪魔のことが気になるのか掴みかかるような勢いでそう聞いてきました。
私は当時のことを思い出しながら答えます。
「強い相手でしたよ。物理攻撃も魔法攻撃も強力で防御力も他の魔物と比べて非常に高いものでした。」
「やはりそうなのか。」
「特に変身してからの攻撃はすさまじかったです。手を振るだけで周囲に衝撃が走るほどでした。」
「変身………RPGのボスではよくあることだがこのゲームでもやはりそれを使う敵がいたのか。」
アルドーさんはしみじみとそう言いました。
私は彼のその反応を見て次の言葉を待ちます。
「ありがとう、参考になったよ。私としても悪魔と戦ってみたいが未だどこに出るか分からない相手だからな。」
「そうですね。強さ的にもそうそう出てくる相手ではないと思います。」
「そうだろうな。」
私たちがそんな会話をしているとラインハルトさんが露店から戻ってきました。
「あれ?アルドー?何してるの?」
「ラインハルトか。リンからフュンフ防衛戦時の悪魔について聞いていたところだ。相当に強い相手だったのだろう?」
「ああ、リンちゃんのことだから簡単な言葉で済ませていると思うのだけれどアルドーが思っている以上に凄まじい相手だったよ。」
「そうなのか?」
「リンちゃんだからこそ悪魔の相手をすることができたけど他のメンバーは最初の悪魔の攻撃でHPがレッドゾーンまで削られたからね。それを何度も受けられるリンちゃんがおかしいのさ。」
「………。」
アルドーさんはラインハルトさんの言葉を聞いて無言で私のことを見ました。
少し照れてしまいます。
「リンが強いのは闘技大会で知っていたがそれほどとはな………。いや、参考になった。」
アルドーさんはそう言うと私たちにお礼を口にして去っていきました。
それを見届けながら私たちはゼクスの観光を再開するのでした。
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