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◆フュンフ=ゼクス街道
私たちは朗らかな日差しの中ゼクスに向けて街道を歩いていました。
ここまで半日ほど歩きましたがフュンフ周辺は魔物が減っているせいか殆ど襲撃を受けることはありませんでした。
そのせいもあってユキナさんをはじめ戦闘好きな方は退屈そうにしています。
私としては安全な旅路を喜ばしいと思っています。
何か問題が生じるよりは今の方がずっと良いです。
「ここらで一度休憩にしませんか?」
ハーロウさんがそう声をかけてきました。
魔物の襲撃がほとんどないとはいえここまでずっと歩き続けていました。
確かに疲労が溜まっていることでしょう。
私は皆さんに休憩する旨を伝えました。
街道の端の木の陰に陣取り皆思い思いに休憩しています。
私はそんな皆のことを眺めながら草原に走る風の心地よさを味わっていました。
そんな時、不意にエスペランサさんが声をかけてきました。
「リン殿、少しいいかな?」
「はい、何でしょう。」
「出発前に渡そうと思っていて忘れていた。以前リン殿から預かっていた魔導書の解読が終わった。その現代語訳を渡しておこう。」
エスペランサさんはそう言っていくつかのアイテムを私に受け渡してきました。
「ありがとうございます。」
私はお礼を言ってそれらを受け取ります。
そしてそのうちの1冊を取り出しました。
タイトルは「ルルイエ異本(写本)」です。
確かに私がエスペランサさんに預けていた本と同じです。
私はその本を開きます。
<呪文【神殿の作成】を取得。>
<呪文【神像の作成】を取得。>
<呪文【神に捧げる祈り】を取得。>
<呪文【ダゴンの召喚/退散】を取得。>
<呪文【ハイドラの召喚/退散】を取得。>
<呪文【クトゥルフの召喚/退散】を取得。>
<呪文【クティラの召喚/退散】を取得。>
<呪文【シアエガの召喚/退散】を取得。>
<スキル【神代知識Ⅳ】を取得。>
<スキル【神代知識Ⅳ】はスキル【神代知識Ⅰ】と統合いたします。>
<スキル【神代知識Ⅴ】を取得。>
以前、「不完全な無名祭祀書(写本)」を読んだ時と同様に数多くの魔法を取得しました。
………中にはヤバイものもあります。
「エスペランサさん。これって………。」
「ん?リン殿が開いているのは………ルルイエ異本か。と言うことは【クトゥルフの召喚/退散】の呪文を覚えたのだな。」
「はい。」
「色々と思うところはあると思うが今は素直に新しい技術を身に着けたことを喜ぶと良い。しかし、むやみに使うことはするなよ。」
エスペランサさんは真剣な表情でそう釘を刺してきました。
言われずともそうそう神格の召喚なんていたしませんよ。
しかし、エスペランサさんが釘を刺したのは別の理由があるようです。
「召喚系の魔法は本来従属させる魔法とセットで使用される。しかし、この魔導書で取得した召喚系の魔法は従属させる魔法が無い。だから、もしも召喚主が召喚されたものよりも劣っている場合は召喚主の言うことを聞かずに召喚されたものが好き勝手に動くことになる。」
エスペランサさんの言葉を聞いて想像します。
神格を召喚した場合………。
当然私は神格よりも格下です。
と言うことは呼び出された神格は私の言うことを聞かずに好き勝手に動くのでしょう。
クトゥルフが好き勝手に動くということは………。
想像するだけで怖い思いをします。
「まあ、魔法を持っているだけならなんの問題も無い。そう怖がる必要もないさ。」
私が緊張した面持ちをしているとエスペランサさんがそう声をかけてくれました。
確かに彼の言う通りです。
私は気持ちを切り替えて他の魔導書も読むことにしました。
<呪文【深きものの召喚/退散】を取得。>
<呪文【ダゴンの子らの召喚/退散】を取得。>
<呪文【旧き印の作成】を取得。>
<呪文【父なるダゴンとの会話】を取得。>
<呪文【母なるハイドラとの会話】を取得。>
<スキル【古代知識Ⅱ】を取得。>
<スキル【神代知識Ⅰ】を取得。>
<スキル【神代知識Ⅰ】はスキル【神代知識Ⅴ】と統合いたします。>
<スキル【神代知識Ⅵ】を取得。>
<スキル【神代知識Ⅰ】を取得。>
<スキル【神代知識Ⅰ】はスキル【神代知識Ⅵ】と統合いたします。>
<スキル【神代知識Ⅶ】を取得。>
こちらでも数多くの魔法と知識を得ることができました。
私はそれを1つずつ確認していきます。
そんな時でした不意に声をかけてくる人がいました。
「リンさんそれは以前WDクエストの際に手に入れた魔導書ですか?」
ハーロウさんです。
彼は目聡く私の行動から推測してそう声をかけてきました。
「はい、そうですよ。ハーロウさんも読みますか?」
「是非お願いします。」
私はハーロウさんに魔導書を受け渡しました。
彼は1冊ずつ開き魔法を取得していきます。
「これはまた………。危険そうな魔法が多いですね。」
「はい。」
「しかし、有用であることに変わりはないでしょう。リンさんありがとうございます。」
「お礼ならエスペランサさんにお願いします。魔導書の翻訳をしてくださったのはエスペランサさんなので………。」
「はい。エスペランサさんもどうもありがとうございます。」
「うむ。」
私たちがそんな会話をしているともう1人の魔法使いユリアさんがこちらに近づいてきました。
「何をしているのでしょうか?」
「ユリアさん。以前リンさんが手に入れた魔導書を回し読みしていたところです。」
彼女の疑問にハーロウさんがそう答えます。
その答えにユリアさんは興奮したような表情を浮かべて口を開きます。
「魔導書ですか!?私にも見せてもらえないでしょうか!?」
「はい。大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます!」
私がそう返すとユリアさんは満面の笑みを浮かべてお礼を言いました。
そして私は持っていた魔導書をすべて彼女に受け渡します。
ユリアさんはそのうちの1冊を手に取り開きました。
「!!」
表情の変化は劇的でした。
彼女はまさに驚愕ととれる表情をしていました。
「な、何ですか!?この魔法は!?」
彼女の驚きの表情は少し新鮮です。
私はそれが可笑しくて少し笑いが漏れてしまいます。
それはハーロウさんも同じなのか微笑みを浮かべながら彼女の疑問に答えました。
「驚くのは無理も無いですよね。これらの魔導書は明らかに高位の魔導書です。取得できる魔法はどれ一つとっても強力なものですよ。」
「魔導書の名前から不穏なものを感じ取ってはいましたがこれ程の魔法があるとは思えませんでした。しかし………。」
「はい。普段使いするには持て余す魔法ばかりですよね。」
ハーロウさんは少し残念そうにそう言いました。
彼の言う通りこれらの魔導書で取得できる魔法の半分以上は消費するMPが多すぎて普段使うには戸惑わさせるものでした。
そうでなくとも効果がやばいものも多いです。
「でも、この【悪魔の召喚/退散】は良いですわ。」
ユリアさんは笑みを浮かべながらそう言いました。
「丁度、この間の悪魔討伐で悪魔と大悪魔の従属魔法を取得いたしました。なので、召喚する魔法は丁度欲しかったところです。」
「それは良かったです。」
確かにそれは丁度良かったのでしょう。
しかし、私はそのような魔法を取得しませんでした。
これは彼女の召喚術士と言う職業との違いなのでしょうか?
そんなことを考えながらも彼女の表情を伺います。
彼女の表情から物凄く喜んでいることが分かりました。
それを見て私も嬉しくなります。
「リンさんありがとうございます。」
「はい。魔導書の翻訳をしてくださったのはエスペランサさんなのでお礼は彼にもお願いします。」
「エスペランサさんもありがとうございます。」
「どういたしまして。」
こうして私たちは多くの魔法を取得することができました。
中には危険なものもありますがそれでも皆が喜んでくれてよかったです。
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