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◆フュンフ防衛戦 戦場
何度目かの交代の末に私たちは再び戦場へと駆り出されていました。
敵の数は確実に減っています。
しかし、それでも総数が多いために未だ敵を殲滅できてはいませんでした。
戦争が長引けば当然こちらの被害も広がります。
NPC冒険者はもちろん私たちプレイヤー部隊にも死に戻りしている人たちがいます。
それでも戦況は五分と五分と言ったところです。
それは私たち以上に敵の被害が多いからです。
それもこれも必死に頑張っている作戦本部のおかげでしょう。
全体を俯瞰して戦線が危ういところに適宜余剰戦力を投入しています。
薄氷の上に立つかのような危うさではバランスではありますがそれでも私たちは確かに優位を保っていたのです。
「作戦本部から連絡がありました!味方左翼が押されています!動ける人員はすぐさま左翼の援護に向かってくださいとのことです!」
「分かりました!皆さん目の前の上位種撃破後私たちは左翼に移動します!ハーロウさん、本部に連絡お願いします!」
「はい!」
今もこうして細かく指示が飛んできています。
私は目の前にいたオーガに止めを刺して周りを見回します。
皆さん危なげなく敵を討伐できたようです。
周りのゴブリンを牽制しつつ私たちは移動を開始しました。
左翼にたどり着いた私たちがやることは先ほどまでと変わりません。
ハーロウさんとユリアさんが召喚した魔物が牽制している間に前衛が上位種を討伐していきます。
先ほどまでと違うのはここは前線近くのため味方の攻撃に注意が必要と言うことです。
私たちは魔物のため敵と間違われて攻撃されることもあるかもしれません。
それに気を付けながら私たちは1匹、また1匹と魔物を討伐していきました。
「前方からトロールが2匹来ます!」
ハーロウさんが声を上げました。
「1匹は僕がやろう。」
「もう1匹は妾が貰った。」
すぐさまラインハルトさんとユキナさんが返答し2人はトロールに向けて駆けていきます。
私は彼らの活躍を後目に目の前のオークを討伐します。
押されているという情報の通り左翼には上位種が多くいました。
根絶やしにしてあげましょう。
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>>Side:フィーナ
「部隊Cの一部のパーティおよび休憩中だった部隊Aが左翼に向かいました。これにより左翼は拮抗状態に持ち直しました。」
「分かりました。引き続き戦場の監視をお願いします。」
左翼軍崩壊の危機はこうして引き止められました。
私はそのことにほっと胸を撫でおろします。
しかし、未だ戦況は五分五分です。
安心しきるには早いです。
気を引き締めて次の報告に耳を傾けます。
「生産部隊より連絡。予定していた消耗品類の作成を完了。物は補給品用の倉庫に納品済みとのことです。」
「分かりました。戦闘はまだまだ続きます。引き続き消耗品の作成を依頼してください。」
「はい。」
戦場を駆ける戦闘職の方だけではありません。
裏では生産職の方もこうしてフュンフ防衛戦に協力してくれています。
フュンフにいるすべてのプレイヤーが一丸となってくれたことは素直に喜ばしいことです。
そんなことを考えているとまたも別のプレイヤーの方が報告のために作戦本部にやってきました。
「NPC冒険者部隊左翼は持ち直したとのことです。すぐさま戦線に復帰いたします。」
「はい。では、しばらく様子を見たのちに部隊Aには撤退を指示してください。その後、別命あるまで作戦本部近くで待機をお願いします。」
「はい。」
入れ替わり別のプレイヤーが作戦本部へとやってきます。
報告はまだまだ続きそうです。
「報告します。外壁上部の監視部隊より。敵戦線の勢いが落ちているとのことです。」
「その件はNPC冒険者部隊には連絡済みですか?」
「はい。既に別の者が報告に行っています。」
「分かりました。では、我々プレイヤー部隊はNPC冒険者部隊側の対応を待って動こうと思います。その旨をNPC冒険者部隊に連絡に行ってください。」
「はい。」
報告に来たプレイヤーがその場を去るのを待って私は再び口を開きます。
「聞いての通りです。NPC冒険者部隊が敵戦線を押すのであれば我々プレイヤー部隊もそれに合わせて敵戦力の殲滅に動きます。戦場に出ている部隊B、部隊Cに連絡お願いします。」
「はい。」
予想以上に部隊指揮と言うのは大変です。
ひっきりなしに報告が来て、そのたびに的確な判断が求められます。
安易に受けたのは間違いだったでしょうか?
そんな考えができるのも今が優勢だからでしょう。
もしも戦線が劣勢ならばそんなことを考える余裕はありません。
だからこそ今はこの余裕を喜ぶことにしましょう。
そんなことを考えていたら、またも報告にプレイヤーがやってきました。
「緊急報告です!!」
彼はとても焦っています。
その様子からただ事ではないと気持ちを引き締めます。
「どうしましたか?」
「はい。監視部隊より報告です。フュンフ南より魔物の軍勢が進行中とのことです!」
「な!?」
彼の報告に作戦本部は慌てます。
いま私たちが戦線を維持しているのはフュンフの北東。
南と言うとほぼ真反対となるからです。
「それは今戦っている魔物軍勢と同じ勢力なのですか?」
「分かりませんが軍勢を構成している魔物は今相手どっているものと相違ないとのことです!」
となると目の前の魔物たちと同じ勢力と考えた方が良いでしょう。
つまりは私たちは挟撃されているとのことです。
まず考えるべきは………。
「数と予想到達時刻を教えてください。」
「はい。数は3,000から4,000程です。フュンフへの予想到達時刻は後30分ほどとのことです。」
「な!?」
30分しか時間が無いというのですか!?
その報告に作戦本部に詰めていた皆はざわめきます。
短すぎます。
戦線にいるプレイヤーに撤退の指示を出して戻ってもらうだけでも50分はかかります。
と言うことは、今フュンフにいる勢力でどうにか時間稼ぎだけでもしなくてはならないということです。
推定4,000匹の軍勢を前に数百人で時間稼ぎをする。
そんなことできるわけがありません。
私がそんな絶望感に苛まれていると別のプレイヤーが作戦本部へとやってきました。
「NPC冒険者部隊より連絡です。NPC冒険者部隊に後方敵戦力に充てられる人員は無い。プレイヤーの部隊で対処をしてほしいとのことです。」
「こちらにだって対処できる部隊はありませんよ!」
私は声を荒げながらそう口にしていました。
しかし、彼に向かって言っても仕方ありません。
彼はあくまで連絡要員として動いているだけなのですから。
「待機部隊は今いますか!?」
「は!部隊Aが現在撤退中です!即時動ける部隊はいません!」
「そうですか。」
私は必死に頭を動かします。
NPC冒険者部隊、プレイヤー部隊共にすぐさま動かせる人員はありません。
ならば頼らなくてはならないのは衛兵部隊です。
「衛兵部隊に連絡をお願いします!NPC冒険者部隊およびプレイヤー部隊にすぐに動かせる戦力はありません!後方の敵の足止めをお願いしますと!」
「は、はい!」
「続けて前線にいるプレイヤー部隊に連絡を入れてください!全部隊即時撤退。その後、後方敵戦力の殲滅に向かってください!」
「はい!」
「貴方はNPC冒険者部隊に連絡をしてください。後方敵戦力には衛兵部隊とプレイヤー部隊をぶつけます。前方敵戦力はNPC冒険者部隊で殲滅してくださいと。」
「はい!」
私はたて続けに指示を飛ばしました。
皆、緊張した面持ちでその指示に従います。
「ここが正念場です。皆さん張り切りましょう!」
そう。
今この時こそが正念場なのだ。
ここでフュンフの命運がかかっています。
私は今にも倒れこみそうになる気持ちを抑えて全身に活を入れるのでした。
>>Side:フィーナ End
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「!!」
前線付近で敵戦力を討伐中にハーロウさんが驚いたような表情をしました。
「どうかしましたか?」
「皆さん!今しがた作戦本部より連絡がありました!敵増援がフュンフ南に現れたとのことです!」
その言葉を聞いて皆一様に驚きを露にします。
「それは挟撃を受けているということ?」
ラインハルトさんが皆を代表してハーロウさんにそう聞きました。
ハーロウさんは暗い表情を隠さずに口を開きます。
「はい。そうなります。」
挟撃。
その言葉を聞いて私たちに絶望感が押し寄せてきます。
それもそのはずです。
今だって前線は五分五分の状況なのです。
ここで後方に避ける戦力なんてあるはずがありませんでした。
「それで妾たちはどうすればいいのじゃ?」
「はい。プレイヤー部隊はすぐさま撤退。そののちにフュンフ南の敵戦力の対応をするようにとのことです。」
「それじゃあ、前線はどうなるんですか?」
「前線はNPC冒険者部隊が担当するとのことです。」
「え!?」
確かに前線維持はNPC冒険者部隊が担っています。
しかし、実際にNPC冒険者部隊だけでそれができているかと言うと疑問が残ります。
ここでプレイヤーが抜けてしまっては彼らの被害がとんでもないことになるのではないでしょうか?
そう考えていたのは私だけではないようです。
「それじゃあNPC冒険者部隊の被害が大きくなるんじゃないの?」
アキがハーロウさんにそう聞きます。
ハーロウさんはそれを聞いても首を横に振るだけです。
「それでも私たちが後ろの敵をどうにかしないとフュンフの町に被害が出てしまいます。」
「でも!」
「迷っている時間はありません。監視部隊の話では敵がフュンフにたどり着くのは私たちが戻るよりも早いです。今は一刻も早く撤退しなくてはなりません。リンさん!」
ハーロウさんが私に呼びかけてきます。
その目はすぐに撤退の指示を出す様にと言っているようでした。
私は………。
「………撤退しましょう。」
「リン?」
「即時撤退です。私たちはフュンフ南の敵戦力に対応します。」
皆思うところはあるのでしょうが、それでも私のその指示に了解を示してくれました。
私たちは敵戦力を牽制しつつ戦線から撤退しました。
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