5-11
◆フュンフ
>>Side:フュンフの衛士長
「衛士長、我々だけで魔物の軍勢を食い止めるなんて不可能です!」
私の目の前にいる年若い衛兵がそう言った。
私だってそれは理解している。
我々衛兵はかき集めても1,000人がやっとだ。
この人数では4,000もの魔物の軍勢を止めることはできないだろう。
しかし、それでもやらなければならない。
できなければ罪もないフュンフの民が傷つくだけなのだから。
だから私は心を鬼にしてその年若い衛兵に声を飛ばす。
「できないでは無くやるんだ!皆死ぬ気で止めろ!」
私のその言葉を聞いて皆が絶望的な顔をしている。
それもそのはずだ。
この戦いでいったいどれだけの兵が死ぬことになるのか。
私にさえ分からなかった。
それでも私はそれを命令しなくてはならない。
私はフュンフの民を守る衛兵の長なのだから。
「分かったらすぐさま配置につけ!!敵は待ってはくれないぞ!!」
私の言葉を聞き皆が配置につく。
すぐさまフュンフ南に隊列が組みあがった。
私はそれをフュンフの外壁の上から見下ろしていた。
敵はすぐ目の前まで来ている。
4,000という数字は文字で見るよりもずっと強い威圧感を持っていた。
その光景を前に足がすくみそうになる。
しかし、私は不安を気合いで押し込めて口を開いた。
「皆、配置についたな!攻撃を開始しろ!」
「弓兵隊!放てー!!歩兵隊前に進め!!」
私の合図に合わせて副官が指示を出す。
戦場は明らかにこちらが不利だ。
数で負けているだけではない。
魔物側の士気が異様に高いのだ。
まるで1つの巨大な生物のように魔物の軍勢は一丸となって襲ってきた。
「第1隊から第6隊までが壊滅しました!左翼突破されます!」
「中央、右翼も同じくです!」
「前線にいる兵には少しでも足止めすることを厳命させろ!時間さえ稼げば冒険者がこちらに来る!!」
早々に崩壊した戦線を前にして私はそう指示を飛ばす。
しかし、そんなものに意味が無いのは分かっている。
我々の軍にこの魔物の軍勢を少しでも足止めするほどの力が無いことは私が一番わかっているからだ。
それでも言わずにはいられない。
「魔物が外壁にたどり着きました!!」
「上から油を流せ!!火をつけろ!!」
私の指示を聞いてすぐさま用意してあった油樽を下に落とした。
そして、たいまつを投げ飛ばす。
火は瞬く間に魔物たちを焼いた。
しかし、それでも魔物の勢いは弱まらない。
「どんどん油を流せ!!」
火の勢いは外壁にたどり着いた魔物を黒焦げにするほどであった。
しかし、魔物の軍勢は火を怖がらずに外壁を攻撃し続ける。
このままでは………。
「戦線完全に崩壊しました!魔物の本隊が外壁に向かって進行中です!」
もう一刻の猶予もない。
しかし、これでは冒険者たちも間に合わないだろう。
私は意を決して部下に指示を出した。
「残っている兵を集めろ!魔物が内部に入り込んできたらそれを叩く!外壁上部には最低限の人間だけを残せ!!」
「「「はい!」」」
私の言葉を聞いて部下たちは速やかに行動を開始する。
数少ない衛兵の生き残りを集め、外門の内側に隊列を組む。
私もそちらに向かうために外壁を下りた。
--
―ドーン、ドーン
魔物たちが外壁を攻撃する音が響く。
まもなくこの外壁は壊されるだろう。
私はその時を静かに待った。
「外壁破壊されます!!」
外壁上部に残り魔物たちの動向を監視していた部下が声高らかにそう言った。
その直後………。
―ドーッン、ガラガラ
ひときわ大きな音とともに外壁が崩れ去った。
そしてできた穴から魔物たちがわらわらとあふれ出てくる。
「攻撃開始!!」
私は声を張ってそう言った。
その瞬間、衛兵たちは目の前の魔物に攻撃を始める。
私も剣を手に持ち目の前のゴブリン目掛けて振るった。
これ以上先に進ませてなるものか!
私の胸中はその一心だった。
>>Side:フュンフの衛士長 End
--
私たちがフュンフにたどり着く頃には既に魔物は町の中枢近くまで来ていました。
衛兵は壊滅状況です。
多くの魔物は誰邪魔されるわけでもなく好き勝手に町の中で暴れまわっています。
「すぐに魔物の排除をしましょう!」
私の掛け声を聞いて皆はすぐさま動き出しました。
ハーロウさんとユリアさんが召喚した魔物が敵を牽制します。
私たち前衛組は1匹ずつ魔物を討伐してきます。
―ドーン
目の前の家屋が破壊されました。
土煙の中からは巨大な体を誇るトロールが出てきました。
私はすぐさまそのトロールに接敵します。
私を視界に入れたトロールは手に持ったこん棒を私目掛けて振り下ろしてきます。
しかし、鈍重な攻撃に当たる私ではありません。
私はそれを回避するとするりとトロールの体をよじ登ります。
そして手にしたミスリルナイフでトロールの両目を抉ります。
「ぐぁああああああああああ!!」
痛みに悲鳴を上げるトロールを後目に私は体を多くしてトロールの腕を飲み込みました。
そして力いっぱい捻ります。
ぶちぶちと音をさせながらトロールの右腕は引き千切られました。
痛みに悶えるトロールは瓦礫の山に足を取られて尻餅をついてしまいます。
またも私はトロールの体によじ登り体を細く伸ばしてトロールの喉を絞めます。
トロールは必死に私を引きはがそうとしますが片腕となったトロールにそれをすることはできません。
しばらくしてこと切れたトロールは光の欠片となて消えていきました。
私は周りを見回します。
まだまだ敵は沢山います。
私は次の得物目掛けて駆け出しました。
--
「ふぅ。」
何体目になるか分からない魔物を討伐して私は一息つきました。
HPはいまだ余裕があるものの疲労を感じるようになってきました。
それは私以外の皆も同じです。
しかし、ここで弱音は吐けません。
未だ町に入り込んだ魔物は多いです。
これを放置して休むことはできません。
私は自分に活を入れて次の得物を探そうとしたその時です。
「あれは!!」
ユリアさんが何かを見つけたようです。
彼女は空を見上げながら声を上げました。
「どうかしましか?」
「はい。あれを見てください!」
彼女はそう言って空を指さします。
そこには燕尾服を来た男性が飛んでいたのです。
その男性は背中に蝙蝠を彷彿とさせる翼を持ち、頭からは2本の立派な角を生やしていました。
「あれは?」
私はその正体が分からず彼女に聞き返します。
彼女にはあれの正体に心当たりがあるのでしょうか?
私のその疑問に答えるべく彼女は口を開きました。
「あれは悪魔です。」
「悪魔?」
「はい。私もデーモンと言う種族なのでわかります。間違いないです。」
彼女がそう断言するのであれば間違いないのだろう。
しかし、その悪魔が何故こんなところにいるのだろうか?
もしや………。
「この魔物の襲撃と何かかかわりがあるのでしょうか?」
「間違いなく関係していると思います。あれが敵の首魁だとしても驚きません。」
ユリアさんはそう口にしました。
それを聞いて私は考えます。
もしも首魁ならばあいつを討伐すればこの魔物の襲撃も弱まるかもしれません。
私はそんな期待を胸にして口を開きました。
「これより私たちはあの悪魔を倒します!ハーロウさん、ユリアさんまずは敵を引き釣り下ろしましょう。お手伝いお願いします。」
私のその言葉に2人は頷いて肯定を示しました。
私はすぐさまその悪魔の足元に行き、体を細く伸ばし何本もの触手を生み出します。
その触手は瞬く間に伸びていき悪魔を捕えようとします。
私の意図に気が付いたのか悪魔はそれを飛んで避けようとします。
しかし、それを阻害するようにハーロウさんとユリアさんが魔法を放ちます。
「………捕まえました!!」
しばし、鬼ごっこをした後遂に私は悪魔の体を捕えることができました。
力いっぱい引っ張り悪魔を地上に叩き落します。
―ドーン
悪魔が地面にたたきつけられた衝撃で石畳が砕かれます。
土埃が舞う中悪魔は悠然と立ち上がり、私たちの目の前に歩み出てきました。
「酷いですね。」
悪魔は服に着いた汚れを払うようにしながらそう口にしました。
言葉を発する魔物には初めて会います。
そんな感動は置いておき私は彼に話を聞きます。
「貴方がこの魔物の軍勢の首魁ですか?」
「おや、知らずに私に攻撃したのですか?それは野蛮ですね。」
「聞いているのは私です。」
「くくく。そんなに焦らないでくださいよ。ちゃんと話しますとも。はい。私がこの魔物たちの主です。」
微笑みを浮かべながら悪魔はそう言いました。
私はそれを見て苛立ちを覚えます。
「なぜ、こんなことをしたのですか?」
「これはおかしなことを聞きますね。魔物ならば人間に敵対するのは当たり前でしょう?むしろ魔物なのに人間に味方している貴女たちが異常なのではないですか?」
「それは………。」
確かに魔物の価値観ならそうなのかもしれません。
しかし、私たちは魔物であってもプレイヤーです。
ならば人間に味方したって可笑しくはないはずです。
「私たちはプレイヤーです。」
「プレイヤー………。確か神の加護を得た存在でしたっけ?それなら人間に味方するものも………。いえ、私には関係ありませんね。」
悪魔は少し考えるしぐさをするもすぐに思考を止めてしまいました。
事実、私たちの立ち位置など彼にとっては意味が無いのでしょう。
こうして敵として相対していることこそが重要なのです。
「魔物の首魁。あなたを討伐します!」
私は高らかにそう宣言しました。
私の言葉にこう王するように皆が武器を構えます。
それを見ながら悪魔はなおも笑みを浮かべ口を開きます。
「くくく。できるものならやってみなさい。」
この人数を相手にして余裕な表情を浮かべる悪魔をみて私は決意しました。
必ずこの悪魔を倒しこの騒動を収めてやると………。
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