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◆フュンフ
「皆さんお疲れ様です。」
フィーア=フュンフ街道を無事に踏破した私たちはハーロウさんのその言葉を受けて肩の力を抜きました。
私は一先ず胸を撫でおろし、そして皆を見回します。
皆の顔には疲労の色が浮かんでいましたが、それ以上にここまで来たことでの充実感が強いのか皆笑みを浮かべていました。
「さて、この後はユリアさんたちと合流します。リンさん、先ほどお願いしましたがご友人さんの方は問題ないでしょうか。」
「はい。大丈夫です。」
フュンフに到着する直前に私はハーロウさんからアキに連絡をしておいてくださいとお願いされました。
それはこの後すぐに全員で集まってクランのことを相談するためです。
アキの方もその件については了承していたためすぐに返事がきました。
今は集合場所で待っているととのことです。
「では、集合場所の中央広場に向かいましょう。」
ハーロウさんにそう言われて8人は動き出しました。
私も彼らに遅れないように後に続きます。
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フュンフの中央広場は今まで見てきたどの町よりも栄えていました。
それもそのはずです。
フュンフは物流の要所です。
この町を起点に東西南北に街道が広がっています。
東にはフィーアが、北には巨大な鉱山と自然豊かな森林を有するゼクスが、西には未開の地に面したズィーベンが、そして南にはアルベルツ王国の王都アハトがあります。
これらの都市を結ぶフュンフは一大市場として発展していました。
当然、人も多いです。
この中から目当ての人を探すのは苦労しそうだと思いました。
私がそんなことを考えていると遠くから声がかかりました。
「リィーン!!」
そちらに目を向けるとそこには元気いっぱいに手を振るアキの姿がありました。
彼女は笑顔を浮かべながらこちらへと向かって走ってきます。
人が多いのに器用なものです。
「リン!!こっちでは久しぶりだね!!」
「アキも元気そうで何よりだよ。」
私が彼女の元気さに呆れたような声を上げていると皆の注目がこちらへと向きました。
私は彼らに向き直り口を開きます。
「紹介いたします。こちらが私の友人のアキです。」
「はーい。紹介されました、吸血鬼のアキです。」
続いて私はアキに対して他のメンバーの紹介をしていきました。
全員の紹介が終わったところでエスペランサさんが声を上げます。
「早速、アキ殿に聞きたいことがあるのだが、いいかな?」
「はい。なんでも聞いてください。」
「アキ殿は人間から吸血鬼になったと聞いたけど本当なのか?」
エスペランサさんの質問はアキの種族に関することでした。
私はてっきりクランについてのことかと身構えていましたが肩透かしを受けた思いです。
「はい、そうですよ。元々はハイ・ヒューマンだったけど吸血鬼の敵に噛まれたらヴァンパイアになっていました。その後、レベル30になってヴァンパイア・プリンセスに進化しました。」
「ほう、ヴァンパイアになったと。それは他のプレイヤーでも可能なのかな?」
「吸血鬼に噛まれれば可能だとは思いますが私と同じクエストでは無理だと思います。私がクエストクリア後はそのエリアから吸血鬼がいなくなっていましたから。」
「そうなのか。検証は難しいか。」
エスペランサさんはアキの回答に少し残念そうな声を上げました。
「あ。でも、私が噛みつけばいけるのかな?」
「と言うと?」
エスペランサさんはアキのその呟きに大業に反応を示しました。
「ヴァンパイア・プリンセスになった際に【眷属化】というスキルが手に入ったんですよ。そのスキルが吸血により対象を眷属に変えるものなんです。もしかしたらこのスキルで吸血鬼に変えることができるかもしれません。」
「なるほど。それは、確かに可能性がありそうだ。何よりアキ殿がヴァンパイアに変化したのもその【眷属化】というスキルを受けたからと理由もはっきりするしな。もしも、そのスキルを使うことがあればその効果について後程教えてもらえないだろうか?」
「はい。大丈夫ですよ。と言っても今はこのスキルを使う予定は無いのですけどね………。」
「そうだろうな。」
そう言って2人は笑い合っています。
私はその光景を見て一先ず安心しました。
アキと他のメンバーが合わないのではないかと内心では不安だったのです。
しかし、この様子では問題なさそうです。
アキとエスペランサさんがそんな会話をしている間ラインハルトさんたちは人混みの中に目を向けて何やらお話をしていました。
「ハーロウ。あれ、イヴァノエじゃ無いかな?」
「多分そうでしょう。」
「僕ちょっと行ってくるよ。」
ラインハルトさんはそう言うと人混みの中に入っていきました。
彼が向かった先には広場に似つかわしくない木がありました。
彼が行ってしばらくするとその木が動き出しました。
「え。」
私がそれに驚いている間も木は動き、こちらに近づいてきます。
その光景を皆は普通のことだと受け入れています。
私が可笑しいのでしょうか?
そんなことを考えているとラインハルトさんが戻ってきました。
傍らには2人の女性プレイヤーと1人の男性プレイヤー、そして巨大な木を引き連れていました。
「おまたせ。4人とも一緒にいたみたいだよ。」
「そのようですね。リンさんとアキさんに紹介いたします。こちらの女性がユリアさんです。」
「はじめまして。デーモンの召喚術士。ユリアです。」
そう言うとゴシック調の服に身を包んだ巻角の少女が頭を下げました。
デーモンと言う種族も召喚術士と言う職業も初めて聞きました。
私がそんな感想を抱いているとハーロウさんが紹介を続けました。
「続いてこちらの女性がユキナさんです。」
「初めましてなのじゃ。妾は鬼の拳闘士。名はユキナじゃ。よろくの。」
何処かロールプレイ染みたその口調で彼女は自分のことをそう説明しました。
鬼という種族が差す通り彼女の額からは立派な2本角が生えていました。
「続いてこちらの男性がオレグさんです。」
「はい。初めまして。俺はハイ・オートマタの上級技師のオレグと言う。」
オレグさんはそう言うと手を差し出してきました。
私は彼の手を取り握手します。
その手は彼の見た目と反して硬く金属質でした。
ハイ・オートマタと言う種族が差す通り彼の体は機械なのでしょうか?
「最後にこちらの巨木がイヴァノエさんです。」
「初めまして。種族はエンシェント・トレント、職業は超級建築士、名前はイヴァノエです。」
何処か片言ともとれるそんな口調でイヴァノエさんは自己紹介しました。
彼の種族トレントと言うのはファンタジー小説に出てくる動く木です。
だからこのような姿なのですね。
私は動く木の謎に納得を示しました。
「4人の方にも紹介しておきます。こちらがリンさんです。」
ハーロウさんはそう言って、私を手で示しながら4人に紹介しました。
「はい。初めまして。リンと言います。種族はショゴスで、職業は復讐者です。」
「続いてこちらがリンさんのご友人でアキさんと言います。」
ハーロウさんは続いてアキの方を手で示しながらそう言いました。
「はーい。初めまして。吸血鬼のアキです。職業は超級剣士です。」
アキは元気よくそう口にしました。
全員の自己紹介が終わるとハーロウさんが再び口を開きました。
「さて、イヴァノエさん、オレグさん、ユリアさん、ユキナさん、そしてアキさん。5人には事前に説明が言っていると思いますが改めて今の状況を説明いたします。」
ハーロウさんがそう言うと皆の注目が集まります。
それを確認したハーロウさんは説明を始めました。
「先日リンさんの方からクランへの参加を打診されました。当初、私とラインハルトの方でクランの設立をしようと動いていました。このクランは魔物プレイヤー同士で助け合う互助組織のようなものを想定していました。」
ハーロウさんはそこで一度話を区切ります。
そして、皆が話についてこれていると目で確認すると話の続きを口にしました。
「リンさんの方で設立しようとしているクランも私たちが当初想定していたクランとそう違いが無いものと言うこともあって、私たちとしてはそれに参加しても良いと考えています。事前に話を持ち掛けていた4人とリンさんの方から話を持ち掛けているアキさんにご意見を伺いたいと思いこの場を用意しました。」
ハーロウさんはそう言って皆の方に目を向けます。
「俺は問題ないよ。」
「俺も右に同じ。」
オレグさんとイヴァノエさんが真っ先にそう口にしました。
その意見に胸を撫でおろします。
「私も事前に話を聞いていたから問題ないですよ。」
アキも続けて自分の意見を表明します。
皆の視線はユリアさんとユキナさんに集まります。
「私もリンさんのクランに参加することに異論はありません。」
ユリアさんが答えるとユキナさんに注目がいきます。
ユキナさんは眉をひそめながら何やら思案しているようです。
その仕草に少し不安を感じてしまいます。
「元々構想しておったクランでは特にメンバーに対して強制するようなことは無かったじゃろう?リン殿のクランもそうなのか?」
ユキナさんの口から出たのは質問でした。
私は少し慌てながらもその質問に答えます。
「はい。あくまで仲間で助け合うことを目的としています。特にクラン内でノルマなどの制約をかけるつもりはありません。」
「なるほどの。ならば妾としても問題ないのじゃ。」
彼女のその返答を聞いて私は安堵します。
良かったです。
皆さんの合意が得られました。
これでクランを作ることができます。
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