3-9 とある運営のお話2
短いです
◆リースリング・オンライン運営会社
>>Side:とあるゲーム開発者
「………」
「………………」
開発室を静寂が包み込む。
私たちはリースリング・オンライン初のイベントの推移を確認するためゲームをモニタリングしていた。
私たちの目の前で繰り広げられていたのは予選第14グループの試合だ。
その阿鼻叫喚な様を見て私たちは言葉を失っていた。
「やばいな。」
イベント担当がそう口にした。
「ああ、やばい。」
私もそれに同意する。
もう語彙力が無くなるくらいやばい状況だった。
「どうする?状態異常「恐怖」と「狂気」については弱体化するか?」
「いや、今のステータスでは対抗できないが後々のことを考えるとそれは悪手だ。後半に出るボスモンスターが弱くなりすぎる。」
「そうだよな。」
ディスプレイには諸悪の根源、玉虫色の粘性生物が映し出されていた。
「そもそもショゴスへの進化が早すぎる。あれって種族レベル30クラスだぞ。」
「そうだな。そのせいでステータスでも4倍近い差ができている。」
本来ショゴスに進化できるようになるのはレベル30辺りを想定していた。
そのためショゴスのステータスはレベル30の人間ステータスの倍に設定されている。
レベル20の人間ステータスと比較すると4倍となる。
その事が殊更に状況を悪くしている。
何故ならたとえ「恐怖」と「狂気」を克服できたとしてもその膨大なステータス差からダメージを与えることが容易ではないからだ。
しかし、そのことを知らないプレイヤーたちは必死に「恐怖」と「狂気」対策を掲示板で話し合っていた。
「何でこんな序盤にショゴスへの進化解放アイテムがあったんだ?」
「それは廃村の設定のせいだな。しかし、あれだけならただのアイテムで終わるはずだったんだ。この子みたいに飲んだとしても普通の種族なら死ぬだけだ。」
「あー、問題はこの子がスライムだったことか。」
「ああ、スライムの【捕食】スキルのおかげで「玉虫色の薬液」を無事に体内に取り込むことができた。」
そうなのだ。
この阿鼻叫喚な状況を生み出しているのは偶然に偶然を重ねた結果なのだ。
だからこそ運営としても手出しができない。
そうこうしている間に第14グループの試合が終わった。
予想通り彼女が勝者となった。
「さて、どうする?本戦前に状態異常対策のアイテムでも販売するか?」
「運営がそれをするのはフェアじゃないんじゃないか?」
「それを言ったらそもそもこれだけのステータス差があるのがフェアじゃないだろう?」
「ステータス差が生まれたことはしょうがない。それだけ彼女が運に恵まれていたんだから。そしてそれはスキルも同じだ。」
「運ね………。」
そう言いながら同僚は目を反らす。
「何か言いたげだな?」
「いや、彼女のステータスと行動ログを洗って見たんだがな………彼女、称号「神に至る可能性」を持っているぞ。」
「は?何を言っているんだ?それこそ序盤で手に入るはずのないものじゃないか。」
私のその質問に画面を操作する。
映し出されたのはツヴァイの周辺マップだ。
「ツヴァイ近くの鉱山の封鎖エリアあっただろ。ここだ。」
「ああ。そう言えばそこに「神に至る可能性」を手に入れる手段が隠されていたな。でもそこに行くにはイベントを進める必要があるだろう?」
「それがな、どうも落盤の隙間をスライムの体ですり抜けたみたいなんだ。」
「は?」
彼のその言葉を聞いて言葉を失う。
確かにその方法は考えていなかった。
「それで、奥のエリアまで行ってしまったと。」
「ああ。これにより一部のプレイヤーは早々にミスリル武器を手に入れてるぞ。」
そう言えばあのエリアではミスリルが採掘できたな。
いや、今はそれはいい。
そんなことよりも「神に至る可能性」だ。
「なあ、この子は種族レベル20で既にショゴスとなっていて「神に至る可能性」を持っているんだよな?」
「ああ。」
「そうすると最終的な進化先はあれか?」
「そうだな。あと1つ取ったらあれにたどり着けるな。」
「ステータス差が4倍とかいう話じゃないぞ。」
「しかし、仕方がないんだろ?彼女は運に恵まれているだけさ。」
同僚のそのセリフを聞きながら私は再び闘技大会の様子を確認する。
そこには予選第15グループの様子が映し出されていた。
>>Side:とあるゲーム開発者 End
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