8-4
◆ゼクス
会議は終わり私はクランの倉庫に来ていました。
そこには既にアキ、ラインハルトさん、ミケルさんが来ていました。
アキが私の姿を見て笑みを浮かべながら口を開きます。
「リン!私この武器使うからね!」
アキはそう言いながら1本のショートソードを見せてきました。
その武器は精巧な装飾がされており見るからに業物だと分かります。
シャイニング・ポーラスター【武器】
カテゴリ:ショートソード
補正値 :ATK+400、AGI+150
耐久力 :3,800/3,800
魔法効果:攻撃時に追撃が発生する。
その一撃は光輝く極星の如し。
道しるべとなるその光を中心に流星が追従する。
先ほどの会議でも話していた魔剣の1つです。
アキはその剣を大事そうに抱えながら私の顔を覗き込みます。
「リン、いいよね?」
「私は異論はないよ。他の人が問題ないならアキが使っていいんじゃないかな?」
「そう?やった!」
アキは笑みを浮かべてその剣を腰に装備しました。
私はそれを見ながらラインハルトさんに声を掛けます。
「賠償として届いた魔剣を確認しに来ました。」
「リンちゃん、届いた魔法武具は全部で5つだね。剣や槌と言った武器とは別に全身鎧と言った防具もあるよ。」
「見せてもらっても良いですか?」
「もちろんさ。」
ラインハルトさんはそう言って1本の剣を前に出します。
蒼炎の墓標【武器】
カテゴリ:大剣
補正値 :ATK+620、AGI-200
耐久力 :5,300/5,300
魔法効果:発動中蒼炎を操ることができる。
誰も知らぬ剣豪の墓標。
彼の無念はいつしか怪しげな炎となって表れた。
先ほどアキが持っていた武器と同様にこちらも魔法効果というものが付与されています。
これが魔剣なのですね。
私が興味深くそれを見ているとラインハルトさんが口を開きました。
「リンちゃんは魔剣と言うのが何か知っているかい?」
「少し調べました。魔法効果の付与された武器や防具を指してそう総称しているらしいですね。そして現代では作ることができないため一般的には出土されたものが出回っていると。」
「前半は正解だけど後半は少し違うかな。」
ラインハルトさんはそう言いながら新たに武器と防具を私の目の前に出してきました。
私はそれを確認します。
疑似トールハンマー【武器】
カテゴリ:大槌
補正値 :ATK+650、AGI-220
耐久力 :6,100/6,100
魔法効果:発動中雷を操ることができる。
神代にその名を轟かせた軍神トール。
彼の持つ大槌は雷鳴を轟かせ天候を操ったという。
神話をもう一度再現するのだ。
その意気込みと共にこの武器は生み出された。
カンネイの魔道鎧【防具】
カテゴリ:全身鎧
補正値 :DEF+400、RES+200、AGI-200
耐久力 :5,000/5,000
魔法効果:発動中HPを自然回復する。
稀代の鍛冶師カンネイの作り出した全身鎧。
その防御力もさることながら自然治癒を促す魔法により更なる耐久性を誇っている。
「これは何ですか?」
「この武器と防具はどちらも現代に作られたものらしいんだ。」
「!?」
私は驚きからラインハルトさんの顔をまじまじと見てしまいました。
「確かに魔剣と呼ばれるものはリンちゃんの言う通り魔法効果の付与された武器や防具のことを指す。これは間違いない。しかし、現代では作れないというのは間違いなんだ。」
ラインハルトさんは丁寧に説明してくれます。
「単にそれをできる人が少ないだけでNPCの中には作ることができる人がいるらしい。そしてNPCにできるのであればプレイヤーにだってできると僕は考えている。」
確かにラインハルトさんの言う通りだろう。
こうしてNPCが作り出したものがあるのだからプレイヤーが魔剣を作れないなんてことはないはずです。
「だからミケルさんがこちらにいるんですね?」
「うん、そうだよ。今はエスペランサが中心となって生産職組と共に魔剣が作れないかというのを調べているところなんだ。」
プレイヤーが魔剣を作れるようになる。
それはとても夢のある話だと思いました。
私が興奮を隠しきれずにいるとラインハルトさんが口を開きました。
「僕としてもミケル達には期待しているんだ。是非、魔剣を作ってほしい。」
それを聞いてミケルさんはプレッシャーからか身を小さくしていました。
「ミケルさん、頑張ってください。」
「うん、できるだけのことはするよ。」
そう言うミケルさんの声は普段の小心な雰囲気は残しながらも期待に満ちているようでした。
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「さて、リンちゃんも自分が使える魔剣が無いか確認しに来たんだったよね?」
魔剣作成の話がひと段落するとラインハルトさんがそう言いました。
「はい、私が使うのはナイフや短剣なのでそう言った魔剣が無いか確認しに来ました。」
「リンちゃんに丁度いいのがあるよ。」
ラインハルトさんはそう言いながら2つの短剣を取り出しました。
驟雨の白剣【武器】
カテゴリ:短剣
補正値 :ATK+300、AGI+100
耐久力 :4,000/4,000
魔法効果:発動中自身のAGI×1.2
誰より速く、誰より速くを追求した魔剣。
手にするものは世界を置き去りにし孤独を手にすることだろう。
驟雨の黒剣【武器】
カテゴリ:短剣
補正値 :ATK+300、AGI+100
耐久力 :4,000/4,000
魔法効果:攻撃時、敵に状態異常「鈍重」を与える。
誰より速くという望みは風化しいつしか他者を貶めることになる。
誰もが自分よりも遅ければいい。
そんな思いと共に呪いをまき散らす。
1振りは美しい刀身を持った純白の剣でした。
刃だけではなく柄も真っ白なその姿は芸術品のように目に移りました。
もう、1振りの短剣はおどろおどろしい雰囲気漂う黒い剣です。
刀身には赤黒い文様が浮かび上がっておりそれがどこか血のように見えます。
これらの剣は銘を見る限り兄弟剣なのでしょうか?
「この剣は目録を確認する限り驟雨の双剣となっていた。つまり2本で1つの剣なんだ。」
ラインハルトさんの説明を聞いて納得しました。
どちらの剣も今使っているミスリルナイフよりも少し刀身が長めです。
その分補正値や耐久力は高くなっています。
この剣を使わないという選択肢はないと思います。
しかし………。
「2本とも使うことはできるでしょうか?難しいように感じます。」
「リンちゃんならできるよ。」
「そうでしょうか?」
「そうそう。何よりこの剣は2本を同時に使うことを想定した魔法効果だからね。1本だけで使うのはもったいないと思うよ。」
確かにラインハルトさんの言う通りです。
白剣の方は自身の強化、黒剣の方は敵の弱体化。
どちらも速度で敵を圧倒するための効果です。
これは両方を同時に使った方が効果が高いでしょう。
何より兄弟剣なのだとしたら片方だけ使うのは可哀想です。
「分かりました両方とも使ってみます。」
「それがいいよ。」
私はそう言いながらミスリルナイフをしまい手に取った白剣と黒剣を腰に装備しました。
2本の短剣の重さがずしりと来ます。
それがとても頼もしく感じます。
私はラインハルトさんに向き直り口を開きました。
「ラインハルトさんはどの魔剣を使うのか決まったのですか?」
「いや、残念だけど今回手に入った魔剣の中にロングソードは無くてね。僕は今まで通りミケルの作ってくれた武器を使い続けることにするよ。」
彼はそう言って腰にしたミスリルソードに手をやります。
確かに今しがた見せていただいた武器の中にラインハルトさんが普段使うロングソードに部類されるものはありませんでした。
「だからこそ、ミケルには期待しているんだ。早い所魔剣を作れるようになってもらいたいね。」
ラインハルトさんのその言葉を聞いてミケルさんは再びプレッシャーで体を小さくしています。
私はそれが可笑しくて笑いが零れてしまいました。
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