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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第3章 帝国編
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花の都で迷える少女3

 涙をぬぐい、心を静めて、できる限り平静を装って廊下を歩く。大広間の前まで来たところで大きな声が部屋の中から聞こえてきた。


「明の事を少しは考えろ。あれだけ帰りたがっているのに引き留めるのは可愛そうだろう」


 そう言ったのはアルの声だった。


「だったら明と別れてもいいと言うのか? 明への気持ちはそんな簡単な物なのか?」


 そう言ったのはエドの声だった。


 その後も続く二人の怒鳴りあい。それは一貫してアルは私のために故郷に帰すべきだと主張して、エドが帰したくないと駄々をこねる構図だった。

 それは信じがたい状況だった。これが逆だったらすぐに納得できたと思う。わがままを言うアルとそれをなだめるエド、いつもの光景だ。

 でも反対だからその二人の気持ちに胸が痛くなる。本当はアルだってワガママ言って引き留めたいのに、私のために我慢しようとしている。いつもなら我慢するのに、それが出来ないほど私を必要としてくれているエド。

 二人の気持ちが痛いほど伝わってきて、さきほど帰るために悔いを残さないようにしようと決意した心が早くも鈍る。


 二人の言い争いを仲裁したのはジルだった。


「帰るか帰らないのか。最終的に決めるのは明殿の意志。それが大切なのではありませんか?」


 ジルの言葉に部屋の中はしんと静まりかえった。戻るなら今だ。私は何も知らないかのようにふるまって戸を開けた。


「ごめん。途中で出てっちゃって」


「「明」」


 エドとアルの声がハモる。二人に心配かけまいと笑顔を作る。大丈夫かな? 私いつも通りに笑えているだろうか?


「お腹すいちゃった。いただきまーす」


 わざとのんきにそう言って席に座って箸を持つ。冷え切った食事は先ほどより美味しくなくて、家庭のぬくもりを忘れさせてくれるのに丁度良かった。

 私の変化に困惑する二人を置き去りにして、のんきに私は完食した。



 食後は大浴場で汗を流しのんびりした。温かい湯に浸かっていると気持ちもほぐれてくる。木造の湯船は木の香りが漂って癒される。檜風呂みたいな感じ?

 ジルは二人の気持ちに答える必要なんてないって言ってくれたけど、あれだけ真剣に考えてくれる二人に何も答えを返さないまま帰るのはいけないと思う。

 NOという返事でも二人に返さなきゃいけないよね。じゃないと残される二人が可愛そうだ。そんな相手の気持ちまで考えられるくらい余裕が出てきた。


 湯船で頭の中身まですっきりさせた私は、浴衣を着て風呂場を出た。一人だと道に迷っちゃうくらい広い建物なので道案内の人が待っててくれるはずだ。

 のんびり入りすぎちゃったし、仕事とはいえこれ以上待たせるのは悪いなと慌てて廊下に出ると、そこで待っていたのはエドだった。


「エド……」

「部屋まで案内する」


 愛想のない表情で一言呟いて歩き始めた。私も慌ててついていく。妙な緊張感が漂っている。宇治でエドの言葉から逃げて気まずいままだったし、しかもさっきの事があって……。

 エドがあの時の続きを言いたいのだろうな……とは思うんだけど、やっぱり聴くのが怖い。

 前を歩くエドがふいに立ち止まり、夜空の月を眺める。まだ満月には早い少しだけ欠けた月は、日本と変わりなく優しく輝いていた。


「あちらの世界にも月はあるのか?」

「うん。こっちと変わらない」


 エドは月から視線を私に見下ろし、私をじっと見つめる。その真剣な眼差しから目をそらせない。


「私は明が好きだ。ずっとそばにいてほしいと思っている。だから帰らないで欲しい。そう言ったらこの国に残ってくれるか?」


 ……。頭が真っ白になりました。……予想はしてたんだけど、直球でしかもなんだかプロポーズみたいな台詞。しかも真顔すぎて本気度高すぎて、スルーもできやしない。

 何か返事しなきゃと思うんだけど、言葉が出てこない。

 私は日本に帰る。そうはっきり言ってしまえばいいのに、エドの想いを拒否できない自分がいる。ズルい女だ。つくづく嫌になる。


「ごめん。今すぐに返事できない。今はまず大災害を解決する事を考えたいの。帰るかどうかはその後でもいいよね」


 ただの先送りでしかない逃げの言葉。それでもエドは頷いてくれた。


「わかった。大災害が解決するまでは待つ」


 エドの表情が真顔から少し柔らかい物に変化する。ほっと胸をなで下ろす私は完全に油断していた。エドがいきなり私を抱き寄せて、耳元で囁いた。


「大災害が解決したなら一刻だって待ちはしない。覚悟しておいてくれ」


 腰がくだけそうなセクシーボイスが耳に直に伝わってきて、私は力なくへたり込んでしまった。エド反則過ぎ。

 そのまま座り込んでいたら抱き上げられそうになったので、慌てて立ち上がって部屋に向かって歩き始めた。

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