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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第3章 帝国編
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焦る彼らの旅路3

 久しぶりの馬車の旅。馬車の中には私とエドとアルとジル、それに毬夜が加わった。朱里がいた時は騒がしくアルと喧嘩していたが、アルと毬夜は無言で冷ややかな喧嘩を続けていた。ジルはどこか上の空だし、エドは無愛想な表情のまま微動だにしなかった。


 く、空気が重い……。このまま旅を続けるの嫌だな……。この重い空気を打開するには何か話題を振らなければ……。


「あのさ。これから帝国に行くんだし、予備知識というか色々聞きたい事があるんだけど……」

「何が聞きたい?」


 エドに促されて、私は頭を悩ませた。聞きたい事など実はない。それでもなんとかひねり出した。


「例えば……そう、帝国人のタブーとか。ほら国ごとに常識が違ったりするじゃない。確か私が知っている限りは、神聖な頭を撫でてはいけないとか、不浄の左手で食べ物を食べてはいけないとか、国ごとに文化の違いで色々あったから」


 地球にいた頃、私はそういう文化の違いに興味を持って調べた事がある。国が変われば常識が変わる。その違いが面白い。


「帝国のタブーか……。そうだな他の国と違う所といえば、名字を呼んだり家の話をするのは失礼に当たるという事はあるな」

「え! 名字を呼んじゃいけないの? という事は毬夜は名前?」


「はい。本来は家名が別にありますが、その名が呼ばれる事はありません。家の名を出す事は相手への侮辱です。帝国は貴族制もなく、実力主義の社会ですから、親の権威を笠に着たりする人間は馬鹿にされます。ですから家の名は出さない事は暗黙の了解です」


 所変われば文化が変わる。家の話をしてはいけないというのは、随分変わった文化だなと私が思っていたらジルが不思議そうな表情で聞いた。


「あの……名字とか家名というのはなんでしょう?」


 その質問に驚いてジルの表情を伺うが、冗談には見えなかった。それにアルまでも首をかしげている。


「だってアルはアルフレッド・ユズルハで、ジルはジル・ラリックでしょう。二人とも名字があるじゃない。血のつながりのある家族とかにある名前よ」


 アルは私の言葉に首を横にふって異を唱えた。


「ユズルハ王族を意味する尊称だが、同時に国に貢献した人間に与える勲章でもある。だから王族と血のつながりのない臣下が名乗る事もある。一種の称号だな」


 なるほど。ナイトとかそういう爵位の一種なのか。


「私の名前もジルが本名です。ただ本を出す際に、同じ名前の人間が沢山いて紛らわしいので、ラリックという通り名をつけて区別しているだけです」


 つまりペンネームというわけだ。


「じゃあ、もしかしてこの世界的に見て、名字とかない文化の方が一般的なの?」


 エドは腕を組んでしばらく考えた後口を開いた。


「そう言われてみると少ないかもしれない。華無荷他国などは貴族にだけ名字があったりするが、他の国は名字の無い国が多い。それが当たり前になっているから、名字があっても外交上の公式書類なども名前だけで済ませる場合が多い」


 名字がある事が当たり前に育った私には、不便はないんだろうか? と思ってしまうが、この世界ではそれで世界は回っているのだろう。


「創造神である明殿がそのように世界を作られたのではないですか?」


 ジルのその問いに、私はもう一度深く考えてみた。そう言えば私の書いた小説の中で名字が出てくるのはアル達、聖マルグリッド王国の王族だけだ。他の登場人物は名前しか出てこない。ただ単にいちいち名字まで考えるのが面倒なだけだったんだけど。


「確かに……。名字ってつけてなかったかも……。」


 改めて私が適当に作った世界観のルールでこの世界が出来上がっている事に気づかされた。地図にない国。名字の無い世界。穴だらけのこの世界のルールの脆さはすべて私のせいなのだ。

 大災害も何かそういう穴から生まれてしまったのではないだろうか? 急に自分の責任が重くのしかかり呼吸が苦しくなった。その時柔らかく私の手をつつみこむ大きな手の存在に気づいた。


「明。一人で思い悩むな」


 エドの言葉にはっとして顔を上げる。彼の優しい眼差しが私を包み込んでいた。


「こら! 勝手に俺の明に触るな。俺が明を守るんだ」


 アルが子供っぽく張り合って、私の肩を抱き寄せる。ジルはニヤニヤ笑いながら言った。


「私は相談役として選ばれたのでしょう? もし悩み事があればいつでも聞きますよ。面白そうですし」


 人の悩みを面白がるな! とジルに人にらみしてみる。一人静かだった毬夜に目を向けると毬夜はその黒い瞳でまっすぐ見つめて言った。


「私の力は小さなものですが、エドガー殿下のご命令とあれば、可能な限り手を尽くしましょう」


 先ほどまでバラバラに見えたみんなの気持ちが一つにまとまっていく。それはそれぞれの思惑があっての事だけど、それでも私の力になってくれる仲間がいる。そのことに私は感謝した。

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