悲しみの結末5
カナーン公国で私達が待つ間、帝国へ護送される朱里が先に旅立つと聞き、エドに無理を言って会わせてもらった。本来なら謹慎中の罪人なので、面会謝絶だったんだけどね。
「明様」
私を出迎えた朱里は意外に元気そうだった。一仕事やり終えて満足しているのかもしれない。
「朱里。元気そうで良かった。お別れを言いにきたの」
「ありがとうございます。明様。色々怖い思いさせちゃってごめんなさい」
「私は平気よ。それより朱里は大丈夫なの? 蟄居謹慎って」
「帝国に帰ったら屋敷にしばらく幽閉されて出てこられないでしょうね。もしかしたら一生そのままかも」
「そんな……」
朱里は自分の事なのに、あっさり諦めた様子なのが痛々しかった。
「心配しなくても大丈夫ですよ。慣れてます。僕は生まれてすぐに死んだ事にされて、隠れて生きてきたので。屋敷に閉じ込められるっていっても昔に戻るだけです。今回聖マルグリット王国まで旅が出来て、一生分の外の世界を満喫しました」
朱里の笑顔が愛らしい分、一層健気で痛々しく思える。私は思わず朱里の頭を抱きしめた。
「明様!」
私の腕の中で慌てる朱里が可愛い。急いで大人に何てならなくていいのに。朱里が私の腕から抜け出すと、真っ赤な顔で見上げてきた。
「明様……僕の告白を忘れてませんか?」
「朱里が私の事好きだって事? 覚えてるわよ。でも私が抱きしめたかったから抱きしめるの。朱里が可愛いんだもん」
朱里は赤い顔をさらに赤くして、ゆでだこみたいになりながらもじもじした。
「あ、あの……。明様にひとつお願いがあるんです」
「何?」
「僕は兄上のおそばを離れなければいけません。だから代わりに明様が兄上をそばで支えて差し上げて下さい」
朱里の健気さにますますキュンとして、私はまた朱里を抱きしめた。
「もちろん」
私の腕の中であわあわする朱里を見下ろしながら、私は朱里に会いにきた理由を思い出した。
「じゃあ私のお願いも聞いてくれる?」
「お願い?」
朱里が不思議そうな顔で見上げてくるので、にっこり笑いながら言った。
「いつかまた朱里がエドと会える日が来るはず。その時は今度こそ裏切らずに最後までエドの味方でいてあげて」
朱里は私の言葉を聞いて目を潤ませた。そして大きく頷いた。
「何をやってるんだ」
その時部屋が開いてエドが入ってきた。私が朱里を抱きしめてる様子に、呆れているようだ。
「お別れの挨拶」
「悪いがあまり長い時間会わせるわけにはいかないんだ」
もうお別れしなければいけない。名残惜しかったけど朱里の顔を離した。エドと朱里が正面から向き合うと、エドは不機嫌そうな怖い顔をした。それを見て朱里は落ち込みながら口を開いた。
「このたびは兄上にご迷惑をおかけしました」
「まったくだ。無茶してくれる。反逆罪で死罪もありえたんだ。それを蟄居謹慎ですませるのにどれだけ苦労した事か」
朱里はますます落ち込んで、俯いたまま顔をあげなくなったエドは朱里の側まで近づいて、膝をついて朱里の目線に近づいた。
「もう二度と無茶な事はするな。私のためを思うなら、自分の幸せを考えてくれ。私はお前がそばで笑ってくれるのが一番嬉しい」
そう言った時には、エドの顔は怖い顔から優しい顔に変わっていた。その表情を見て朱里はこらえきれずに涙を流しながらエドに抱きついた。エドは朱里の背中を優しく撫でてあげてる。
「ごめんなさい。兄上」
兄弟の感動の和解に私も思わずもらい泣きしそうになった。当分会えなくなるだろう二人はその別れの時を惜しむように、時をすごしていた。
そんな二人の世界を邪魔する、お邪魔虫が登場した。
「そろそろ離れろバカ兄弟」
辛辣な物言いはアルらしかった。アルは勝手に部屋に入ってきて、朱里の隣まで行った。
「手を出せ小僧」
朱里が不思議な顔をして手のひらを差し出すと、アルはその上に指環をおいた。
「これは?」
「俺が封印の魔法をこめた。それを身につけていれば魔法の暴走は押さえられるだろう。短期間で魔法を使いこなすまではいかなかったからな」
朱里が驚いた表情でアルを見返した。アルは照れたように朱里から目をそらした。
「まあ後は自力で頑張れ」
そう言い残して立ち去ろうとするアル。その背中を朱里が服をつかんで引き留めた。
「ありがとうございます。アルフレッド殿下。一生大切にします」
朱里はキラキラ輝くような愛らしい笑顔でアルを見上げていた。いつも喧嘩ばかりしていた朱里の可愛さに、調子が狂ったのかアルは慌てふためいていた。
そんな二人の様子を私とエドは笑いながら見ていた。
第2章終了
長くなりましたが第2章終了です
次回から第3章「帝国編」スタートします
一応この「異世界創造神は女子高生」の最終章になります
よろしければ最後までお付き合い下さい