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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
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悲しみの結末1

 まさに櫂柚が私を襲おうとした瞬間、突然飛んできた本が櫂柚の後頭部を直撃し、櫂柚の動きが止まった。

 その隙を見逃さず、私は櫂柚から走って逃げ出した。


「明殿、逃げましょう」


 そう言って私の手をとったのは、ジルだった。私はジルに引っ張られるようにかけだした。部屋から飛び出し、走りながらジルに話しかけた。


「ジル。もしかしてさっきの本投げてくれたの、ジルだったの?」

「ええ、貴重なカナーン帝国暗黒期の歴史本だったんですけどね。惜しい事をしました」


 走りながら本気で悔しそうな表情を浮かべるジル。人の命より本の方が大事か! と怒りたくもある。


「助けてくれてありがとう。でもどうしてあんないいタイミングであそこにいたの?」

「助けたお礼に絶対に怒らないと約束するなら話しますよ」


 にっこり笑顔がものすごく腹黒く見える。間違いなく私が怒るような事してたんだ。でも聞かないと気になってしかたがない。


「わかった。怒らない」


 ジルは微笑みを浮かべたまま言った。


「明殿がいなくなったと聞いて、使われていないあの部屋に、何か日記とかメモとか残されてないかな……と探してたんです。いずれ『創造神物語』とか小説を書く時の資料になればと思いまして」


 私がピンチの間に心配もせず人の部屋漁って、プライベートのぞき見とはひどい。

 私は無言でジルの顎に頭突きをかましてやった。ジルは痛そうに顎をさすりながら、口を尖らせた。


「怒らないって約束じゃないですか」

「怒ってないわよ、不幸な事故で頭が当たっただけで」


 ジルの背が高すぎて、顎にぶつけるのが精一杯だったのが残念だ。


「なるほど、そうやって人の部屋漁ってるところに、私達が帰ってきたから慌てて部屋のどこかに隠れてたわけね。でも本はどこにあったの?」

「この城の資料室で埃をかぶっていたので少々拝借して読もうかと」


「盗んだわけね」

「人聞きの悪い。お借りしてただけですよ。おかげで明殿を助けられたんじゃないですか」


 無断借用は窃盗と同じだぞと睨んでみる。


「しかし手頃な本が手許にあってよかった。私は人と争った事はないので、櫂柚殿とまともに戦って勝ち目なんてありませんからね」


 アルより細くて弱そうなジルじゃ絶対勝ち目ないもんね。


「それよりそろそろ着きますよ。心の準備はいいですか?」

「着くってどこに?」


「エドガー殿下の部屋ですよ。櫂柚殿の裏切りを早く伝えなければいけませんからね」


 そうだ。エドには知らせなきゃいけない。

 でも今アルが朱里の裏切りを伝えたばかりの頃だろう。その上信頼していた櫂柚まで裏切ってたなんて知ったら、どれだけエドが傷つく事か……。


「言わなきゃだめかな」

「今帝国兵の兵士達を指揮できるのは、朱里殿下か櫂柚殿かエドガー殿下だけです。他の二人が裏切ったなら、エドガー殿下自身が兵を指揮し裁く他はありません」


 ジルの言う通りだった。エド以外に朱里と櫂柚を糾弾できるものなどいない。例えそれがエドにとってつらいものであっても。

 私は覚悟を決めてジルの目を見て頷いた。ジルはそれを見て、優しげな微笑みを浮かべた。


「私達がエドガー殿下をお支えしましょう」

「そうね。例え二人に裏切られたってエドには私達がいる」


 アルだってきっと味方になってくれる。私とジルはエドの部屋に着き、その扉を開けた。


「エド」

「明! 来るな!」


 エドがなぜそんな事を言うのかわからず、部屋の中に入ってしまった。

 するといきなり横から腕を引かれた。首筋にひやりと冷たい感触がして恐ろしい想像が浮かぶ。剣が首筋に当たっていたのだろう。


 私の腕を掴んでいたのは朱里だった。なんで朱里がここにいるの?

 もしかしてアルがエドに話して、朱里を呼び出して修羅場だった? そんな所にのこのこ顔を出して私はつくづく間抜けだ。


「兄上、アルフレッド殿下、明様を傷つけたくなければ、大人しくしたがっていただきましょう」


 朱里の可愛い声が、冷ややかに響き、アルが殺気立つのを肌に感じた。

 そしてエドでさえも恐ろしい表情で朱里を睨んでいた。こんな兄弟が争いあう姿見たくなかった。

 ジルも心配そうな表情で私の方を見守っている。


「朱里やめて。もう兄弟で争わないで!」


 こぼれた涙が頬を伝い、剣へと流れ落ちていった。

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