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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
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眠れぬ夜の宴4

「失礼いたします。着替えをお持ちしました」


 朱里がいなくなってからしばらくした後、扉を開けて侍女が着替えを持ってきてくれた。


「ご苦労様」


 私は侍女が何も気づかずに、部屋の中央まで入ってくるのを待った。そして何食わぬ顔で扉の方へゆっくりと歩きつつ、侍女の背後に回り込んだ。


「痛っ!」


 私は部屋にあった調度品の置物で侍女の後頭部を殴りつけた。侍女は小さな声をあげて倒れた。

 死んでないけど、気を失ってるな。よし! 丁度いい感じだ。

 罪のない侍女には申し訳ないけど、気絶している隙に着ている侍女服を脱がして、私は侍女に変装した。

 侍女がすぐに目を覚まして騒ぎ出すといけないので、時間稼ぎに口を布でふさいで、手をしばっておく。そして開いていた扉から外へ出た。


 予想通り外に兵士はいたけど、うつむきがちにゆっくりと歩いたら、侍女と勘違いしてくれて、何事もなく通り過ぎる事ができた。

 あの侍女が発見されて騒がれる前に、早くここを抜け出さなきゃ。


 しかしここはどこなんだろう? 狭くて階段の多い造りは、城というより塔という感じがする。窓から外を見ても暗くてよくわからない。

 取りあえず地上を目指し、下へ下へと階段を行く。そしてやっと地上にたどり着いた。

 入口にいた兵士を、また侍女の振りでかわし、外へ出たもののここがどこなのかわからない。だからどうやって城に帰ったらいいものかわからない。


 仕方なく塔の周りの庭をうろうろしていたら、突然背後から伸びてきた腕に抱きしめられた。


「……!!」

「静かに。俺だ」


 とっさにでかかった声に慌てて口をふさがれた。この声ってアル!


「助けに来たぞ、明」

「ありがとう。でもどうやってここがわかったの?」


「この首飾りで居場所がわかるだろう」


 そうだった。この首飾りGPS付きだった。監視されてるみたいでやだと思ったけど、ついててよかった。


「アル一人だけ?」

「ああ。エドガーは明の安全第一とかいって、慎重すぎて話があわないしな」


「つまり喧嘩して、一人抜け駆けしてやってきたと」

「まあそんな所だ」


 アルだけだと、防御は出来ても攻撃が頼りないからな……。せめて兵士の2〜3人でも連れてきて欲しかった。


「城までだったら、俺一人でも明を守ってやるぞ」

「うん。ありがとう」


「それで明をさらったのは誰なんだ?」


 質問されてすぐに答えられなかった。だってあの朱里が裏切ったなんて信じたくない。でも事実なんだ。


「反対派の連中なのはわかっているが、まさか宴の最中に騒ぎもおこさずに攫えるとは、誰か味方が裏切ってるとしか思えない」

「……朱里なの。私をこの塔に閉じ込めたのは」


 アルもまた驚きのあまり言葉を失ったように呆然としていた。アルにとっても朱里は、長い旅をへてかけがえのない存在に、なりつつあったのかもしれない……。

 師匠と弟子。文句を言い合いながら、なんだかんだいって仲が良かった。


 しばらく沈黙が続いた後、ぽつりと「そうか」とだけ言った。そして私の手を取って沈黙のまま歩き始めた。


「朱里もね、色々事情があって……」

「事情があっても裏切りにはかわりない。エドガーにどう話したらいいだろうな」


 アルが自分の事以上に、エドを心配するとは思わなかった。アルの意外な優しさに驚いた。


「事実を告げても信じないかもしれないな」


 エドの優しさ、弟思いな性格から予想できた。でもその優しさが朱里を裏切りに走らせたんだ。


「信じてもらえないかもしれないけど。言わなきゃいけないんだよ。そして朱里がどうしてこんな事をしたのかエドは知らなきゃいけない」


 それっきり私とアルは手を繋いでしばらく沈黙のまま歩いた。庭を抜けると高い城壁のような物にぶち当たった。扉とかも何もない。


「どうしてこんな所に? 入口とかないの?」

「出入り口はすべて監視の兵がいるからな。壁を魔法で飛び越す」

 

「アル空を飛ぶ魔法なんてできるの?」

「飛ぶというより、高く跳ねるだな。このぐらいの高さの壁なら問題ない。というわけでおとなしくしてろよ」


 そういったかと思うとアルが私をお姫様だっこした。びっくりして腕の中で暴れると、アルに睨まれた。


「しっかり掴まってないと、落ちて怪我するぞ」

「ごめんなさい」


 素直に謝って、首にしがみつく。なんかアルの顔がにやけてる気がするぞ。なんて思っていたら、すぐにアルが何かをつぶやいた。そしていきなりふわりと飛び上がり、高く高く壁を飛び越えた。

 着地の衝撃もほとんどなく、魔法の凄さに素直に感動した。


「凄い!」

「もっと褒め称えていいぞ」


「調子にのるな! 早くおろしてよ」

「なんなら城までずっと抱いていってもいいぞ」


「バカアル。私の命令聞けないの?」


 私が命令という言葉を使ったら、渋々降ろしてくれた。アルの事友達だと思っているから、本当はこんな風に命令するなんてしたくないのに……。アルのバカ。



 私が閉じ込められてた塔は、罰を受けた王族を幽閉しておく場所で、今は使われていない所だったらしい。城からも近く、アルが案内してくれたおかげで、人目につかずに歩いて戻ってこれた。

 しかしここで難問がある。


「朱里が裏切ってたくらいだから、帝国の味方兵士の中にも裏切り者がいてもおかしくないわよね」

「そうだな。むしろ小僧と外部の人間だけでは、明を攫う事は難しいだろう」


「どうやって朱里に気づかれずに、エドまでたどり着くかよね」


 敵と味方の区別がつかない中、早くエドの所へたどり着かなきゃいけない。どうしよう。


「そこに隠れているのは誰だ!」


 低くするどい声が聞こえた。何者かが隠れている私達に気づいて、そう叫んだようだ。不味い気づかれた。さっきまでの緩い空気とは正反対の緊張した空気がただよった。

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