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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
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作者不明の物語2

 自分が招いた事態ではあるんだけど、なぜか逃げ出したい気分で一杯になった。目の前の人物は一見穏やかで紳士的で、好青年といった雰囲気なのに、なぜこんな嫌な汗が出るんだろう。

 たぶんこの世界でいろんな経験をして培った経験から、要注意人物レーダーが発揮したのだろう。


 銀色の髪を首の後ろできちんと括り、片眼鏡をつけた姿は知識人らしい。その堅そうな風貌を和らげる、柔らかい微笑み。

 アルのような華があるわけではない。エドのような精悍さもない。朱里のような可愛らしさもない。しかし彼らとは別のインテリタイプのイケメンではあった。

 彼こそがジル・ラリック。私が興味を持った本の作者だった。


 なぜ彼がここにいるかというと、私が朱里に彼の本を大絶賛し、作者に一度会ってみたいなんて口走ってしまったせいだ。

 まさかたまたま作者が近くに滞在してて、しかも向こうも会いたいと思ってたなんて思いも寄らなかった。あっというまに朱里は彼を呼び出して連れてきてしまったのだ。


「噂の帝国の姫君とお会いできて光栄です」

「噂?」


「ええ。アルフレッド王子が惚れ込んで帝国まで随行を迫ったとか、しかしエドガー王子の寵姫で二人の間で争奪戦が繰り広げられてるとか、絶世の美女と街中でも噂ですよ」


 とんでもない噂になったもんだ。まあアルを帝国まで連れ出したのは、私の責任ではあるが、二人で争奪戦とか、絶世の美女とかありえない。


「しかしお噂と違って、随分愛らしい姫君ですね」

「……な……」


 美人じゃない。子供っぽいという事の比喩表現だろうけど、それでも柔らかな声で甘く囁かれると、顔が火照ってくる。アルに甘い言葉を囁かれても平気なんだけど、なんで?

 怪しげな美声と、話し方とかそういう違いなんだろう。


「私の作品をお気に召していただけたようで光栄です」

「そう。そうなの。『大災害』の原因を実にリアルに描き出した、表現力・想像力が素晴らしいわ」


 姫っぽいしゃべり方にしてみたのだが、これでいいのか?帝国風だともっと和風なお姫様にした方がよかっただろうか?


「特にこの世界が物語の中の世界というところ。どうしてそんな事を思いついたの?」

「それはこの『大災害』があまりに不自然で作為的だからです」


「不自然?」

「私は今旅をしながら執筆しています。旅先で見聞きしているうちに気がついたのです。世界各地の『大災害』の被害は圧倒的に偏っている。被害が頻発している国と全く興っていない国の落差が激しすぎる。しかし一般の人々はその事に気づいていないようです」


「なぜ?」

「各国の王達が情報統制されているのでしょう。もしそんな情報が知れ渡れば、災害の多い国の人々は少ない国に逃げ出すでしょう。大量の人民の流失、難民の流入。どちらの国も大変な事態になるだから情報統制がされているのです」


 理論整然と説明されて、思わずうなってしまった。思いつきや想像力だけではない。徹底した取材と知識に基づいて小説が書かれるから、あれほど面白い小説がかけるのだろう。


「なるほど。あなたの言う事はもっともだわ。でももしこの世界が作られた物語世界だとして、なぜ『大災害』だなんて理不尽な出来事が唐突に始まったのかしら」

「それは物語を面白くするために、作者がおこしたアクシデントなのでは?」


「私はそんなひどい事しない!」


 私は思わず本音で大声を出してしまい、ジルはびっくりしたような表情を浮かべた。しまった。私は今帝国の姫君。それらしく。


「もしも。もしもよ。作品が作者の手から離れて、勝手に大災害なんて始まったとして、どういう原因が考えられるかしら?」


 ジルの深い洞察力で『大災害』の原因が少しでも分かれば。そんな希望を抱いて真剣な表情で聞く。ジルは眉根をよせて少し考えてから口を開いた。


「もしこの世界が物語だとしたら。この世界はいつ出来上がるのでしょうか?」

「いつってどういう事?」


「作者が物語を頭に思い浮かべた時、ペンを走らせ物語を紡いだ時、本として印刷され発行された時、作品が読者の手に渡り読者が読んで頭の中で物語を想像した時。どの時点でこの世界は形作られたのか。もし作家が平和な物語を描いても、読者が波乱に満ちた物語を思い浮かべたなら、作者の意図しない世界が出来上がるかもしれませんね」

「それでは、読者の数だけ世界が存在してしまうわ」


「そうですね。ほんの少し形を変えた多くの世界が同時に多数存在する。そういう事も考えられる。まあもしもの話ですが」


 私は背筋がぞっとするような恐ろしさを感じた。

 私がこの世界に来る前に、この話の読者はどれだけいた?お気に入り件数やアクセス数だけでは正確な数はわからない。

 だけど、その読者の数だけ『異世界創造神は女子高生』という世界があるなら、作者の私がどうにか出来る問題ではない。

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