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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
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後継者の資質4

 ブアイ族の領域を旅している間は、部族の人間がガイドしてくれた。

 この辺りは道があってないような荒野が続き、目印もないので道に迷いやすいらしい。

 夜なら星がガイドになってくれるが、荒野に出る獣は夜行性が多いので、夜の旅は避けた方がよいという事だった。

 領域外に出る頃には、ブアイ族の人たちも名残惜しげに手を振って見送ってくれた。


 それでもまだ旅は続く。ある時なにげなくアルがエドに話しかけた。


「そろそろアリパシャ王国の領域に入る頃だったな」

「そうなる」


「首都のハグーダットには行かないのか?」

「行かない」


 アルは明らかにがっかりした表情になり、エドは苦笑いを浮かべていた。


「ハグーダットっていう所に何かあるの?」

「アルフレッド殿下はアルンハラ宮殿に行ってみたいんだろうな。アルンハラ宮殿は『カルンハリと魔人』という童話のモデルになった場所だから。昔から王子はあの話が大好きで……」

「こら。勝手に話すな」


 不満げなアルと、楽しそうに笑うエド。いつもと逆だなと思いながら、ふと思った。昔からと前にも聞いた気がする。


「アルとエドの二人って長い付き合いなの?」


 私の問いに答えたのは、エドだった。


「私が13で成人して、初めて外交大使として赴いたのは聖マルグリット王国だった。初めて訪れた王国で、王子は実に気さくに話しかけてくださった」

「昔の事だろう」


「旅の道中の話や帝国の事などを話したら、たいそう喜んで、友達になろうと言ったではないか?」

「子供の戯れだ。忘れろ」


「そういえば二人っていくつなの?」

「アルフレッド殿下も私と同じで今年で22だったな」

「お前の方が年寄りくさいがな」


 確かにエドの方が落ち着きがある分、年上に見えた。子供の頃のエドとアルは同年代で、すぐ仲よくなったのだろうか?その光景を想像すると自然と笑みがこぼれる。


「二人で遊んだわけ?」

「城を抜け出して、森の中を探検した事もあった。その時食べたカラヤは美味しかった」


 旅の途中でエドがくれたカラヤの実にそんなエピソードがあったのか。きっと楽しい思い出が詰まってるから、余計にカラヤの実に思い入れがあるのだろう。


「思い出した。帰りにこの男が狼に出くわして、恐れをなしていたな」

「まだあの頃は剣術も未熟な子供だった。それに臣下を連れずに出歩くのもはじめてだったのだ」


「俺が防御魔法で守ってやって、やっと互角に戦えたんだよな。あの時の悔しそうな顔。あの後だろう。剣の猛稽古しはじめたの」

「昔の事だ」


 昔話が花開く二人は、いつもより仲が良さげに見えた。戦場で見せた息の合ったコンビネーションは、二人の歴史が作り出したものだったのかもしれない。

 アルが帝国に対して偏見を持つようになってしまったのは、アルのお母さんが死んでしまった一件が関係あるのだろう。


 本当はお母さんの死の真相を早く教えてあげて、誤解を解きたいんだけど、そうするとアルがカプア公国への戦争に行くと言い出しかねない。

 それは王様との約束で出来ないのよね。

 じれったい気分で、いつもより親しげな二人の会話を見ているしかできなかった。


 昔話に区切りがついた所で、またアルが話を戻した。


「ハグーダット経由の方が早いんじゃないか?」


 アルの問いにエドは無言の肯定で返した。


「今までも大きな町に立ち寄らなかったのは、帝国の襲撃に巻き込まれるのを予測してだろう」

「そうだ。帝国人同士のもめ事に他国人を巻き込むわけにはいかない。人ごみで襲われたら、周りも被害は免れない」


 そういえば、今まで旅してて、ブアイ族以外の人と交流してこなかった。人里をあえて避けて通っていたせいだろう。

 ブアイ族の集落に立ち寄ったのも、あの辺りでは、他に水を補給できる所がなく、仕方なしだったに違いない。


「だが、その逆も言えるだろう。人目の多い所で大規模な襲撃はしにくい。むしろ人の多い場所を通った方が安全だとも言える」

「そうかもしれないが、それでも敵が何をしてくるかわからない……」


「アリパシャ王国は聖マルグリット王国の友好国。何かあれば理由を聞かずに助力してくれる。だからハグーダットに行こう」


 アルの強引なワガママに、エドもついには首を縦に振った。こうして私達はアリパシャ王国の首都、ハグーダットに向かう事となった。



 アリパシャ王国の領域内を旅していた頃、野営中にアルが私を呼び出した。


「何話って?」

「明。約束を覚えているか?」


「約束って?」

「初めて敵に襲われた時、戦う代わりに好きにしていいと言っただろう?」


 し、しまった。どさくさにまぎれて、すっかり忘れてた。


「で、でも私が約束しなくても、戦うつもりだったんでしょう?」

「それでも約束は約束だ。それとも明は約束を違える気か?」


 そう言われると弱い。一度約束を破ったら最後、信頼を取り戻すのは難しいに違いない。私は腹をくくった。


「わかったわ。好きにしたらいいじゃない」


 私は強く目をつぶって、歯を食いしばってその時を待った。アルの気配をそばに感じ、耳に甘い声が囁く。


「明は俺のものだ」


 その言葉に思わずぞくりとしたのは、悪寒だったのか、それとも甘い囁きに心が痺れたのか、私にもわからなかった。

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