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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
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闇色の襲撃者と戦う男達2

「いいのか?血を見ただけで脅える、明はか弱い女だ……無理をすることはない」


 アルの言う通り、ただの強がりだ。今だって怖くて仕方ない。それでも逃げないと私は決めた。だからアルの鋭い視線を真っ向から受け止めて、まっすぐに訴えた。


「私はここに残る。だからアルも一緒にいて。そしてエドと朱里を助けて」

「断る。帝国人を助ける義理はない」


 私の必死の訴えを、即座に拒否した。アルはエド達帝国の人間を信用してない。それなのに素直に手助けするわけがない事はわかっていた。それでも私にできる事は、私よりずっと強いアルを説得して助けてもらう事しかない。


「不意打ちを受けて、帝国兵士は迎え撃つ態勢も整えられない。圧倒的に不利だ。俺一人の力でどうこう出来ると思っているのか?」

「アルならできるわ。だってアルは私が作った完全無欠の王子様だもん」


 物語のヒーローはピンチに登場して鮮やかに解決する。私の描いた小説の中のアルは、女の子の夢を詰め込んだヒーローなのだ。


「俺は俺だ。作り物じゃない。何でもできると思ったら大間違いだ」

「でも私は知ってる。アルが隠している秘密の力を」


 アルは厳しい顔をこわばらせて、悔しそうにため息をついた。


「まんざら創造神の肩書もでたらめではないようだな。だが今まで隠してきた秘密を、何の見返りもなしに、なぜ帝国人の前で披露しなければならない」

「見返りが欲しいなら。私を好きにしていいよ」


 アルは驚きのあまり目を見開いて固まった。


「私は何の力もない、何も持ってない。唯一私が持っているものなんてこの身一つぐらいしかないから」


 アルは真顔で私に向かって一歩踏み出し、手で私の頬に触れた。私は覚悟を決めて固く目を閉じる。命の危険とは別の危険を肌で感じ、鳥肌が立ちそうだった。


「添い寝ぐらいじゃすまさないぞ。いいのか」


 アルのかすれた声に思わず震えた。生理的嫌悪を理性でねじ伏せてこらえ。私は頷いた。ふいに私の前髪にアルの指先がかすめ、直後に額に柔らかな感触を感じた。

 驚いて目を開けると至近距離にアルの顔があった。


 デ、デコチューされた!!!!


「今はこれぐらいで勘弁してやる」


 私から目をそらしたアルの横顔は、ほのかに赤い気がした。


 その時戦場にまた破裂音が響いた。最初にテントの中で聞いて以来、2度目の音。私は恐怖で身を震わせた。その音を聞いてなぜかアルは楽しそうに笑った。


「やっと準備が整ったか。主役の登場だ」


 アルは右手を固く握りしめ、私に聞こえないぐらい小さな声で、何かをつぶやき始めた。そしてその手を高く掲げ開くと、手のひらから光の玉が現れ、高く昇って途中で止まった。

 太陽の様に明るい光の玉が辺りを照らし、闇夜がいきなり真昼の様に明るくなった。戦場となった野営地で誰もが思わず目を奪われるほど、派手な光の玉はそのまま辺りを照らし続ける。


 目の前で突如繰り広げられた光景に茫然としながら、私は鳥肌が立つほど感動していた。これが魔法の力。ただ光り輝くだけなのに、戦場の空気が一変するほどの存在感を放っている。

 文字で書いて知っていたはずなのに、目の前で見る迫力にはかなわないのだな。


 アルの秘密の力。それは彼が強力な魔力の使い手だという設定だ。ただし厳重に隠され一部の者しかしらない秘密で安易には使わない。物語の中でヒロインのピンチに隠していた力を発揮して活躍する。だってそう簡単に魔法使って解決してたらありがたみがないじゃん。ここぞって時しか使わない方がかっこいい。そんなノリで付けた設定がまさかここで発揮するとは思わなかった。



 皆が光の玉とそれを作りだしたアルに注目した所を狙って、アルは戦場の隅々まで届くような堂々とした声で名乗りを上げた。


「私は聖マルグリット王国第一王子アルフレッド・ユズルハである。帝国の兵士よ我の加護を与える。敵を恐れるな。攻めよ!敵をうち滅ぼせ!」


 左手のひらを水平に持ち上げ、アルは謡うように言葉を紡ぎ始めた。私にはまったく意味のわからない単語だが、思わず聞き惚れて戦場にいる恐怖心を忘れさせるように美しい声だった。

 そしてアルが謡い始めると戦場の各地で不思議な事が起こったのだ。味方の攻撃は敵に傷を負わせられるのに、敵の攻撃は見えない壁に阻まれたように空中で静止して当たらない。

 これもアルの力なのか。あまりに強力な力に言葉も出ない。敵も見えない壁に戸惑い、明らかに動揺している。敵の動揺に追い打ちをかけるように、銃声が次々と響き始めた。

 混戦の中、味方に当てない正確な射撃を見て、私は気付いた。そうか、アルの光の玉はただ見た目の派手さで注目を集めただけではない。視界を良くして銃を狙いやすくするための援護なのだ。


 よく観察すると、多くの弾が敵にかすめたり威嚇したりする程度が多いのに比べ、ただ一人敵兵の急所を正確無比に狙いうち、確実に敵を沈めて行く者がいた。


 その死神の様な恐ろしい銃の使い手はエドだった。1発撃つたびに、隣にいる朱里から弾込めされた銃を受け取り、狙いを定め引き金を引く。

 獣の様に興奮したアルとは反対に、戦場においてもなお淡々と無表情なエド。優しく穏やかで真面目な彼もまた、敵ならば人の命を奪う事に何のためらいもない人なのか、と怖くなった。


 アルは戦場のすべてに目を光らせ謡い続ける。敵も当然アルがいる限り反撃できないのだから、アルを狙おうとする。しかしアルに近づこうとする者は皆、エドの正確な射撃によって地面に沈められていく。

 アルは味方を守る魔法を使うだけで精一杯で、とても敵を迎え撃つ余裕などない。エドの援護があると信じているから謡い続けられるのだろう。

 いつのまにこんなコンビネーションができるほど、二人の間に信頼関係ができたのか?


 ただ二人の強力なコンビは確実に敵の数を減らし、戦意を奪っていく。

 そして形勢不利と見た敵はあっさりと逃げ出して行った。それを追おうとした帝国兵士に、エドは高らかと命じた。


「深追いをするな!負傷者の手当てを優先しろ!ただし警戒は怠るな。速やかに生存者の確認、状況報告をあげよ」


 そのまま矢継ぎ早に各所に命令を飛ばし、戦闘で興奮した兵を統率するエドは王者の風格を漂わせ、近寄りがたいほどの威厳を醸し出していた。


 敵の反撃を恐れたのか、アルはまだ魔法をやめていなかったが、しばらくして大丈夫だと確信したのだろう。腕を下ろし、謡うのをやめた。同時に光の玉が消え辺りはまた灯りだけの薄暗い闇夜に戻った。


「明。約束は守ったぞ。覚悟しておけ」


 アルは最後に不敵に笑って、そして糸の切れた人形の様にその場に倒れた。


「アル!」


 慌てて駆け寄って様子を見ると息はあった。しかし顔色が死人の様に青白い。どうして?なんで?

 私はアルの頭を胸に抱き、助けを呼ぶことしかできなかった。

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