神々の謀2
「失礼ながら、創造神様にいくつかご質問させていただいてもよろしゅうございますか?」
「よいぞ」
なんか帝すっごく低姿勢。でも笑顔でなんか探られてるような……なんだろう?
「創造神様が書かれた小説の中の世界がこの世界。ならばその小説のタイトルをお伺いしてもよろしいですか?」
タイトル!!めっちゃくちゃ恥ずかしい。なにせ読者に受け狙いでキャチーなタイトルにしたからな……。でも帝は笑顔で返事を促してる。仕方ない……。
「『異世界創造神は女子高生』」
帝は満足そうに頷いた。エドガーは怪訝な顔をしている。たぶん女子高生の意味が通じてないんだろうな、この世界に女子高生はいないだろう。
「それでは作者名をお伺いできますか?」
「『斉凛』」
なんかそんな事聞いてどうするんだろう?って質問ばかりだ。帝は本当に何したいんだろう。
「どうやら創造神様が異世界からいらしたのは本当のようですね。試すような事をして失礼いたしました」
今の質問でなぜわかった?そんな疑問を吹き飛ばすようなすさまじい発言が飛び出した。
「創造神様が本当の作者でいっらしゃるならば、当然ユーザIDとパスワードをご存じで、ネット環境があればログイン可能ですよね」
当然のようにさらっと言ってくれた。ちなみにエドガーは何の事だ?という反応。当然だ。今の発言、私が書いた小説がネット小説だとわかっていないと出来ない。小説内の人物がなぜそんな次元の違う世界の事を知ってるんだ?
私は神っぽい振りを取り繕う事も出来ずに大いに動揺した。
「なぜ!それを知っているの?」
「それは創造神様が我が帝国にお越しいただいた時に、直接お話ししましょう。お待ちしております」
謎の帝国になにか『大災害』をふせぐヒントがあるかもしれない。それは今まで単なる私のカンだった。それが今確信に変わった。帝国には何か私の小説に関する情報があるのだ。
なんとしてでも、帝国にいかなければならない。しかし私はアルや聖マルグリット王国と碧海帝国のため、どうしても譲れない話があった。
「妾からも話がある。碧海帝国の将来にとって重要な話しじゃ」
「なんでしょうか?」
「なぜ帝国が鎖国をするのか。それは私にも理解できる。知識の流出をふせぐため。『科学』は『魔法』と違って、才能に関係なく知識があれば誰でも再現できてしまう。国を守り世界に化学兵器をあふれさせないためだという事はよくわかる。しかし過度の国交断絶は諸外国との摩擦を作り、かえって争いの火種を生み出すもの」
帝は先ほどまでの余裕の笑みから一転、ひきしまった鋭い表情をしていた。国家の主の威厳を感じるその顔に、ひるまず話をするのは怖かった。特に先ほどの謎の知識をひけらかされた後では余計に……。
でも、ここで引くわけにはいかない。
「現にエドガー王子は今、諸外国との外交の場で何かあるたびに疑われ、他国人の中には帝国の人間というだけで怪しむ者もいる。人間隠し事をされれば疑いたくなるものだ。これは国にとってもよい事とはいえない」
「何をおっしゃりたいのですか?創造神様?」
「妾は願う。帝国に聖マルグリット王国よりの外交特使としてアルフレッド王子の入国を求める」
私の発言に帝は眉ひとつ動かすだけだった。しかしエドガーは大いに驚いて、私を恐ろしい顔で見た。
「どういうことだ?明」
私はエドガーの質問を無視して話を続けた。
「これにはいくつかの理由がある。まず今王国から提案されている王国と帝国の絆の証、エドガー王子とクリスティーナ姫婚約。これをとりやめてアルフレッド王子を帝国に招く。今まで他国人が入国できなかった帝国国内に入るのだ。十分華無荷田国へ、両国の絆を見せつけられる」
「確かに華無荷田国にはそれで十分圧力になるでしょう。しかしそのような我が国に一方的に不利な方法をとる理由がありません」
「理由はアルフレッド王子自身の問題。そしてそれは両国の今後の外交に大きく関わる」
帝は無言で私の話の続きを待っていた。どうやら話だけでも冷静に聞いてくれそうだ。よかった。
「アルフレッド王子は次期聖マルグリット王国の国王。その国王の帝国への感情というものは将来的に非常に重要だ。そして現在アルフレッド王子は『反帝国』よりの思想だ。そう簡単に覆せぬほど。理由は前王妃殺害に帝国が関与していると疑っているから」
帝は不快気に顔をしかめた。当然だ。濡れ衣を着せられているのだから。
「もちろん、王子の疑いは誤解だ。しかし誤解のもとは帝国の鎖国主義にある。何か事が起こるたびに、『あの秘密主義の帝国ならばなにをしてもおかしくない』と疑われる。前王妃殺害の真相がはっきりしても、帝国への信頼が回復されない限り、今後もまた同様な事が起こる。アルフレッド王子の信頼を得るため帝国に招待し、絆を深める事は帝国にとって大きな利益になると妾は考える」
重い沈黙の後に、ゆっくりと帝は口を開いた。
「確かに創造神様のおっしゃる事には一理あります。しかし聖マルグリット王国との外交も重要ですが、科学の流出は防がなければいけない」
「それについては入国はアルフレッド王子一人のみ、供の人間は護衛も召使も一切入国不可。もちろん王子の帝国内での立ち入り可能場所にも制限を与えればよい。科学について何の知識もない王子がただ見ただけで、その知識を理解できるはずもない」
「供を一切つけないなど、王子も王国の人間も許可するとは思えませぬ」
「そこは私が説得する。フランツ王を説得するカードはある。どうじゃ?」
帝は少し悩むような表情をしている。少しは私の提案を考える気になってくれたようだ。
「わかりました。これは帝国の将来にとって、非常に大きな決断。よくよく検討し返答いたしましょう」
こうして帝と私の初謁見は終了した。私の提案に乗ってくれる事を祈るばかりだ。