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傭兵と黒の魔女  作者: KK
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第4章:鉄の王との激突

赤黒く発光する巨大な単眼センサーが、俺の乗る『テッカブラIII』を真っ直ぐに見下ろしていた。


 大戦時の多脚戦車をベースに、無数のジャンクパーツを装甲として融合させた異形の巨躯。


 無人機でありながら、獲物の隙を執念深く待ち続けるその狡猾さは、間違いなく『統率者アルファ』と呼ぶに相応しい厄介な知性を感じさせた。


「……出し惜しみはなしだ。全員、一気に畳み掛けるぞ!」

 俺の叫びと同時、アルファの背部に増設された重火器群が一斉に火を噴いた。


 地下空間を埋め尽くすほどの、ミサイルと極太のレーザーの豪雨。


「ミラ、左から回り込んで! ヴァンスの死角は私が消す!」


 エレナの『ヴォルフ・ハウンド』が、スラスターを限界まで吹かして弾幕の隙間を縫う。

 彼女の正確無比なライフルが、アルファの砲塔のいくつかをピンポイントで破壊した。


「……ハァァッ!」

 ミラの短い呼気が通信機に響く。


 白銀の高機動機体が凄まじい加速で左翼から突っ込み、両手の熱光学ダガーが銀色の残光を引いて閃く。


 ギィィンッ! ギシッ!


 一瞬で二本のダガーがアルファの左前脚の関節を同時にえぐり、回転しながらもう一本の脚のセンサー群を切り裂いた。


 動物的とも言える超反応で、飛来するレーザーを紙一重で躱しながら、容赦なく刃を叩き込む。


「……邪魔」

 ミラが低く、冷たい一言を吐き捨てる。


 その声に、普段のツンとした明るさは微塵もなく、ただ獲物を狩る猟犬の冷徹さだけがあった。


『――待たせたな。二度も外すほど、俺の腕は落ちちゃいない』

 発作を強引に抑え込んだライオスの声。


 高台から放たれたスナイパーライフルの光条が、ミラの攻撃でバランスを崩したアルファの胸部を正確に撃ち抜いた。


 パキィィンッ! と、強固なメイン装甲に亀裂が走る。


「上出来だ! 終わりにしようぜ、鉄の王様!」

 俺はテッカブラIIIの無骨な操縦桿を押し込み、アルファの正面へと跳躍した。


 分厚い装甲を犠牲にして火線を掻き潜り、ノワール・ブラスターの巨大な銃身を、ライオスが穿った装甲の亀裂へと力任せに突き立てる。


「これで……ッ!」


 ゼロ距離で極大の鉛玉をブチ込もうと、撃鉄に指をかけた瞬間だった。


 ――ピコンッ、ピコンッ、ピコンッ!

 アルファの単眼センサーが、突如として赤から『黄色』へと明滅した。


 直後、アルファは己の前面に展開していたジャンク装甲のパージ用ボルトを一斉に自爆させた。


「なっ……自爆だと!?」


 ズガァァァァァンッ!!


 凄まじい爆発と衝撃波が、至近距離にいた俺のテッカブラIIIを吹き飛ばす。


 同時に巻き起こった莫大な土煙とチャフの濃密な煙幕が、地下空間を一瞬にして覆い尽くした。


「ヴァンス! 無事なの!?」


「……あ、ああ。分厚い装甲サマサマだぜ」

 アラートが鳴り響くコックピットの中で、俺は血の滲む額を拭いながら身を起こした。


 テッカブラIIIの右腕は完全にひしゃげ、ノワール・ブラスターを取り落としている。ロキの爺さんが鍛え上げたフレームでなければ、今の爆発でコックピットごとミンチにされていただろう。


 やがて、換気扇の風で煙幕が晴れていく。


 だが――そこに、巨大な鉄の王の姿はなかった。


『……逃げられたか』

 高台のライオスが、悔しげにライフルを下ろす。


 アルファがいた場所には、千切れたケーブルと重油の跡、そして崩落した巨大な縦穴だけが残されていた。


 奴は己の不利を悟るや否や、装甲の一部を爆破して目くらましにし、迷うことなくさらに深い地下深くへと逃走したのだ。


「獣の分際で、引き際だけは一流の兵士並みかよ……」

 俺は痛む体をシートに沈め、深い溜め息をついた。

 テッカブラIIIは深刻なダメージを負い、俺自身も満身創痍。ライオスも病の発作でこれ以上の戦闘継続は不可能だ。


「合金のコアはお預けね。……見事なまでの、痛み分けってやつだわ」

 エレナの機体が俺の傍に歩み寄り、ノワール・ブラスターを拾い上げてくれた。


「痛み分け?いや、敗北だろうな……」

俺は自分の血の味を噛み締めながら呟いた。


 俺たちの初のアタックは、目的の合金を手に入れることも、アルファを仕留めることができずに終わった。

 かろうじて、救いがあるとすれば、絶望的な防衛網をこじ開け、あの鉄の王の装甲に『亀裂』を入れられた事ぐらいだ。


「……出直すぞ、猟犬ども」

 俺はオープンチャンネルで、兄妹に向けて声をかけた。


「次に顔を合わせる時は、あのバケモノの息の根を確実に止める。……爺さんのガレージで、仕切り直しだ」


 冥界エレボスの奥深く、逃げた獲物の残り香を背に。

 俺たちは傷ついた機体を軋ませながら、一旦の退却を余儀なくされるのだった。

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