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【完結済み】夢見た世界宛ての梟便  作者: 時ノ宮怜
最終章-新たな世界への旅路-
119/122

水のように揺蕩う神々

 力を奪われた。

 俺たちが唯一、神に抗う事のできる武器。

 その力を。


「...............っ!!」


 それは強奪に近く、すでに俺たちの魂に深く根付いたそれを奪われる衝撃は想像を絶した。

 体中を巡っていた全能と錯覚するほどの力が急に無くなり、そのギャップから俺は上手く体を制御できずに膝を着いた。


「あっ!!がぁ......!!うぐぅっ!!!!」

「希空ちゃん.........」


 能力を奪われたことで強制的に分身を解除させられた希空は、一度に大量の分身による経験が流れ込み頭を抱えてうずくまっている。


 九重は誰よりも先に能力を奪われたからか影響が少なく、希空に寄り添い守ろうとしている。


 オウルは大量の能力を行使していたからか、気絶していた。


「オウガ......オウガッ!!」

「............」


 相賀はすでに死を迎えていた肉体を無理やり能力によって動かしていた。能力が切れた事によって、本来訪れるはずだった終わりを唐突に迎えた。


 天使(あまつか)もまた九重と同じで強い影響を受けてはいないようだが、体中の欠損部位から噴き出していた炎が消え、当然のようにそこから大量の血を流して倒れた相賀に縋りついて泣いていた。


 この場は凄惨たる有様だった。

 どうしようもなく、どうしようもない現実がそこにあった。


 心の底から湧き出る、「足りない」という思い。

 力が、生きるための、望みを叶えるための力が。

 奪われた。

 だが、それを取り戻そうにもできない。


 俺たちはただの人間で、俺たちを人間とは思えない能力者にしてくれていた根源が相手なのだ。

 どうあっても勝ちの目がない。


 そんな、現状を生み出した神は―


「????」「なんで?」「ぼく?」「わたし?」「なんで?」「あなた」「ちがう」「これ」「だれ?」


 俺たちの能力を奪ってから何やら混乱の只中にいるようだった。

 それが、何なのかは分からない。

 何が原因なのか、何をしているのか全く持って分からない。

 だけど、確実なのは、彼女は苦しんでいる。

 あの神は、何らかの原因で苦しんでいた。


 チャンスだ。

 そう思った。

 だけど体が動かない。

 3つなんて贅沢は言わない、一つでも増幅があれば一瞬で詰められる距離なのに、そんな距離が絶望的に遠く感じる。

 ここまで戦ってきて、抗ってきて、初めて見せる明確な弱み。

 それを目の前にして、何もできない自分が恨めしい。


 速く早くと焦りだけが募り、体はいう事を聞かない。

 今しかないのに、と藻掻きながら彼女を見れば、さらに状況は変化していた。


 全身が水で出来た彼女の体。

 その胸元、いや胸の中。

 体の中心に輝きが産まれた。


「なに?」「これは?」「どこの?」「ももいろ」「ゆがんだ!」「ももいろ!」


 桃色に輝くそれは、いつか見たことがある気がした輝き。

 どこかで、誰かがその輝きを持っていた。

 だけど、ちゃんとは思い出せない。

 まるで夢の中の出来事のように靄がかかって思い出せない。


 夢.........夢?


 ―――


 夢を見ている。

 永い永い夢を。

 私が望んだ私の理想の世界の夢を。


 街になんら闇なんて存在していない、平凡な毎日を過ごす夢。

 ティリス・アナザーなんてかかわりもしない。

 戦いと不安の日々を過ごすこともない。


 世界は変わらずに平凡でとても甘くて優しい夢。


 朝、普通の家庭のようにお父様と食事をして、お互いに仕事と学校へと向かう。

 その時にはちゃんと行ってきますって言う。


 通学路を歩いていると見覚えのある後姿を見かける。

 三船兄妹だ。

 おはようって言えば二人とも笑って返してくれる。

 二人は時々意見が食い違って口論になったりもするけれど、基本的にはお互いを大切に思い合った仲の良い兄妹だ。

 そんな二人を見るだけで、心が温かくなる。

 途中で希空ちゃんは別の学校だから別れてしまうけれど、晴くんとは同じクラスだから最後まで一緒だ。


 教室に入れば、十六夜くんが元気にあいさつしてくれる。

 十六夜くんは晴くんと仲がいい、やっぱり学校ていうコミュニティに所属しているからそれぞれ別のお友達もいる。それに少しの寂しさを感じつつも、十六夜くんがおおらかな人だから、十六夜くんと晴くんの間に私が入っても嫌な顔をされたことがない。

 それが受け入れられているという実感となって私に染みこむ。


 放課後ではみんなで十六夜くんのお家の喫茶店へいく。

 十六夜くんには悪いけれどお客さんが少なくて友達とゆっくり過ごすにはうってつけだ。

 私達がたどり着くとすでに喫茶店で待っている少女。零さんがいた。

 いつもの少し気怠げなジト目で私たちを迎える。


 しばらく待てば、希空ちゃんも九重くんもやってきて皆で何かをする。ただおしゃべりをしたり、何かゲームをしたり、そうやって日々を過ごす。

 私はそうやって普通を矜持したい。

 それは紛れもない、私の意思。

 私の望み。

 甘い甘い、私の夢。


 だけど、この世界は。

 夢の世界は、私に平凡である夢を見せながらも平凡を許さない。


 今日はもう帰ろうと、夜も深まったからと、皆と解散して帰路につく。

 暗い街。ただ街灯もあって、闇と表現するには足りない暗がりに、一際目立つ黄金の輝き。

 それが形を造る。

 私の形を。


「支配しろ」


 そう告げる。


 私には不要な行動だ。

 私が欲しいものはそこにあるのだから、先ほどまでのあの場所にあったのだから。

 だからそんなことはする必要がないのだ。


「本当に?」


 もちろん本当で、本心だ。

 心の底からそうだと言える。

 だから、必要ない。


「それがいつか覚める夢でも?」


 .........うるさい。


「都合のいい、存在しない夢でも?」


 ......うるさい。


「普通じゃない人に、合わせてくれる人はいてもそれは、その人が優しいだけ。本当の意味で対等で同等の相手なんていないのに?」


 うるさい!


「諦めよう?同じになれないなら、同じ場所にいられないのなら、支配してせめて私の周りから離れられないようにしなきゃね?」


 うるさい!!


「邪魔するモノは全部消して、遠ざけて、新しく作り直したいもんね?」


 ...........................


「だから、支配して、従えて、望むままに、望んだように、私達の願いをかなえよう?りそうのせかいを」

「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」「つくろう」



 .........うる............さい......


 なんとなく分かっていた。

 私の、本当の望み。

 私はオウルと、一ノ瀬さんと同じだ。

 自分が他とは違うことに耐えられない。

 普通であることを許されないことに耐えられない。

 だから、せめて私と同じ普通じゃない人を探したい。

 探して、探して、探して、見つからないのならその時は、

 私が普通であると錯覚できる、生暖かいこの場所だけでも永遠に......


 そうやって産まれたのが私の力。

 ちゃんと自覚するよりも速く、縛り付ける力として産まれ出て。

 名前を自覚して、しっかりと使う様になってからも自分は自由を求めて、他人には不自由を強いて。

 そして、今は。


 黄金に輝く天秤が見えた気がした。


 世界すらも私の都合で変えようとしている。


 ああ、本当に私はどうしようもない。

 お父様に呆れられるのも仕方ない。

 私の周りの人たちが、私からそっと距離を置くのも頷ける。

 こんなにもどうしようもない。


『ほんと、オジョウサマはどうしようもないですねぇ』


 声が聞こえた。

 目の前の黄金の私じゃない。

 もちろん、この私でもない。

 暖かで、だけど妖しく、どろどろに溶けてしまいそうなハチミツのような声。


『そんな力を手にしちゃって、そんなことを願って、カミサマにでもなりたかったんですか?』


 望んで手にした力じゃない。

 本気で願った願いじゃない。

 ただ少しチャンスがあって、ただ少しそうなればいいと思っただけ。


『それで世界を巻き込んじゃ世話ないですよ』


 でも、でも私はどうすればよかったのだろう。

 もっと早くに自分に気が付けば、

 もっと早くに力を手放せば、

 もっと早くに彼らから離れれば、

 最初から、出会わなければよかったのだろうか。


『知りません。私は知りませんよ。ただ、ンフフ、そうやって後悔するフリをするオジョウサマは好きですよ』


 フリ?


『ええ、だってなんとも思ってないでしょう?開き直っているんでしょう?「そうなったのは仕方がない、ちょうどいいから願いを叶えちゃえ」そう思っているでしょう?』


 .....................


『大丈夫。オジョウサマはオジョウサマが思っている以上に醜悪ですよ。私が保証します。ンフフ』


 あなたそんなキャラだったんだね。


『ええ、まぁ』


 知らなかったよ、子供の頃からお世話になっていたのに。

 隠していたの?


『隠していたつもりはないですけど、毒も薬も使い方ですから』


 今更医者っぽい事を言うなぁ


『もう一つそれっぽい事を言うなら、毒も薬になりえますし、薬も毒になりますよ?』


 分かっている。

 あなたがここに来れたのなら、そう言う事なんでしょう?

 この私の想い()が、この世界()に穴を空けた。

 抜け道が出来た。


 これは世界が弱っていたから効いた毒。


 希空ちゃんが複製し、晴くんが増幅した力が引き起こした現象。

 だったら私も頑張らないと。


 ねぇ、あなたの毒を貸して。

 私の毒を上手く使うために。


『いいですよ、新たな同胞には優しくしたいので......私の(トレアム)、存分に』


 うん、あなたのいう私の醜悪をそのままに叶えてしまおう。

 私の理想の世界を創って見せよう。

 こんな黄金の私の綺麗なだけの()じゃない。

 私の我儘を体現した()を生み出して見せよう。


 いつの間にか、暗がりに輝く黄金は消え失せ。

 世界は桃色に光輝いていた。


「私に下れ!『陶酔の夢(アルカ・トレアム)』!!!」

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