3-22、一年生 大南紗代、いきまーす!
「やーーーーーーーーーーーーー。やーーーーーーーーーーーーっ!」
トトオォンッ トトオォンッ パパァンッ!
「いいよ黒川君! もっと上下に振り分けて! 集中っ!」
「やーーーーーーーーーっ!」
パパァンッ! パパァンッ!
Aコート、男子個人組手一回戦。
黒川が足園大付属の大井選手と対戦中。現在、5対4で黒川がなんとかリード。試合時間は残り三十秒を切ったところだ。
「てりゃりゃーーーっ!」
パンッ バシンッ!
「止め! 青、中段突き、有効!」
「ああぁー・・・・・・。まだまだ! 焦らないで黒川君! 相手の出方を待たない方が良いよ!」
「(くっ。こ、こいつ、食らいついて来やがるなぁ。俺も、きょうこみたいに、勝って経験値を上げたいんだよぉ! 勝つよ! 勝ってやるーっ!)」
「続けて、始め!」
タタタタタッ ダンッ! ドドンッ ドドドンッ!
「やーーーーーーーーーーーーぁ!」
「止め! 赤、上段突き、有効!」
「(やった! これでまた、1ポイントリードだ。このまま、時間まで逃げ切れば・・・・・・)」
「黒川君! 残り時間、相手、一気に来るよ! 攻めの気持ちを切っちゃダメだ!」
「(だいじですよ、前原先輩。あと、十二秒、うまく逃げ切って、俺は勝ちます!)」
「続けて、始め!」
ダダダダダダダダ シュッ・・・・・・
「てりゃりゃーーーっ! てりゃりゃりゃ!」
「(そんな突き、もらってたまるかって! よし、避けられる・・・・・・)」
パッカァァァァァンッ!
「(! なぁーーっ?)」
「あああぁぁーーーーっ・・・・・・」
「止め! 青、上段蹴り、一本!」
やぶれかぶれで猛突進してきた相手は、踏み込みもリズムもバラバラで、辺り構わず突きを放ってきた。それを黒川は頭を下げて避けたが、相手ががむしゃらに振り上げた蹴りがそのまま黒川の上段を捉えてしまったのだ。
「(や、やべーっ! こ、ここにきて、相手が2ポイントも逆転・・・・・・)」
「続けて、始め!」
「黒川君、まだ十秒ある! 慌てないで、手堅く慎重に攻めて!」
「やーーーーーーーーーっ! やーーーーーーーーーっ!」
「てりゃりゃーーーっ! てやーーーーっ!」
相手も逆転されまいと必死だ。黒川の攻めに対し、相打ち覚悟で前へと出てくる。お互いの突きが触れ合うが、決定打には至らず。主審も副審も、ポイントを取る判断にまではならない。
「(こ、こいつ! へたな技、出すなよ! 審判が取ってくれないじゃんか!)」
「やぁーーーーーーーーーっ!」
ダシュッ! バチイイィッ!
「やった! ナイス中段、黒川君!」
「止め! 赤、中段蹴り、技有り!」
「(よっしゃ! や、やったぜ! これで追いついた! ・・・・・・残り二秒、いくぜーっ!)」
「続けて、始め!」
「てりゃりゃーーーっ!」
「やぁーーーーーーーーーーーー」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
シュウッ パパァンッ! パパァンッ!
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
ラスト二秒で、開始線を一気に蹴った両者。中段逆突き同士が深くぶつかり合い、副審の旗と主審の手が挙がった。
監督席の前原が見ていた感じでは、黒川の方が速かったように思えたが、判定は相手の有効。
これが決定点となり、黒川は最後の最後で、8対9のポイントで敗れてしまった。
「ち、ちくしょう。なんで・・・・・・あんな時に・・・・・・。ちくしょうー・・・・・・」
「お疲れ、黒川君。最後の突きは、黒川君の方が速かったように見えたんだけど・・・・・・」
「絶対そうっすよ! 俺のが速かったと思います! ちくしょう! なんで・・・・・・」
勝負の世界に、絶対は無い。こういうこともある。身体がぶつかり合うほどに深く踏み込んだ両者の突きは、拳先が主審や副審からは非常に見づらい。角度によっては、まったく見えないほどだ。その技を、一瞬で判断するのが審判。
黒川の突きは、確かに先に届いていた。しかし、審判からすると、相手の方が技として「何か」が上回っていたという判断だったのかもしれない。それは、突きの姿勢か、突きの威力か、踏み込みの深さか、残心の速さか、前原にははっきりとはわからなかった。
黒川が惜しくも敗れ、男子個人組手は長谷川に残りは託された。
それと入れ替わるように、Dコートでは大南が一年生大会女子個人組手で出陣。相手は県立東照宮高校の星川選手。阿部がさっき戦った青藤大足園の星川とは別の選手だ。
「赤、県立東照宮高校! 星川選手!」
「あ。はい!」
「青、県立柏沼高校! 大南選手!」
「はいーっ!」
~~~選手!~~~
「「「「「 星川ー、練習したとおりに! ファイトーーーーーっ! 」」」」」
東照宮高校からの声援がDコートに届く。大南は、開始線で微動だにせず立っている。
監督席では、田村が腕組みをして大南の試合を見守っている。
「(うちやま・・・・・・。一緒に組手のトーナメント戦えなくて、わたし、残念だったよ。その分、ぜったいに優勝するからね! 待っててね・・・・・・)」
大南の目に、さらなる光が加わった。
「勝負、始め!」
「きいいぃぃやぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「(ひっ! びくっ!)」
開始線から一歩前へ、大南はけたたましい声と共に踏み出した。相手はその気合いの声に驚き、居竦んでしまった。
「(な、なに、このひと! こ、声が怖い! 目も、怖いー)」
「きいいぃええぇーーーーーーーいっ!」
ダダダダッ パパァンッパパァンッ!
「止め! 青、上段突き、技有り!」
一年生大会の中では、大南の動きは群を抜いていた。あの等星の川島とも戦えたほど、きちんと形になっている大南の組手。剣道経験がそのまま空手にスライドしているためか、初心者特有のおどおどした感じは全くなく、むしろあの朝香を真似したかのような風格さえ漂っていた。
中学時代まで剣道部だった筋力も伊達ではないようで、ワンツーで技有りを取るほどの速さ。一級の茶帯を取得してから、大南は一気に急成長しているようだ。
「きいいぃええぇーーっ! きいやぁぁーーーーーーーーーっ!」
ダダッ パパァンッパパァンッ パパァンッ!
「止め! 青、上段突き、有効!」
「(つ、つよいよ、この人! あたしじゃ、勝つの無理じゃんー・・・・・・)」
「続けて、始め!」
「きいいぃええぇーーーーーーーーいっ!」
タタタァンッ バッ パカアンッ!
「(わあぁ・・・・・・)」
「止め! 青、上段蹴り、一本!」
もはや、大南の独壇場だった。相手の選手は怯えたように構え、竦んでしまってまったく動けないようだ。
「(相手の人は、今日が初めての試合なんだなぁ、たぶん。・・・・・・よし、それなら、やってみようっと)」
「続けて、始め!」
・・・・・・しーん・・・・・・
「(へ? あれ? このひと、かかってこないの? もしかして、疲れたのかな? よーし)」
「えいやぁー」
たんっ ばひゅーっ
パァンッ! グッ ぐういっ ぎゅるっ ドタアアアァァンッ!
「(ひっ! きゃー)」
「(できた! うまくいった! こういうバランスとタイミングで、やればいいのかぁー)」
「きいぃやぁーーーーーーーーーーっ!」
シュッ バシュンッ ズパアンッ!
「止め! 青、中段突き、一本! 青の、勝ち!」
それは驚きの、鮮やかな一本技だった。大南はわざと構えを緩め、まったく仕掛けずに相手を誘い出した。相手の選手が誘い出され、突きを放ってきたところを撥ね上げ、一気に大きく踏み込んで崩し技を仕掛けたのだ。床に転がった相手へ、不慣れな姿勢ではあったが、大南は的確な突きを決めた。
開始からわずか四十秒。大南は鮮やかに一回戦突破。他の選手も、その組手に驚いている。
「すげぇじゃんか、大南! 上段蹴りだの、崩しからの一本技なんてさぁー。いつ誰に教わったんだぁ? 団体戦よりもしっかりとした組手になってるじゃんかぁ!」
「ふぅー。いえいえ、これまでも、先輩方や多くの選手に、見せてもらいましたから。わたしなりに、やってみたかったんです。でも、難しい技ですね、崩しって? まだまだ練習しなきゃだめだなぁー」
「み、見て覚えたって言うのか? へぇー、やるねぇー。・・・・・・DVDとかを何度も見て、大南なりに研究してたってワケか? いやー、研究熱心さが、活きてきたねぇー」
「田村先輩、わたし、うちやまの分まで戦わなきゃいけないですからね。優勝して、うちやまに報告したいんです。それに、もっと練習して、稽古して、はやく阿部先輩を支えられるように、初段も取りたくなってきたんです!」
「ふーん、すごいねぇー。その向上心は、素晴らしいね。内山は今はちょっと参ってるからさ、もうすこし落ち着いたら、結果報告してやると良いかもねぇー? ま、次の二回戦も油断せずに、しっかりやればだいじだ!」
「はい! がんばります! 田村先輩、次は阿部先輩が小笹さんと戦うんですよね? わたしはだいじょうぶですから、Bコート、おねがいします」
「そうか。わかった。じゃ、俺はまたBに一度戻るからさ、大南もこのコートの試合、特に自分と当たるかもしれないやつの戦いは、よく見とけよぉー?」
「はい!」
完勝の大南の頭をぽんと掌で触れ、田村は阿部のもとへ戻る。大南はDコートで、阿部に向かって笑顔で手を振っていた。それに応えて、阿部もガッツポーズ。
前原もAコートから、大南の快勝する姿を見ていた。長谷川もDコートの方を振り返って見ていたが、その試合内容に「お手上げ」のようなジェスチャーを前原に向かって見せていた。
確かに、空手歴がまだ半年ちょっとにしては、大南はすごく組手らしい組手をやっているから誰もが驚くのも無理はない。
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ! がやがやがやがやがやがや
そして、展開の早いBコートは二回戦へと進む。当然ながら、大澤、矢萩、川島、里月の等星四本柱も順当に勝ち上がっていた。
前原は長谷川の監督役についたが、なんと、相手が体調不良により棄権することがわかった。長谷川はこれで不戦勝となり、個人形のリベンジは出来なかったがそのまま二回戦へ進出することが出来た。次の二回戦を勝てば、長谷川もベスト8入賞だ。
窓から差し込む陽の光は、やや西側に傾き始めた。館内の一部分を照らし出している。
その光の差し込む先に、小笹と阿部がメンホーを装着して待つBコートであった。




