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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第3部・完結編  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第1章 金木犀と、銀木犀
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3-2、わいわいがやがや柏葉祭

   リロリロリロリロリー・・・・・・  リロリロリロリロリー・・・・・・

   リリリリリリリリ・・・・・・  リリリリリリリリ  リリリリリリリリ・・・・・・


 実行委員テント前の花壇には、オミナエシが揺れている。その根元で、コオロギが素敵な音色を奏でていた。その音色は、文化祭の一部となり、素敵な自然のBGMになっている。


「おそいなぁー井上・・・・・・。混んでんのかなぁー・・・・・・。私、お腹空いたよー」

「委員長。これ、軽いもんですけど、食います?」

「ありがとー。ちょこっと、腹ふさぎにもらうねー」


 森畑は、後輩の子と金平糖を食べながら、扇子でパタパタ。

 正門横では生徒会役員が、来校者へチラシとパンフレットを配ってにこやかに対応をしている。


   さく  さく  さく  さく  さく

   さららっ・・・・・・   ふわんっ・・・・・・


 そこへ軽やかに響く小気味よい革靴の足音。秋風に靡く嫋やかな黒髪。そして柔らかく漂う石鹸の香り。

 森畑の横にいる二年生の実行委員は、その様子に見とれていた。


「い、委員長! すごく可愛らしいお客さんが来ました。どこの生徒ですかね?」

「えー? ・・・・・・あ!! ・・・・・・あれはー・・・・・・」


 森畑は立ち上がり、金平糖をなめながらゆっくりとテントの前で手を振った。


「あ! 森畑センパイーッ! おっひさしぶりでーす! って、一週間ぶりか。あははっ!」

「来てくれたのね。まったく、制服でも道着でも、あんたの姿は一発でわかるのよねー」

「え! 委員長、知り合いの子ですか?」

「そうよー。この子、こんな感じだけど、沖縄インターハイでは銀メダル! もんのすごい実力なんだからぁー。ねぇ、小笹ー?」

「くすっ。海月女学院の文化祭は、先週終わっちゃいましたケドね。柏沼高校の文化祭やってるってメールが入ったんで、遊びにきましたよぉー。今日は制服でーすっ。あはははっ!」


 なんと、久々に小笹が柏沼高校を訪れた。話によれば、今日は、他にも海月女学院から遊びに来てる生徒が何人もいるらしい。意外なことに先週は、森畑と川田が小笹の文化祭に二人で遊びに行ったんだとか。

 その時の小笹は、クラスでサーターアンダギーのお店をやっていて、かなり大盛況だったらしい。


   たたたたた  たたたたたたっ

   とてとて  とてとて  とてとて


「あの・・・・・・えっと・・・・・・その、す、すみません。・・・・・・柏葉祭のパンフレットを・・・・・・」

「で、できれば、その、二部ほど・・・・・・」


 森畑と小笹が話し込んでいると、さらにそこへお客さんが来た。中学生のようだが、ものすごく腰が低く、控えめだ。


「いらっしゃいませ! 中学生かな? はい! パンフレット、二部ね! たくさん楽しんでいって下さいね! 実行委員長から直々のお願いでーす」

「へぇー。森畑センパイ、実行委員長なんだぁ? やるねぇーッ!」

「今の子たち、中学生カップルかなー? けっこう柏葉祭、この付近の中学生らもたくさん来るのよねー。すごくもじもじしてたけど、あんなもんかしら、中学生って?」


 先程のもじもじした中学生の男女は、何やらパンフレットを見て、押忍やきそばがどうとか言いながら校舎に入っていったようだ。そして、続々とお客さんは正門から入ってくる。


「委員長、またお客さん来ました。・・・・・・焼きそば、なかなか来ませんがだいじですか?」

「ごめん。もちっと金平糖ちょうだい。私、糖分が足りないみたいー」

「あははっ! じゃ、ワタシも、いろいろ見て回りますねー。阿部チャンとか、他のみんなにも会いたいしーッ! 森畑センパイッ、バーイ!」

「はぁい。小笹もたくさん楽しんできなね! またね!」


 小笹は、制服のスカートをひらりと翻しながら、人混みの中へ駆け込んでいった。


   ざっ  ざっ  ざっ  ざっ  ざっ


「あれ? え! あらあらら? うっそぉ、二人も来てくれたのぉ!」

「初めて来たな、ここの学校は。へぇー、賑わってるじゃないか」

「・・・・・・こんにちは。森畑さん。久しぶりね。・・・・・・へぇ、実行委員長なんだ」


 なんと、小笹が行った後に訪れたお客さんは、これまた意外なお客さんだった。


「まさか、柏沼に来てくれるとは思わなかったよ! なに? 今日は、稽古無いの?」

「私たちも、部活動自体は世代交代したからな。でも、朋子は来月末には国体もあるし、全日本選手権大会も年末にあるし、まだまだ普通に今までと変わらない生活だ。今日は、等星の体育館が耐震工事の点検だかで、稽古はオフなんだ。だから、ちょっとした息抜きだな」

「・・・・・・ここが柏沼高校なのかぁ。なんか、公立独特の雰囲気ね。でも、手作り感があって、楽しそうな文化祭! 有華、どこから見て回ろうか?」

「そういえば、諸岡は? 今日は一緒じゃないの?」

「里央はいま、熱出して寝込んでる。季節の変わり目に弱いんだよな、里央は」

「そうなのね。いやぁ、びっくり! 朝香朋子に崎岡有華のコンビが柏沼高校に来るなんて。崎岡、かわいい服なのね。朝香もすごく、大人っぽい感じだねー。ま、楽しんでって!」


 なんと、等星女子の二大巨頭も柏沼高校へ遊びに来た。この人混みの中、実はまだまだ、意外な人が来ているのかもしれない。

 朝香と崎岡は森畑にパンフレットをもらい、はしゃぎながら二人で人混みに紛れていった。料理部のところをまず行きたいとか、茶道部のお茶会に行きたいとかで、二人で目を輝かせて迷っているようだった。


   わいわいわいわいわいわい  がやがやがやがやがや  ざわざわざわざわ


   シャカシャカシャカシャカ  シュッシュシュッシュッシュッ

   とろり  こぽこぽこぽこぽ・・・・・・


「はーい、お待たせ! こちら、トロピカル珊瑚礁ねっ! こちら、ハイビスカスティーね」

「川田さーん、シロップがそろそろ無くなりそうだよー? メロンがもうないよー」

「まなみーっ、こっちもオーダー。トロピカル珊瑚礁が二つと、ブラックイラブー三つ!」

「まなみー。こっちは、あまあまハニーが二つだって!」

「はいはいはい! アタシに任せてーっ! どーんどん振るからね! 前原、シロップはしゃーないから、他の男子らにヤオリンへダッシュしてもらって! あと五本、買い足しで!」


 前原たちのクラスも、大盛況。トロピカルな南国感満載の模擬店をやっている。

 今年から二年生の修学旅行先は長崎と沖縄だが、前原たちの学年は広島と大阪と京都だったので、沖縄の雰囲気満載のお店がいいという意見が出たら、満場一致で決定だったらしい。もちろん、この発案者は川田だったのだが。他の女子たちも、沖縄に行ったことがなく、やりたかったようだ。


「ハイビスカスの花が無いから・・・・・・まぁ、ムクゲでいいよね?」

「川田さん・・・・・・。それ、どこから大量に摘んできたの?」

「え? アタシの家だよ。いま、いっぱい咲いてるし。よくない? それっぽいじゃん!」


 百円ショップで買ってきた使い捨ての透明プラコップに、ジュースやサイダー、そしてカラフルなかき氷シロップを混ぜて振ったノンアルコールカクテル。そこにきれいなお花を添えて出来上がり。これがまた、思った以上に南国感のある感じになってるのだ。


「まえはら、包丁がどっかいっちゃって、スイカが割れねー。たのむよ、空手部!」

「えぇ? 包丁、どこ行っちゃったんだろう? てか、まぁ・・・・・・僕でいけるかなぁ?」


 前原はクラスの友達に、スイカを割ってくれと頼まれた。絞ってジュースにするのだが、果たしてうまく割れるのだろうか。

 前原は指をこきこき鳴らして、ふっと力を抜いて思い切りスイカへ正拳を矢のように飛ばした。


   キュウンッ!  シュバアッ  パカァァァンッ!  ぱかりっ


「「「「「 おおおおおおおーっ! すっげぇ! 」」」」」


 真っ二つに割れたスイカをみんなで絞って、それを川田がシェイカーでまた振っていた。


「おーっす! 一組も賑わってるねぇー。ノンアルカクテル、いーんじゃないかねぇー」

「あ、田村君。・・・・・・てか、その牛の着ぐるみ、暑くないの?」

「あちぃよ! でも、なんかおもしれーんだよねぇー! 前原も、なんだそのサングラスとタンクトップ姿は?? 川田もなんで海で泳ぐような恰好して、カクテル作ってんだ?」

「なんか一組は、この南国のノリになったんだよー。僕も、この姿や川田さんら女子の姿が、果たして南国風なのかは疑問だけど・・・・・・。ま、楽しいからいいんだけどね!」

「なぁ、前原は休憩時間とか、あんけ? 俺もいま休憩なんだけど、空手道部の焼きそば屋がどーなってっか気になっていてねぇー」

「あ。それならさっき、川田さんと行ってきたよ。井上君も買いに来たって阿部さんが言ってたよ。けっこう忙しいみたいだけど、売れ行きはいいみたい! 料理部のカレーと、今年はいい勝負だってさ!」

「それならいいねぇ! そーかぁ。ま、焼きそばは、部の伝統だしねぇー。誰が最初に始めたのかは、俺は何だか知らねーけどさぁ。川田なら、二十杯ぐれー食うんじゃないんかねぇー?」


 田村は牛の着ぐるみを着て汗だくになりながら、パッションフルーツのジュースカクテルを飲んでいる。飲み干しそうになったところへ、横からさっと川田が少しだけ注ぎ足し、田村のお尻を蹴っ飛ばしてまた戻っていった。


「・・・・・・あのー・・・・・・そのー・・・・・・えっと、『月夜の浜辺』ってやつを、ふたつください」

「あらぁ! 君たち来てくれたのね! 部活動見学以来じゃん! えっと、たしか青木君に磯原さんだったよね? アタシらのお店にようこそ! 月夜の浜辺ね。オーダー入りましたぁ!」

「えっと、川田さん・・・・・・ですよね? 空手道部の見学では、その、お世話になりました」

「あの・・・・・・その、えーと、その・・・・・・。お、お世話になりました!」


 中学生の男女は、かつて高校見学の時に中村へカウンターを返したあの中学生、磯原いそはらひなと、その時一緒に来ていた男子、青木康太あおきこうただった。なんか、ものすごく仲がいいようだ。スタートからずっと一緒に校内を廻っている。


風花ふうかー。ここ、すっごいかわいくなぁい! ねー、みんなで飲もうよぉ!」

「ふーちゃん、こういうお店好きぃー。トロピカルって、ウケるー。かわいくなぁい?」


 さらにまた賑やかになってきた。どうやら、あの時に空手道部の見学に来た藤野風花ふじのふうかが、別な友達と前原たちのお店に来たようだ。


   ひた  ひた  ひた  ひた  ひた


「ヤッホーーーーッ! 川田センパイに、前原センパイッ! あ。田村センパイも牛になってるねぇーッ! ひっさしぶりぃーっ! って言っても一週間ぶりだけど。あははっ!」

「こ、小笹ぁーっ!! 今日はこっちに来てくれたんだ! こないだは、楽しかったよー」

「いらっしゃい末永さん! 海月女学院の文化祭、メールくれたのに行けなくてごめんね」

「相変わらず、テンション高いねぇー末永は。そっちにいる中学生のお客さん、引いてるぞ?」


 中学生たちに加え、小笹も訪れてますます賑やかに。これが、このごった煮のような感じが、文化祭の醍醐味であり楽しさなのかもしれない。


「あらら。ごめんねぇ中学生! ワタシに気にせず、どーぞお構いなく! あははっ!」

「いや・・・・・・えっと、だいじです。その、別に、はい・・・・・・」

「えー? ふーちゃんも気にしなぁい。でも、賑やかなひとーっ! テンション高ぁ!」


   がやがやがやがやがやがやがやがや  わいわいわいわいわいわいわいわい


「おねーさぁん、こっち、注文ーっ!」

「はぁいーっ! ただいまーっ! ・・・・・・じゃ、田村。小笹。またね!」


 川田はまた、お客さんに飲み物のオーダーをとりに行ってしまった。まるで居酒屋で働いたことでもあるかのように、ものすごく慣れた感じでお客さんに対応している。


「そういや、前原さぁ。生徒会で警備係の柔道部だったやつが言ってたんだけど・・・・・・」

「え? なに?」

「なんだか、柏葉祭に、ろくでなしが紛れ込んでるらしーんだ! サイフをすったり、カツアゲしたりする不良グループが、どうやらこの人混みの中にいるっぽいんだよねぇー」

「ふ、不良グループ? どうしよう、先生にも言った方がいいのかな?」

「まぁ、生活指導部の先生らも見回りは既にしてっけど、だからといって堂々とやるとは思えねーしなぁ! 実行委員でも止めらんないだろうから、場合によっちゃお巡りさんだねぇ」

「何事も、ないといいんだけど・・・・・・」

「楽しい雰囲気をぶっこわすようなやつは、きっと、天誅が下されるだろうけどねぇー」


 楽しい賑わいの中に、混ざり込んだ不穏な影。

 果たして、この柏葉祭、平和に終わってくれるのだろうか。前原は田村としばらく腕組みをしながら、考え込んでいた。


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