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84 会議


 アリフォニア王国、王城。

 

 その豪華な会議室。


 本来なら、王が座るべき上座。そこはもちろん空席となっている。

 他の席も本来ならば序列順に並ぶべきだが、今はあえて、拘らずに適当に座っている。

 参加している人数は12人。

 だが、それぞれの勢力の中心人物が、それぞれ複数の補佐などをつれてきていて、実質的には、この会議は三人(・・)の主役によって、行われているといっても過言ではなかった。



 一人は、 コンテア・ダール・ガガ・アントリオ

 中央ルシア正統皇帝国 極東方面軍 筆頭将軍だ。

 コンテア将軍は、すでに初老と言っても年齢で、加齢によって白くなった長い髪を、後ろで無造作に結んでいる。

 だが、その眼光は年齢を感じさせぬほど強く精力に満ち、それでいて年を経て得た経験に裏づけされた落ち着きがある。

 いかにも兵士らしい屈強な体も、まだまだ衰えを感じさせない。


 今回、遠征で帝国軍七万の各軍団を率いる総将軍であり、現状の王都を暫定的に統治する立場の人間だ。

 彼は、この王都の新しい支配者と言ってしまってもいい。そのはずだ。

 だが、話はそう簡単ではない。


 向かうようにして座る、この会議の一人の主役

 レーブス・ダスア・ヨーヒアム

 中央ルシア正統皇帝国 特殊精鋭兵団 団長

 レーブス団長の、年の頃は三十代中盤と言ったところだろうか。指揮官としては、かなり若かった。

 金髪碧眼で、甘いマスクだが、目つきは異様に鋭い。


 彼は一師団の団長であり、率いる兵士の数は、地方に散らばっている兵士を含めても一万にも満たない。

 単純な地位の高さでいうならば、コンテア将軍に比べて、彼は圧倒的に格下だ。

 だが、彼の率いる特殊精鋭兵団は、皇帝直属の師団であり、将軍の指揮下には無い。さらにアリフォニア王国内での活動に関しては、彼には皇帝より自由裁量が全権委任されている。

 言ってしまえば、将軍を無視して好きに行動が出来る立場にあるのだった。

 さらに三年ほど前から、レーブス団長自身も王国内に潜伏し、各種破壊活動を行ってきた。

 すでに王国中に情報網を張り巡らせ、多くの貴族ともコネクションがあり、裏から操ることができる団体もいくつかある。

 この三年間で蓄積された国内の情報はすべて彼が握っている。

 ちなみに闇商人を装って第二王子に近づいていたダスカルパも、彼の部下だ。今も副官として彼の横に座っている。

 さらに今回の王都制圧に関しても、もっとも活躍したのが彼が率いる特殊精鋭兵団であった。

 実質、今の王都の中でもっとも影響力を持つのは彼、レーブス団長である。


 言ってしまえばコンテア将軍は、王都に滞在する七万の兵のみ支配していて、それ以外は総てレーブス団長が握っていると言ってしまっても、過言ではない状態であった。

 

 そして会議室の末席に位置する、主役の、最後の一人。

 ウノール・ガルサ・ディー・サルバニアン公爵

 元アリフォニア王国貴族であり、現在は、中央ルシア正統皇帝国 帝国軍準将軍。

 準将軍と言っても、もちろん名ばかりの位で、帝国軍兵士の部下など一人もいない。

 一応、元々彼の私兵で、クルスティアル王子に貸していた(・・・・・)兵士一万が、今も、王都に滞在しているので、武力もそれなりに持ち合わせているが、帝国軍の準将軍の位は完全に飾りだ。

 帝国は、祖国を裏切った彼に、約束どうりに高い地位を与えていた。

 それには、もちろん帝国側の思惑がある。

 

 王国内の市民や貴族の中では、急に侵略し、王都を占拠した帝国へ対して、もちろん反発や憎しみがある。

 だが、それ以上に許すことの出来ない"憎しみ(ヘイト)の対象"を作りだし、その思いをそらしていた。

それが、"売国奴"ウノール公爵の存在だ。

 『あの"売国奴"のせいで、王都は占領されてしまった』王国の市民や貴族の殆どが、そう思っている。

 裏切り者の彼に、あえて高い位を与え、その地位を確保してやり、そのことによって、解り易い"憎しみ(ヘイト)の対象"と化している。


 今や"売国奴"ウノール公爵は、王国内でもっとも有名で、そして、もっとも憎まれる人物であった。

 



「さて、それでは……、会議を始めるかね」


 コンテア将軍の言葉に、会議室の全員が無言で頷き、承諾の意を表して会議は始まった。

 軍人同士によって行われる会議で、しかもまだ王都はここはまだ最前線と言っても過言ではない状態だ。仰々しい挨拶や儀礼はまったく無い。


 コンテア将軍が、軽く手をあげて指示をすると隣にすわっていた副官が立ち上がり、報告を始める。

「現状、元アリフォニア王国王都"ラーニア"の一時支配は、非常に高い水準で安定しております。

 獲得した王城内の財宝、食料、人、総てが本来は正当皇帝のものでありますが、許可を頂き、一部を兵站へと回させていただいております。

 その為、軍備は整い、兵の士気は高く保たれております。

 また、王都内の市民に対する略奪等も、現状(・・)では禁止しているゆえ、市内の治安も非常に安定し、市民による武力抵抗も起きておりません」


 副官の報告を聞き、コンテア将軍は、満足気な表情を浮かべる。

 それから、ゆっくりと口を開いた。

「今、皆にも聞いてもらった通り、この元王都の支配は上手くいっている。

 だが、もちろん問題が無い訳では、無い」


 今までの表情とはうってかわって、不満気な表情を浮かべながら、言葉を続ける。


「大きな問題が二つある。

 まず、一つは、元アリフォニア王国の継承権をもつ二人の女が逃亡中なことだ。

 これについて、何か言う事はあるかね レーブス団長」


 話を振られたレーブス団長は、表情を変えず淡々と答える。

「両姫を逃がしたのは、我が特殊精鋭兵団の失態。

 自分が責任を持って、発見し捕まえてみせます」


「当然だな。一日でも早く、その女二人を私の所につれてこい」


 それにしても……、

 その二人の女には、本当に感謝しないといかんな。

 コンテア将軍は不満気な表情とは違い、内心では、ほくそ笑んでいる。


 今回の非常に上手くいった王都占領作戦の中で、唯一の汚点。

 それが、あの女共を取り逃がした事だからな。

 逆にこの失敗が無ければ、この若造のレーブスに、すべての功績を持っていかれるところだったわい。


 コンテア将軍は、生粋の武人貴族出身で、ひたすら戦場で武功を立てて出世したきた人物だ。

 その手腕は質実剛健。しっかり軍勢を準備し、兵站を整え、万全の布陣を敷く。

 戦場では、大軍でもって、少軍を討つ。

 実際の戦場において、少数の軍が奇策をもって大軍を討つことなど、殆ど無い。

 彼は帝国の豊富な兵力を背景に、今までの(いくさ)ほぼ総てを、無敗でここまで勝ち続けている。


 そんなたたき上げの軍人であるコンテア将軍は、敵国に潜入して、破壊工作を行う、特殊精鋭兵団の事を心良く思っていない。

 彼の考える"騎士道"から、特殊精鋭兵団の行動は、余りにかけ離れている。

 だが、その功績は認めざるを得ないほどに大きい。

 

 正直、うっとうしい。

 彼は、レーブス団長の事をそう思っている。

 両姫を逃がしてしまい、必死になって追っかけているレーブス団長の様子を見るのは、悪い気分であろうはずがなかった。


「ひとつ、いいですかね」

 急に手をあげて、発言したのは、"売国奴"ウノール公爵だ。

 

 コンテア将軍は、レーブス団長のことを疎ましく思いながらも、その実力は認めてはいる。

 だが、ウノール公爵のことは、欠片も認めていない。

 いや、もっとはっきり言うなら 蔑んでいる。

 武人である彼は、こんな"売国奴"と一緒に机に付くことすら、侮辱と感じていた。

 だが、もちろん、その事は口に出したり、態度に出したりはしない。


 そのうえ一応、形だけとは言えウノール公爵は今や帝国軍準将軍で、この会議室の中では2番目に高い地位の人間なのだ。

 その発言を無視する訳にもいかない。

「ウノール準将軍、発言を許す。なにかね」


「逃亡中の両姫についてです。

 今、聞いていたらレーブス団長が、逃がした両姫を"責任を持って、発見し捕まえてみせます"と、おっしゃいましたが……、」

 ウノール公爵は、自慢のちょび髭をなでつけながら、言い放った。


 「彼には、無理でしょう」


 会議室の中の空気が凍りつく。

 名指しで無理だといわれた、レーブス団長の表情は変わらない。だが、周りにいる副官達が、その発言に真っ青になっている。

 それでも、ウノール公爵は、その空気を知ってか知らずか、平気な顔をして話を続ける。


「すでに、両姫が逃亡してから一週間。かなり王都から離れた距離まで逃げおおせていますでしょう。

 この広い王国内を闇雲に探しても見つかるはずもなく、たとえ発見しても、いまさら王都から軍勢を送っても追いつけるとは、とても思えませんなあ」


 言ってるいることは、たしかに正論である。

 レーブス団長の無表情のまま、何も答えない。

 口を開いたのは、コンテア将軍だった。

「では、どうすれば良いと考える ウノール準将軍よ?

 対案も無しに、ただ批判するだけの意見などいらぬぞ」


 ふふん、と ウノール公爵は鼻を鳴らし、ちょび髭をなでつける。

「鼠の捕まえ方をご存知ですか?」

 まるで教師が、生徒に教えるかのような物言いで言葉を続ける。


「チョロチョロと逃げる鼠を、後ろから追いかけても無駄ですよ。

 無駄無駄無駄。無駄な足掻きです。

 鼠の捕まえ方は、簡単。

 通り道に、罠をしかけておけば良いだけです」


 その偉そうな物言いに、コンテア将軍は、内心で嫌悪する。

 だが、もちろんその思いは外へは出さない。

「それは、『何か策がある』と言う事だと受け取っていいのかね? ウノール準将軍よ。

 詳細を説明して頂こうか」


「詳細は明かせませんなあ。

 ただ、許可さえ頂ければ、この私ウノール・ガルサ・ディー・サルバニアン準将軍。

 皇帝国の為に、かならずや両姫を捕らえてみせましょうぞ」


 勝手にしろ、と、喉まで出掛かったその言葉を飲み込み、コンテア将軍は静かに言った。

「許可する。やってみるがいい」


「はい、喜んで」

 許可をもらったウノール公爵は、恭しく頭を垂れた。

 嫌な雰囲気が会議室を支配したまま、一つ目の問題についての話し合いは、一応の終結を迎えた。



「それでは、次に二つ目の問題についてだ」

 重い空気を振り払うかのようにコンテア将軍が言う。


「皆もすでに知るところだが、我ら帝国による支配を良しとしない、旧王国貴族達が、無駄な抵抗をしようとする動きがある。 

 特に、ダーヴァの街を含む広い地域を支配するアガンタール公爵家、彼らを中心とした東部平野の勢力の動きが非常に活発だ」


 元日本海の北アイル湖沿いにある王都と、ダーヴァの街がある東部平野は、距離が遠い。

 さらにその間には、巨大な山々がそびえるゴーズ山脈もある。

 物理的な距離だけでなく、文化的にも王都のある西地域と、東部平野は違いが多い。

 そんな王都周辺西地域の貴族と、東部平野の貴族勢力は、過去に何度も、主導権争いを行い、内戦にまで勃発した歴史もある。

 いや、過去だけの話ではない。

 現世代の東部平野の貴族達も、クルスティアル第二王子を旗印にして、西地域の王都周辺の貴族に対抗しようと軍備を整えていた経緯がある。

 そして、今、それらの整えられた軍備が集結し、その刃を帝国軍へと向けようとしている。


 それらの軍勢に対して、帝国軍が先手必勝とばかりに、全力で討って出ることはありえない。

 今、支配が完全でない状態の王都を空けるなど、愚策中の愚策といえる。

 軍の一部を向かわせる案が一時考えられたが、それも良い案とは言いがたかった。

 王都と東部平野の間には、王国を横断するゴーズ山脈がそびえている。

 その山脈の向こう側にあるダーヴァの街などの東部平野を攻めるのはかなりの労力を必要とする上に、軍勢を完全に二分する結果になる。

 戦力分断は、基本的に愚策である。

 しかも敵となる、東部平野の勢力はまだ、一箇所に集結している訳でもない。

 現時点では、東部平野に軍勢を送っても、バラバラの敵を探して辺りを彷徨うだけの結果になるだけだろう。

 

 だからと言って、東部平野の勢力が、さらに軍備を整え、帝国への反抗を着々と準備するさまを、黙ってみている訳にもいかない。

「何か、良い案が有る者が居たら、挙手してくれ。下士官の発言も認める」

 コンテア将軍の言葉に反応して複数の副官達が、静かに手を挙げる。

 誰を指名すべきかコンテア将軍が、思案した僅かな時間に、その声が聞こえたきた。


「ひとつ、いいですかね」

 そう発言したのは、もちろん"売国奴"ウノール公爵だ。


 この発言は『意見があれば挙手しろ』と、言ったコンテア将軍の指示を無視した行動だ。 

 だが、やはり形だけとは言え、この会議室の中では2番目に高い地位である"準将軍"のウノール公爵の発言を無視する訳にもいかない。

「ウノール準将軍、発言を許す」


「東平野の勢力に関しても、わたくしめに、良い案があります。

 もちろん詳細は明かせませんが、許可さえ頂ければ……

「駄目だ」

 ウノール公爵の言葉を遮るように、コンテア将軍が否定した。

「東部勢力に対抗する手段に関しては、複数の意見を比較検討し、熟考の上に結論を出さねばならぬ。

 内容を隠したままでは、許可など出せぬ」


「うーむ。それは、仕方ないですなあ。

 それでは、詳細を説明させて頂きましょう」

 ウノール公爵は、またも自慢のちょび髭を撫でながら、自信満々に語りだす。

 

「東部勢力の中心となるアガンタール公爵家、あそこの頭首は優秀だったんですが、近頃はすっかり年老いて、少々ボケつつおりましてねえ。

 実際の所、公爵家も、東部勢力も、息子のオーウェン次期公爵が実権を握っております。

 もちろん、この息子のオーウェン次期公爵も、親に似てそこそこ優秀なのですが……、実はとんでもない親馬鹿でしてなあ。自分の愛娘の為なら、何でもするタイプの男なんですよ」


 そこで、わざわざ一旦、言葉を切り、水差しから水を飲む。

 会議室にいる人間全員が自分に注目している。

 コンテア将軍も真剣な面持ちで耳を傾けている。

 なにせコンテア将軍の手の内には、自分の部下から入ってくる東部勢力の軍勢の動きなどの情報はあるものの、今、語られているような貴族の内部情報などは皆無である。

 会議室内の全員が自分に注目する、その空気を、十分に楽しんでからウノール伯爵は話を続けた。


「その大事な大事な愛娘のエイシャが、実は王都制圧時には、王都内に居たんですよ。

 なんとか、王都を逃げ出すのには成功したようですが、ダーヴァに忍ばせた間者からは、まだ孫娘が帰ってきていない事との連絡を受けています。

 捕まえれば良い交渉材料となりますでしょう」


 その話を聞いたコンテア将軍は、チラリとレーブス団長に視線を送る。

 自分にはまったく王国貴族達の情報が無い為、今、ウノール伯爵が話した内容がどれだけ信用のある話なのか判断しかねる。だが、王国内の情報を多くもつ彼なら判断が付くだろう。

 コンテア将軍は、彼の事を疎ましく思う気持ちはあるものの、その能力は信用している。

 それで、おもわず、意見を求めるようにレーブス団長を見てしまったのだ。


 レーブル団長は、無言で、小さく頷いた。

 それは、ウノール公爵の話が真実である事を示していた。


「詳細はわかった。とりあえず、その案についても許可をする。

 やってみるがいい」


「はい、喜んで」

 許可をもらったウノール公爵は、恭しく頭を垂れる。

 一拍後、再びあげたウノール公爵の顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。


 その笑みを見ながら、コンテア将軍は内心で思いを巡らす。


 この男が本当に有能なら、駒として重宝してやらんことも無い。

 だがしかし

 今、このウノールと言う男が、有能なように見えるのは、情報を持っているからだ。

 王都を制圧したばかりの混乱期の中で、前々からもっていた"情報の蓄積"があるからだ。 

 

 今後、情報収集がすすみ、彼のもつ情報の優位性が無くなった時。

 その時、ウノールと言う、この男自身に価値があるだろうか?

 正直、その答えは、"否"だろう。


 無能な者ならば、それも構わない。

 お飾りの準将軍の位をつけて、浮かれて自慢しているだけの無能者なら構わないのだ。

 無能な者は、無能な者なりに使い道がある。


 だが……、

"自分が有能だと勘違いしてる無能者"

 そんな者が、曲がりなりにも権力を持つなど、害毒でしかない。


 コンテア将軍は、唇の端を歪め、苦虫でも噛み潰したような表情を浮かべる。


 ウノール・ガルサ・ディー・サルバニアン準将軍、元王国貴族の"売国奴"か。

 この男。良い時期を見計らって、消しておく必要があるやも知れぬな。



  ――――――



「"良い時期を見計らって、消しておく必要があるやも知れぬ"

 ひょっとしたら、私に対して、そんな風に考えているやも知れぬなあ」


 会議後。帝国よりあらためて授かった、王都内の自分の屋敷の中。

 ワインを片手に、ウノール公爵は一人、そんな事を呟く。


「まあ、さすがに殺されては困ってしまうが。

 それでも、わざと反感を買う態度を、これでもかと言わんばかりに、とってやったのだ。

 言っている内容がどれだけ正論でも、態度や物の言い方が悪いと、つい過小評価したくなるのが、人の(さが)

 私の事は、十二分に、過小評価してくれた事だろう」


 ワインを口に含みながら、自慢の髭をなでつける。


 王国と皇帝国の国境であり、数百年以上小競り合いが続く紛争地帯『愚か者の道』

 その『愚か者の道』と接した領地を持つウノール公爵は、若き頃から戦場にでて、戦いに身を投じて生きてきた。

 彼だけではない。彼の父も、祖父も、曾祖父も、高祖父も、先祖代々すべての当主達が、戦いに身を投じて、そして、人生の最後を戦場で迎えている。

 ウノール公爵は、生まれ着いての武人であり、戦場においては非常に優秀であった。

 更に『今、私が裏切れば、間違いなく王国は滅びる』と完全に確信した後に踏み切った、その裏切り行為は、クルスティアル王子の武力政変(クーデター)なども視野にいれ、まさに絶妙のタイミングで実行された。

 そんな、ウノール公爵を、単に"無能"と言うのは、確かに過小評価ではあるだろう。


「これで、色々とやり易くなるだろう」


 彼は確かに、自分の事を『田舎者』や『蛮族』と罵った貴族共に復讐したいと言う強い思いがあった。

 だが、もちろん、たったそれだけの為だけに、王国を裏切った訳ではない。

 自慢の髭を撫で付けながら、満足気な笑みを浮かべるウノール公爵。

 彼が、今、何を考え、何を望んで、何をしようとしているのか……


 本当の事を知る者など、当然、誰もいない。


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