85 桜桃
「ぷはぁあ。うめぇええ。
五臓六腑に染み渡るぜぇええええええ」
モヒカンの男、通称"ウロガエル"は、ジョッキの中の火酒を一気に飲み干してしまう。
「おぉおい、ねーちゃぁん。火酒、もういっぱいおっぱい、おくれぇええ」
そう言って、ちょうど、とおりかかった酒場の娘のお尻を、ちょいと撫でる。
「もぅ、止めてくださいよぅ、お客さぁん。うちは、そういったお店じゃないですぅ」
ちょっと垂れ眼で可愛らしく全体的にふんわりとしていて胸もお尻もおっきい酒場の娘。
彼女は、にこやかに笑いながら、モヒカンの男の手を軽く弾き、空のジョッキを取り上げて、カウンターへと行ってしまった。
よっぱらいの、セクシャルな行為にいかにも慣れているといった、かわし方だ。
酒場で働いていると、こんな事は日常茶飯事なのかもしれない。
すぐに、火酒を並々とついだジョッキを持って、カウンターから戻ってきた。
「はぁい。追加の火酒、おまたせですぅ」
「ありがとぉおおおおおおん。ねーちゃぁん。
おっとぉ! 手がすべったぁああああ!」
モヒカンの男は、ジョッキを受け取る振りして、わざとらしく、その豊満な胸を揉む。
酒場の娘は、火酒をこぼさないようにテーブルに置いてから、にっこりと笑いながら言った。
「お客さぁん。これ以上やると、メンドクサイ事になっちゃますよぉ」
そう言って、軽く周りを見る。
「メンドクサイことぉおおお?」
よく解らずにモヒカンの男が、周りも彼女に釣られて、周りを見た。
すぐに、彼女が何を言ってるか理解する。
周りにいる、此処の常連らしきゴロツキ共がこちらを睨んでいた。
どうやら彼女は、この酒場の看板娘であり、彼らの"アイドル"でもあるようだ。
これ以上へんなちょっかいを出すと、確かにメンドクサイ事になりそうだ。
「ふへへっへへぇへへぇ。いやぁあああ。事故だよ、じこぉおお。
本当に事故だってぇええ。他意はないよぉおお。
紳士のおれがぁあああ、わざと触ったりするはず、ないじゃぁああああん!
まじで、まじでぇええええ!」
「ふふ、そぉですね。ここまでなら、事故ですよねぇ」
にっこりと笑ってから、酒場の娘はカウンターの方へ帰っていく。
その後ろ姿、特に揺れるお尻を、名残りおしそうに、モヒカンの男は眺める。
周りのゴロツキ共は、まだ、此方を睨んでいた。
その視線を誤魔化すように、モヒカンの男は、同席している男に話しかけた。
「飲んでる? ちゃんと飲んでるかぁああい?
たのしぃいいく、きもちよぉおおく 飲んでるかぁああい? ヤヌザイちゃぁあああん」
モヒカンの男に話しかけられても、ヤヌザイはぶっちょう面で、フン、と、鼻をならしただけだった。
酒がまったく飲めないヤヌザイは、さっきから物凄くつまらなさそうに、ちびちびと果実水を飲んでいる。
「なんだよぉおおお ヤヌザイちゃぁぁぁああん 連れないなぁああ」
ちなみに、テーブルに座っているのは、モヒカンの男とヤヌザイ二人っきりだ。
差し向かいで、男二人で飲んでいるのだが、さっきからまるで会話らしい会話は無い。
「なあなぁ、さっきのねーちゃぁんのでっけぇオケツ見てたらむらぁむらぁしてきちまったぜぇ。
そうだぁ、この後よぉ、オンナァ 買いにいこうぜぇぇえええええ オンナァああああ。
久しぶりに街にでてきたんだぁあああ、たのしもぉぜええええええ」
「お、女を、買ったりするのは、低俗な輩のする事だ。僕はしない」
ヤヌザイが、妙に強い口調でそう言ってきたので、モヒカンの男は不思議そうな表情を浮かべる。
んんん?
「なんだぁあ? ヤヌザイちゃぁああん。
みょぅぅううに、むきになっちゃてぇえええ。オンナァ買ったことないのかよぉお?
あれぇえ? あれれれれれ?
ひょっとして、ひょょぅっとしてぇえええええええええ……」
モヒカンの男が、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる。
「ヤヌザイちゃぁんって、童貞?」
「う、うるさい! そんな事どうだっていいだろう!
今、そんな事はまったく関係ないことだろう。ぼ、僕は天才剣士なんだぞ、女性には、と、とてもモテルんだ。
ちょっと前だって、ダーヴァの街の食事をしに通ってた酒場で、そこの娘から『いつも、来てくださって有難うございます』って言われたんだぞ。あの娘の僕を見つめる熱い視線は、まちがいなく僕に惚れていたんだ。
それだけじゃない。僕がよく通っていた道具屋の娘だって、街ですれ違ったときに、わざわざ僕に挨拶してきたんだぞ。彼女は、人が大勢いる街の中で、僕を探し当てて、挨拶してきたんだぞ。
とにかく、僕はモテルんだ!」
椅子から立ち上がったヤヌザイは、顔を真っ赤にして、早口でそう言いつのる。
その様子をみて、モヒカンの男は下品に大笑いする。
「なるほど、なぁぁるほどぉ。
ヤヌザイちゃぁあんは 童貞かぁあ。童貞少年かぁあああああ!
ひゃっはぁああああ こいつはいいねぇえ。
よっしゃぁあ。ここでいっちょう筆おろししようぜぇえええええ。
そうだぁ! すっげぇ年くった、腐りかけぇぇええの熟練の商売オンナにぃ筆おろしぃ、してもらっちゃぉうぜぇえええええ。
うわぁあああ、想像しただけでぇえ おもしれぇえええええええ!
行こうぜぇ 行こうぜぇぇええええ!!」
「い、嫌に決まってるだろう。
それに、さっきから言ってるけど、僕は、ど、童貞ちゃうぞ。
それに、それに、そ、そんな事をしに来たんじゃないだろう。ぼ、僕達は、あくまで この町の偵さっ……
「黙れ。クソガキ」
いきなりモヒカンの男が、喋っている途中のヤヌザイの胸倉を掴み、顔をよせて、小声で脅す。
「そぉゆぅ事を口にだすんじゃねぇぇえええよぉ
ほんとぅうに、このがきゃぁあ。あったま悪いなぁああああああ」
「ううううう、うるさい」
堂のはいったモヒカンの脅しに、 剣の腕は立つが人生経験の浅いヤヌザイは、びびりながら反論するのが精一杯だった。
ダスカンの町の酒場。
モヒカンの男、通称"ウロガエル"と、自称"天才剣士"のヤヌザイの二人が雁首そろえて酒を飲んでいた。
冒険者として先輩のモヒカンの男が、後輩のヤヌザイを誘って、二人の親交を深める為に酒に誘った。 と、言うわけでは、もちろん無い。
二人で街へと、食料や物資の買出しをかねて、偵察に出てきているのだ。
『水と炎の旅団』は、かなり有名な冒険者パーティーで、近隣でも顔が売れている。
だが、彼ら二人は、『水と炎の旅団』へ、まだ仮入団中の身で、ギルドへの正式な届け出もしていないし。
あわててダーヴァの街をでてきたので、仮入団した事を知っている者も、殆どいない。
偵察等にはうってつけ、と言う訳だった。
ダスカンの町はさほど大きくは無いが、アリフォニア王国の中心を縦断するゴーズ山脈の中腹にある交通の拠点となる町だ。
そのダスカンの町には、今、非常に多くの旅人や商人が多くの滞在していて、この酒場も席が足らなくなりそうな程に混んでいる。
だが、それだけ人が溢れているのに、店の中の雰囲気は悪く、皆の表情は決して明るい物ではない。
それはそうだろう。
王都が、中央ルシア正統皇帝国の手によって堕ちたことはすでに、皆が知るところである。
王だけでなく、王位継承権を持つ王族もすべて殺されたとの事だ。
一部では、第二王子の二人の姫だけは生き残り王都を脱出したと言う噂もあるが、真実かどうか確かめる術は無い。
いまの所は、このダスカンの街までは帝国軍の手は伸びて来てはいない。
だが、大きな戦いが起こるであろうことは、誰もが解っている。
そして、その戦いに王国が負け、完全に帝国に支配されてしまったら……
帝国が過去に支配した地域の住民は、重税がかけられ、独自の文化や風習は厳しく禁じられ、支配階級である本国の帝国市民を支える為だけの、"農奴"のような扱いになるとも聞いている。
『アリフォニア王国は滅亡しちまうのか?』『帝国に支配されるのか?』『俺達はどうなるんだ?』
酒場の皆は、暗い表情で顔を寄せ合い、不安な未来について、ボソボソと語りあっている。
さらに、酒場に居る者達の多くは、ここに居たくて居る訳ではない。
行商の途中の者、旅の者、王都周辺から戦火に巻き込まれる前に逃げてきた者。
それら多くの者が、ここダスカンの町で足止めされていて、仕方なく滞在しているだけなのだった。
王国内の貴族は、今、おおきく二つの勢力に別れつつある。
"従属派"と"抵抗派"である。
長大な策略と、強大な力で、王都を占領した『中央ルシア正統皇帝国』に、取り入り、或いは媚を売り、今の地位と財産をなるべく確保したいと考える"従属派"。
逆に、王都を占拠した『中央ルシア正統皇帝国』に対して、王国を取り返すべきだと主張し、対抗する為に、戦争の準備を始めている"抵抗派"
ちなみに、王都周辺の貴族達、過去にはその地理的な優位性で平和を感受して、今は直接に帝国軍の恐怖に晒されている貴族の多くが"従属派"なっている。
それに対して、比較的辺境で王国内の主流派から外れていた貴族達、その多くが第二王子を推していて、元から兵を集め武力衝突も辞さないと準備していた者達。其の者達が、ほぼ、そのまま"抵抗派"となっている。
もちろん、どちらの派閥につくか、今は決めず、中立の立場をとる貴族も、まだまだ多い。
だが、この ダスカンの町を含む地域を支配するフォリ伯爵は、明白な"従属派"であった。
なにせ、フォリ公爵の広大な領土の西端は、王都にすぐ近くまで伸びている。王都から、騎馬なら三日かからずフォリ公爵領に到達できてしまう。
少しでも変な動きをすれば、帝国軍七万がすぐにでも攻め込んできても不思議でない距離だった。
其の上、もともと文化に傾倒し武力を軽視していたフォリ伯爵は、普段から大した武力も常備していない。
もはや、這いつくばって平身低頭し、軍のブーツを舐めながら尻尾を振って、すすんで帝国に従属するしか、自分の地位を守る手が無いのだった。
このダスカンの町は、そのフォリ公爵の広大な領土のほぼ東端に位置する。
町から更に東に向かい、ゴーズ山脈に少しに入ったところにある、東ダスカン砦が隣の領土との境界線だ。
その境界線の向こう側。
そこは、今や"抵抗派"の筆頭とも言うべき立場になりつつある、ダーヴァの街を中心として広大な地域を領土としてもつアガンタール公爵家の領地である。
そして、今。
東ダスカン砦で、砦を守る"従属派"フォリ伯爵の私兵二千と、それに向かい合うように布陣する"抵抗派"公爵家の私兵五千が睨みあい、一触即発の状態となっていた。
その為に、誰もその地域を通り抜ける事が出来ない。多くの旅人や商人が、手前のダスカンの町で足止めをくらっている。
もちろん、ダーヴァへの帰還を目指す、『水と炎の旅団』も、例外ではなかった。
――――――
そんな訳で、町に出て、偵察及び情報収集中のモヒカンの男、通称"ウロガエル"と、自称"天才剣士"のヤヌザイの二人だった。
せっかく町にでてきたんだし楽しまなきゃ損だ。と、ばかりにモヒカンの男は、ヤヌザイをからかい、その反応を肴にして、火酒を飲んでいる最中だ。
「なんか、うるせえ奴がいると思ったら"ウロガエル"じゃねーか、久しぶりだな」
「久しぶりだな」
「久しぶりだな」
急に声を掛けられたモヒカンの男は、振り返り、その声の方に顔を向ける。
そこに立っていたのは六人組の冒険者だ。
げげげげげ
モヒカンの男は、露骨に嫌そうに顔を歪める。
声をかけてきた6人組みの冒険者パーティー。
ダーヴァの街で、元は二つしか居なかった"宝石付き"冒険者パーティの、ひとつ。
『月下の戦士団』だった。
声を掛けてきたのは『月下の戦士団』のリーダー
ぼさぼさの髪で無精ひげを顎に生やした野性味溢れる男。
フリット三兄弟の長男、名は、ルード・ダン・フリット
その右隣にやはり同じようにぼさぼさの髪だが、背が高く、その上やたらと手足が長い次男。
名は、ライカール・フラン・フリット
その左隣にやはり同じようにぼさぼさの髪だが、やや背が低くぽっちゃりした体型で、なぜか手にもっているパンケーキをむしゃもしゃと食べている三男。
名は、バスデン・ファン・フリット
三人とも、体格も雰囲気も違うのだが、顔のつくりはどことなく似ている。
その後ろに、奴隷の首輪をつけたままで半裸のような格好をした女奴隷剣士が三人、死んだ魚のような眼で無表情のまま、静かに立っている。
まぁさか、こいつらと、ここで会っちまうぅとはなぁあああ。
嫌ぁぁあああな感じだぜぃ。
そんな思いを隠しながら、へらへらと媚を売るように挨拶を交わす。
「こいつぁあ、ルードの旦那と月下の戦士団の皆様方じゃあないですかぁああ。
いやぁあああ、こんなところでぇええ皆様方にあえるたぁああ、嬉しいですねえええ」
同じ街にいた"宝石付き"冒険者 『水と炎の旅団』と『月下の戦士団』は、非常に対象的なパーティーであった。
名を売り、影響力を高め、他の冒険者達を囲いこみ一大勢力を作る、グルキュフ率いる『水と炎の旅団』
それに対して、フリット三兄弟を中心に、他は奴隷のみによって構成された『月下の戦士団』は、非常に閉鎖的だった。
彼らは魔物退治の専門家で、ただひたすらに難度の高い魔物退治の依頼をこなしていく。
街に滞在中は、自分達が気の向いた時だけ他の冒険者と酒を飲んだりもするが、それ以上の交流は殆どしない。
良い意味でも悪い意味でも、政治にも周りにも興味が無い。
そのストイックとも取れる行動を褒める者がいたが、冒険者仲間からはあまり評判が良く無かった。
例えば、数年前にダーヴァの街の近くで、オークが大発生して問題になったことがあったが、その時に冒険者ギルドをまとめ先頭に立って戦ったのは『水と炎の旅団』だった。
その時、『月下の戦士団』は別の依頼を受けて、どこかに遠征してしまっていた。
普段から、彼らは高難易度の魔物退治の依頼のみを、受けている。
そんな依頼はダーヴァの街だけでゴロゴロとある訳ではないので、近隣の街からの依頼を受ける事も多い。そして、難易度の高い依頼は、クリアするのにかかる期間も長いことが多い。
その為、彼らは遠征が多く、ダーヴァの街を離れがちだった。
『面倒ごとや、大変な事が起こった時にかぎって、居ない』
そんな風に、冒険者仲間からは、思われ、頼りにされていない。
なんだかんだ言いながら、『水と炎の旅団』のグルキュフは、人間的には屑であろうと、ダーヴァの街の冒険者達のリーダーであり、頼りにされていたのである。
そんな対象的とも言える、『水と炎の旅団』と『月下の戦士団』の間柄は、もちろん良くない。
一応、表だっては敵対していなかったが、お互いのリーダーは、内心で侮蔑しあっている。
もしモヒカンの男が『水と炎の旅団』に入団した事を知っていれば、ルードも、声を掛けたりはしなかったろう。
「おい、そこの娘、火酒を三人前くれ」
ルードは通りかかった酒場の娘に、そう注文してから、同じテーブルの空いている椅子に勝手に座る。
モヒカンの男は、強い者には徹底的に媚びる男である。
ダーヴァの街でも、月下の戦士団を見かけたら、揉み手をしながら、せっせとお世辞を言って、持ち上げたりしていた。
その為に、ルードは、モヒカンの男を思いっきり見下している。
店が混んでいて他に空いている席も無かったこともあり、遠慮などなしに、勝手に同じ席に座ってしまった。
もちろん、モヒカンの男の方は、内心では彼と一緒に酒など飲みたくないが、仕方ない。
もともと四人座りのテーブルに、モヒカンの男とヤヌザイの二人で飲んでいた。
ルードが座った後、もう一つの椅子にライカールが勝手に座り、バスデンは隣のテーブルから椅子を持ってきて強引に座る。
そして、半裸の女奴隷剣士三人はテーブル脇に、無言で立ったままだった。
酒場の娘のもってきた火酒を一口飲んでいるルードへ、モヒカンの男がご機嫌を伺うような声で話しかける。
「皆さんも、この町でやっぱり足止めぇええ、くらっちまってるんですかぃい?」
「ああ、俺達も長期遠征してた依頼がやっと終わって、ダーヴァの街に帰ろうとした途中で足止めくらって、もう三日だ。皇帝国が責めて来ようが、王国が滅びようが、俺達冒険家には関係無い話だが、周りの迷惑も考えろってんだ。クソが。
ところで、そっちの若い奴は初めて見る顔だな。てめえの新しいパーティーメンバーか? 名前ぐらい聞いてやるぜ、紹介しろよ」
「ああ、こいつは、おれっちの新しいぃいぃ パァンティィメンバァアアさぁ。
"童貞"のヤヌザイって呼んでやってくれぇええええ」
モヒカンの男が、ヤヌザイをからかうように、たちの悪い冗談を言う。
もちろんルードには、それが冗談だとは解らない。
「ほう、"桜桃"のヤヌザイか。若造のくせに、なかなか風流な二つ名だな」
などと、普通に褒めてみたりする。
だが、もちろんヤヌザイは、そんな冗談を軽く受け流せる性格ではない。急に立ち上がり顔を真っ赤にして、口から唾をとばしながら早口で反論する。
「ぼ、僕の二つ名は、チェ、"童貞"じゃない! だ、断じてぼくは"童貞"なんかじゃない!!
僕は、あの有名な剣聖"アレクサス・カサレス"様の、弟子の"イブラムダル・ダル・アーフェイ"様の、弟子の"サーエルダグルク・ボルフサス"様の、弟子の"モー・イーズ・ポックルド"様の所で、三ヶ月も剣の修行をしてきた……、
"天才剣士"ヤヌザイ・ヴァ・アルドナリンだ!」
「…………ああ、……うん。そうなんか。まあ……、その、がんばれよ」
これは、あまり触れないほうが良いタイプの人物だな。
そう判断した、ルードはあまり深くはつっこまない。モヒカンの男だけに向けて話を続けた。
「で、"ウロガエル"、てめえはこんな所で何やってるんだあ?」
「いやぁぁあ。新人教育がてら、ちょぃいいと、小銭かせぎに遠出の依頼を受けたら、帰れなくなって、このありさまでさぁああああ」
「へっ。嘘いうなよ、クソ野郎。隠してもわかってるぜ。
やたら金の臭いにだけは鼻の利くてめえが、こんな時に、こんな場所にいる理由なんざ、どうせ、これだろう。
人を出し抜く事ばかり考えて、すぐに裏切る、てめえらしい話だぜ」
そう言って、ルードは一枚の羊皮紙を机の上に放り出した。
それは手配書だった。
フォリ伯爵の名の下に発行された手配書。
その上半分には、エイシャ様の顔の絵と共に "必ず生け捕りせよ" "傷つけぬこと" "褒賞金は金貨五百枚" などの文字が大きく書かれている。
下半分には、グルキュフの顔の絵と共に "生死問わず" "元星付き冒険者 要注意" "褒賞金は金貨百枚" などの文字が書かれていた。
捕らえる理由は"国家反逆の不穏分子"と、書かれているが、それは、もちろんでっち上げだ。
帝国へ媚を売りたいフォリ伯爵が、"売国奴"ウノール公爵からの指示で発行した手配書である。
「元グルキュフの腰ぎんちゃくで、今は裏切り者の"ウロガエル"よ。
グルキュフや『水と炎の旅団』に関して、何か情報が有るから、この街にいるんだろう?
教えろよ。 分け前はちゃんとやるからよ。
どうせ、お前達二人じゃ、倒せねえだろ」
そう言って、ルードは、ニヤリと嫌な笑いを浮かべる。
なぁあああんか、このお馬鹿なルードはぁ、大きな誤解してるみてぇえだなぁあああ。
どうやら、俺達がぁ、グルキュフの旦那を裏切ってぇえ、その首にかかったぁ賞金をねらってるとぉお、勘違いしてるぜぇええええ。
ばっかじぇねぇえええか こいつぅうううう。
モヒカンの男としては、腹をかかえて笑いたい気分だったが、もちろん我慢する。
「グルキュフの情報を、よこせ。
俺達、『月下の戦士団』が、やつら『水と炎の旅団』をぶっ殺してやるぜ」
ルードはそう言って、脅すかのように凄んでくる。
だが、彼が凄めば凄むほど、その愚かさと滑稽さに、モヒカンの男は笑いを堪えるのに必死だった。
さぁああああて、どうしよっかなあああ。
どう、振舞えば一番おもしろくってぇえええ、一番得できるかなぁあ?
そして、彼はチラリと、もう一度手配書にも目をやる。
エイシャ様に掛かった金貨五百枚と、グルキュフに掛かった金貨百枚の褒賞金の額を改めて確認する。
帝国からは追われてると解ってたけどぉおおお。
王国内でも手配書が出るってこたぁああ、もぉお、帝国に尻尾ふるぅうう連中が早くも出てきてるって事だよなぁあ。
まあ、ひょっとすると、ある意味、そいつらは未来の現実がしっかり見えてる利巧者なのかもしれねぇえけどなぁあ。
それにしてもぉよぉおおおおお……
エイシャ様とグルキュフの旦那ぁ、二人の首をあわせるとぉおお、金貨六百枚かぁあ。
すっげぇええ 大金だな、こりゃぁ。
しっかもぉ、都合のいいことにぃいいいい、俺様は手配されてねぇえええええええ。
モヒカンの男は、心の中だけで、誰にも解らぬように、様々な未来を思案する
さぁあああてと、俺様は、どう振舞えば、
本当の意味で一番、得できるかなぁあああああああ?




